第42話 ナオミと友達

 あの事件があった後、しばらくして女王からナオミの家族とマキュリアルに謁見を希望してきた。ナオミは、およその話は見当がついていたけれども、お母さんにも話さなかった。

 女王の心情からからして、これ以上女王として止まっているのはエルフの未来に影を投げかけると思っていると推測できた。

 女王はルフクーダエと違って、エルフとダークエルフの両種族の真の幸せを願っており、女王自信が女王の地位にいることによって、エルフの結束に亀裂が入ることだけは避けたかったはずだった。

 謁見の当日、マキュリアルは何故自分が女王に呼ばれたのか不思議がっていた。


「ナオミ様。何故私ごとき下賤の者が、女王がお会いになりたいと思ったのでしょうか?」

「マキュリアル。貴女は下賤の者ではありません。

 生まれ出た地位によって、下賤とか高貴と決めるのは人の悪しき習慣からであり、本来ならば自然は平等に生命を吹き込んでいるのです。

 この素晴らしい自然から見れば、我々人族は皆平等に生まれ出た、同じ価値のある命なのです。

 マキュリアル、視点を変えてください。

 野にある花はどれも価値があり、どれ1つとっても下賤と言う価値の花は存在しないと言う事を」

「分かりました。

 ナオミ様の言葉は私にとってはまさに宝の山で、一言一言が心に響きます」

「そう言ってもらうと嬉しいです。

 でも、私もお父様と女王から教わったのを、そのままマキュリアルに言っているだけですけれどね」

「それでも、ナオミ様はそれらの言葉を体現なさっているのが素晴らしいと思います」

「ありがとう。そう言ってもらうと嬉しいです。

 それで、女王がマキュリアルと謁見したいと思ったのは、おそらくルフクーダエの事だと思います。

 実の姉を信じていたのに、裏切られたのですから」

「私も裏切られたのですが、女王はそれ以上にショックを受けたのは私でも分かります。なにせ、血の繋がった姉ですからね」

「女王自信でないと本当の辛さは分かりませんが、謁見をご希望されたのは、マキュリアルからルフクーダエの真の姿を知りたいのだと推測できます」

「そう言うことですか。分かりました。

 知っている限り話したいと思います」


 ドアの外で誰かがノックをした。

 執事のスルルで、ドドルミナスの件で長期の休暇をとっていたのが、今日から復帰したのだった。

 ナオミの部屋に入って来て、いつもと変わらぬ口調で言った。


「もうすぐ女王様との謁見の時間になりますので、謁見の間にお越しくださいませ」

「ありがとうスルル。

 ところで、お父様はお元気?」

「気を使って頂いて、ありがとうございます。

 父はとても元気で、以前よりも活発に動いているくらいなんですよ」

「魔法で、意識をコントロールされていたのが無くなって、本来のドドルミナスに戻られたのは朗報ですね」


 スルルは目を輝かせながらナオミに話し出した。


「これも全て、ナオミ様達のおかげだと父が言っておりました。

 私も、本来の父に戻ってくれてとても嬉しいです。

 ナオミ様。本当にありがとうございました」


 ナオミは、スルルに微笑んで返答をした。

 横で聞いていたマキュリアルが、スルルに言った。


「スルル、初めまして。

 貴女もナオミ様に助けられた口なんだね」

「マキュリアル様ですよね。

 はい、精神的にいつも助けて頂だいていたのですが、今回は父の件で助けて頂きました」

「我らのナオミ様の徳は、どこまで大きいのやら見当もつかないよ」

「マキュリアル様は、聞いた話と随分と印象が違いますね」

「スルルのお父さんと同じで、本来の自分を取り戻せたからね。

 以前の私は、ルフクーダエの奴隷状態と同じだったんだよ。

 生まれ変わった様な気が最近しているんだよね」

「あ、同じです。

 父も同じ事を言っていました。

 ナオミ様によって、自分は生まれ変わったと。

 あ、すみませんでしたナオミ様。

 女王様との謁見の前に私的な話をしまして」

「全然大丈夫ですよ。

 それよりも、私はこの森に来てまだ日が浅く、友達が少ないので、もしよかったら、私の友達になっていただけたら嬉しいのですが?」

「滅相もありません。私の様な者が、ナオミ様のお友達になれる訳がありません」


 ナオミとマキュリアルは、お互いの顔を見て少し笑った。


「マキュリアル。多分、貴女の出番ですよ」

「私もそう思いました。

 スルル、よく聞いてください。

 生まれ出た地位によって、私の様な者とか高貴とかを決めるのは人の悪しき習慣からで、本来ならば自然は平等に生命を吹き込んでいる。

 この素晴らしい自然から見れば我々人族は、皆平等に生まれ出た同じ価値のある命なんだよ。

 スルル、視点を変えなくては。

 野にある花はどれも価値があって、どれ1つとっても、私の様な者の花など存在しないと言う事を」


 スルルは真剣に受け止めて、マキュリアルに言った。


「分かりました。喜んでナオミ様のお友達の輪の中に入らせてもらいたいと思います。

 マキュリアル様は、ナオミ様の警護をなさっている方だけあって、さすがに違いますね。一言一言が心に響きます」

「あはは。それは勘違いしているよ。

 スルルが部屋に入って来る直前に、ナオミ様に同じ事を言われて納得したばかりで、それをスルルに言っただけなんだよ」

「それでも、言葉の中に、説得力を感じました。

 マキュリアル様、ありがとうございました」

「え、いや、その〜!」


 マキュリアルは、生まれて初めて照れた。そして、人を幸せにするとはこういう事かと、実感できた瞬間だった。

 今まで厳しい環境の中で生活をしていたので、この様な感情が一切芽生えなかったからだった。


「あ、いけない。謁見に遅れてしまいます。

 謁見の間に移動をお願いします」


 ナオミがマキュリアルの方を見て言った。


「それでは行きましょうか。

 マキュリアル?

 顔が少し赤いけど?」

「え、そうですか?

 生まれて初めて、人を幸せにするとはこういう事かと思ったものですから。

 少し、照れますね」

「うふふ、それが本来のマキュリアルだと思いますよ。

 言葉によって、人は幸せにもなるし不幸せにもなる。

 これからは、言葉によって人々を幸せにしてあげて下さね」

「はい。ありがとうございます。

 ここに来て、本当に良かったと思いました」

「私も、マキュリアルやスルルと友達になれて、とても幸せです。

 さて、女王を待たせてはいけないので、行きましょう」

「はい」


 ナオミは、まだ13歳にもかかわらず、完全にマキュリアルの心を掴んだのだった。

























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