第5話 6/5

だいぶ、歳を重ねたなぁ。すっかりお爺ちゃんの生活になってしまった。

今日は、日曜日である。


「おじいちゃん。明日の熱気球体験楽しみだね。」孫は嬉しそうに微笑む。

「そうじゃな。航平と二人きりで遊べる珍しい機会だからのぉ。」


息子は、都会さ出てシティーボーイの仮面を被って、ナウいように見せかけている田舎っぺだ。俺と似て、都会の生活は合わねぇ。それなのに、都会で女房見つけて、孫まで儲けてしまった。孫が出来ることは嬉しいんだが、息子が精神病拗らせて、刃傷沙汰を起こさないか心配である。ご乱心しないかが気にかかる。


「おじいちゃん。何考えてるの?さっきから魂が抜けてるよ?」

「意識が昇天していたよ。あっ!こりゃまずいな。5時半からの落語番組を録画してなかったよ。」急いでテレビをつけて録画する。しかし、おかしいなぁ。いつもの俺ならば、落語なんて古い物は見ないんだけどね。孫におじいちゃんらしいところを見せようとしたのだろうか。


「さて、風呂入って寝っぺな。」ついつい、方言が出てしまう。たまに孫には通じない事もある。東京まで鈍行でも1日で行けちまう距離なのに、なんでこんなに通じねぇんだっぺか。


本当は東京の学校に通うはずだが、航平はストレスに弱い為に、茨城で静養している。学校も茨城に通っている。だっぺ語(茨城弁)とべらんめぇ(下町言葉)のバイリンガルになってくれることを祈っている。


今日は、授業参観の日であり、人数の少ない山奥の小学校である。ここで、理科の体験学習ということで熱気球を飛ばす。そう、新聞社に取り上げてもらい、小学校の人数を増やす為に。

校庭に大きな熱気球が運ばれて、準備が進められる。


「おお。立派なものじゃなぁ。熱気球と言うものは。見たことはあるが、乗ったことは無い。初めてじゃ。航平、ありがとうな。」

「おじいちゃん。心臓に気をつけてね。」

「分かっているさ。こう見えてもな、若い時はバンジーダイブとか好きだったからな。怖いことには慣れておる。」


全校生徒30人の小さな学校であり、保護者を合わせて60人が熱気球になることになっていた。

20名ずつ乗ることになり、低学年から中学年、高学年の順である。


航平は小学四年生、二番目に乗ることになった。

「すごいねぇ。小学校を見下ろすくらいだよ。」

「胸がどきどきしてくるよ。心が躍るなぁ。」


二人はその時を今か今かと待ち続けた。ついに、その時がきた。


「初めての熱気球。とても楽しみだ。」

事前のホームルームで注意は受けた。お母さんが参観に来る生徒は殆どいない、皆お父さんが多い奇妙な授業参観である。

「それでは出発します。皆さん、呉々も危険な行為はやめて下さいね。」

気球はどんどん上昇する。小学校が小さく見えるようになり、村の形もよく見えるようになった。

筑波嶺と呼ばれて、和歌の上で富士山に比肩する名山である筑波山がよく見える。

歳のせいだろうか、東京方面が霞んでよく見えなかった。

「航平!東京の方は見えるか。目が霞んでよく見えない。老眼だろうな。これは。」

「おじいちゃん。老眼じゃないよ。本当に霞んでる。あんなところでお父さんとお母さんが頑張ってると思うと僕は辛いよ。」

「環境面でもよどんでるし、人的関係面でもホンネとタテマエが横行している。じいちゃんはな若い頃、アスペルガー症候群って言われてな。東京なんて合わなかったよ。」


「…んんっ?はぁ、夢か。本当にアスペルガーなのか?俺は。人と会わないのは。とにかく、環境を良くしないとね。」その日から、その男はリサイクルに取り組むようになった。エコロジーに目覚めたのである。

エゴロジーで未来世代の環境を顧みないのではなく、エコロジーで未来世代の環境を守っていく。そのことが大切なのである。









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