第3話 6/3

その男の名前は、網出(あみで)高次(たかつぐ)という。高次は、日本アルプスの少年ハイジとあだ名されていた。網は、網代(あじろ)のように、「あ」と呼ばれることもあり、高次は「たかじ」と呼ばれていたのが、テンション高いゆえにハイな児童が略されたとも、本名の「高」をhighに変えたともされ、アデルハイジ(アーデルハイド)となり、ハイジとなってしまったのだ。

日本アルプスに囲まれた場所で生まれて、物心ついた時から、よく親に連れられて登山をしていた。

「山はいいよなぁ。達成感をもたらしたり、普段から山は俺達を見守ってくれたり、時には登ってくる俺達に酷いこともあるが、母のようで父のようなそんな存在だよ。」高人は、そう言いながら、山によく登っていた。


いつも誕生日付近には、ウェストン祭が開かれる。彼は、何度か上高地に行き、日本アルプスを名付けたウェストン氏に敬意を表して合唱に参加していた。


ある時、彼は雲仙普賢岳を登ることにした。当初は、一人で登るつもりであったが、測量研究会に所属している黒い軍艦を所有しているセレブリティ留学生のペリー・シュウォルツも雲仙普賢岳に登りたいとついて来た。


「ハイジ、今日の天気はどうかな?」シュウォルツは、流暢な日本語を話しながら、黒いベンツを運転して麓まで向かう。

「天気は良いんだけど、問題はガスがかかっていないかどうかだね。」雲仙普賢岳は、火山である。噴火をして何名も犠牲になっている。火山活動は落ち着いたが、慎重に登らねばならぬ。

「ハイジ、僕はね。子どもの時から山をいかに早く踏破出来るか挑んで来た。でも、日本に来てからゆっくり楽しむことが大切だと思ったの。」ペリーは、山に対する姿勢を語り始めた。

彼が言うことには、春は山桜、夏には山から出る湧き水の冷たさに心が癒される。秋は紅葉が綺麗で、冬は登山には厳しい時期だけど、それでも温泉のある山小屋に泊まったりして心を癒すことができる。日本の山は、ゆっくり登ることの楽しみを教えてくれたということである。


四季があるのは、日本だけだと誤解があるが、世界中に四季はある。しかし、これほど色とりどりの風景を見せてくれるのは日本において他にはないであろう。


ペリーとハイジは、この日に起きた噴火で亡くなった人々を悼みながら、山頂を目指した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る