第6話 6/6

今日は、彼女とデートでとあるレストランにいる。

「ねぇ、悟史君。そろそろデザートにしない?」

「あぁ。そうだなぁ。あと赤ワインのグラスを頼もうかな。すみませーん!」

「はい。ご注文は如何なさいますか?」

「『季節の果物のロールケーキ〜チョコレートソースを添えて〜』を二つと、赤ワインをグラスで一つ下さい。」

「分かりました。ロールケーキ二つ、赤一つですね。」


すぐにロールケーキとワインは運ばれた。

「桜田さんじゃないですか!来てくれたんですか。」彼の名前は、村井という。芸道を始めるには6歳の6/6が良いようだが、俺は、四半世紀を経験した26歳になって6/6というおけいこの日にドラム教室に通い始めた。

そこで、出会った初心者ギタリストが村井であった。彼はギターの音作りが繊細である。手弱女ぶりが感じられる女性的な表現をするギタリストだと感じる。幼い頃は三味線を弾いていたらしい。

彼は、真面目な男だ。

「職場から帰る時にね、ワイパーを見てるとメトロノームを思い出してしまったりしてね、最近ギター弾いてねぇなとか思うんですよ。」

そんな熱心な彼に遅れをとらないように、不器用な僕だけどドラムを一生懸命練習して邦楽のバンドを組んでいる。


「美香。紹介しよう。彼は、俺のバンド仲間の村井だ。」

「いつも、悟史君がお世話になってあります。」

「そんな保護者みたいに言わないでよ。彼女はね。俺の恋人だ。変なことするなよ?」

「分かってますよ。それじゃ、コックの仕事があるので僕はこれにて失礼しますよ。」

「おう!仕事頑張ってくれよ。」


「美香、今日はありがとうね。忙しいのに。」感謝の気持ちを述べる。

「水くさいよ。悟史君。」

「さぁ、食べようか。」

ロールケーキを食べる。キウイとイチジク、そしてさくらんぼの煮詰めたジャムの入ったロールケーキである。クリームは王道の生クリームであり、そこを彩るチョコレートソースが何とも良いアクセントとなっている。

「いやぁ、美味しいねぇ。」思わず赤ワインのグラスを飲む。

「このレストランに向かう途中、カエルが煩かっただろ?」

「ええ確かにカエルが鳴いていたね。」

「ゲコゲコゲコゲコとよ、俺を下戸だと馬鹿にするからよ。飲んでみたけどさ。やっぱり赤くなってる?」

「ニホンザルみたいに赤いわよ。」

「おお!そうか。赤くなってるか。何仕出かすか分からないから、飲み水を頼む!冷たいの。」

「すみませーん!冷たい飲み水お願いします!」


カエルの声にイラついて下戸なのにワインを飲むなんて、何と単純な男なのでしょうね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る