第2話 6/2
夢を見た。日本はようやく開国した。横浜港と長崎港は開港され、欧米列強との通商を開始した。
ふらっと洋食店に入った。
「店主、カレーライスを頼む。何だか今日は腹が減ってな。今なら甘露煮以外も食べられる。」
「分かりました。今調理しますね。最近グリーンカレーを始めましてね。ほら、日本人ってすぐカレー見ると人の排泄物みたいだって気味悪がっているでしょ?だから、ほうれん草いっぱい入れて、緑色にしたんですよ。」
「趣深いなぁ。それは、ではそれをいただこう。」
「ありがとうございます。」
暫くして、カレーとライスが運ばれてきた。
二つのソースポットと一つのライス。
「先生は。横浜なんて初めて来るお方でしょう。」
そんなことはない。私は、度々訪れているはずだ。
「いえ、そんなことはありませんよ。何度も訪れていますよ。」そのように返答したが、マスターは笑っていた。「嘘おっしゃい。その格好を見ればわかりますよ。あなた田舎者でしょう。とにかく、本場の横浜カレーも食べてもらいたくてね。」何を言う。私は田舎者ではない。とは言え、都会のヤングでもないが。
牛肉が入っている。伸び伸びと育てられた牛のエキスがこの中に滲み出ている。井伊の彦根藩が唯一薬として売り出していた、養生薬として食べられていて、庶民は口にする事が難しかった牛肉がこうして庶民も食べられるようになったのだ。
「マスター、いや店主様、このカレーは如何して食べるのが良きか?」
「お好みの量をお掛け下せぇ。それが一番でぃ。」店主は急に下町を気取った。
「分かりました。」
まずは横浜カレーのルーを先に食べる。人参やジャガイモの他にも数多くの香味野菜が含まれている事が感じ取れる。うーん。実に美味。
そして続いて、グリーンカレーの方を食べる。ほうれん草が効いていて、スパイスが抑えめであり、それでいて飽きさせない絶妙な味わい。何処か日本の懐石を感じさせる禅様式や和のテイストが垣間見える。これもまた美味い。
続いてライスと共に頂く。これはグリーンカレーから食べた方がいいなぁ。
生クリームの濃厚な味わいとスパイス、そして日本の昆布や鰹の出汁が微妙に感じ取れる。これは、和魂洋才とも言うべきものであろうか。とても上品である。
続いて、横浜カレーをライスと頂く。
数十種類のスパイスと、野菜の味が感じ取れるカレーである。ライスと共に食べると、良い二人組のユニットだと感じる。ライスという土台、つまりカホニストがいて、カレーというギタリストが弾き語りをしている。単純でもそれでいて趣深い。
「いやぁ。美味しかったですよ。本当にありがとうございました。」
お金を払って外に出る。
「さて!腹ごなしに街を散策するかな。」細い路地に出た。こういうところを辻とか言って、辻斬りが発生するんだよなぁ。
「おい!テメェ。俺を裏切りやがったな!問答無用。」なんて事を考えていたら、背後から侍が刀を抜いていた。
「おう!どうしたんだ?そんなもの抜いて。」
「どうしたもこうしたもねぇよ。あの洋食店に二人で行こうって言ったのに、約束破ったじゃねぇかよ。このオムツ野郎!」
「失礼だが、君は誰だ?」
「お前どうしたんだ?俺のことも忘れちまうなんてよ。俺は新撰組一番隊隊長兼撃剣師範の沖田総司だぞ。忘れんなよ。土方。」
「そうだったな。それで俺は土方歳三。約束を破っちまったんだ。ここで死んでも良い。さぁ。」
「お前は必要な存在なんだよ。鬼の副長さん。確かにお前が死んだら、そりゃ俺が副長になるかも知れねぇ。でも俺は新撰組の実質的トップの副長の器じゃねぇ。だから、今度連れて行ってくれよな。それで許す。」
「ありがとよ。沖田。これからも頼りにしてるぜ。」
「あぁ。こちらこそ頼むよ。今日は一段と小便臭いな。」
そうか。俺が田舎者だと思われたのは、肥溜めの臭いと勘違いされたのか。イケメンなのに夜尿症って説もあったからなぁ。
そこで目が覚めたのであった。
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