第41話 裏切ったのは誰だ?

 ナオミ達が帰ってみると、教授達とサーシャリャーに残っていた生徒達が出迎えてくれた。

 ナオミの活躍が既に、ドラゴンを通じて森中のエルフが知る事となっていた。先の戦争で多くのエルフの命を奪ったマキュリアル将軍を、ナオミ1人が倒したと。


 ナオミは困惑していた。本当は違うんだと言いたかった。

 けれども、これからの事を思うと真実は秘密にした方が今後の為だと自ら納得をし、不本意だったけれども実力でマキュリアル将軍を倒した事にした。

 エルフの女王という言わば重い十字架を、いつかは背をわなくてはならないので、エルフの結束を高めておきたかったのだ。


 ホールに行くと、縄で身動きが取れなくなったマキュリアル将軍が、こちらを睨んでいた。

 マキュリアル将軍の治療がほとんど終わっていて、サーシャリャー専属の看護師であるミーシャーが、マキュリアル将軍の傍にいて、腕に包帯を魔法で巻いていた。

 お母さんが、マキュリアル将軍に近寄って言った。


「貴女がマキュリアル将軍ね。

 ニンフルはルフクーダエに連れ去られた。

 行き先を知っているかしら?」


 お母さんの言葉は丁寧だったけれども、威圧感が凄く、一瞬マキュリアル将軍は怯んだ。


「貴女は誰だ?」


 少し、怯える声で聞いた。


「私はニンフルの母です。

 ?」

「貴女がマリネラ教授!!

 残念だが、私は行き先を知らない。

 この任務が終わったら、自分の部隊に帰る予定だったからね。

 しかし、あのクソババー。よくも私を裏切ってくれたもんだよ」

「それは、どう言う意味かしら?」

「ああ、貴女たちは知らないか。

 軍隊に入る時に、王と女王に服従の誓いを魔法を使って入隊をするんだけれど、もし私が裏切ったら心臓が止まるんだよ。

 今回は、ルフクーダエが私を見捨てたので、私を裏切った事になる。

 服従の誓いの魔法も、それで消えて無くなったよ。

 この魔法は超強力で、女王が私を見捨てない限りは、消える事がなかったんだがね。

 今となってはスッキリして、とても気持ちがいいよ」


 周りで聞いたみんなからは、驚きの声が聞こえてきた。

 負けたはずのマキュリアル将軍が、スッキリして気持ちがいいと言ったからだった。


「そうすると、貴女を使って捕虜交換には使えないって事ね」

「そう言う事だね。

 私よりも、はるかに貴女の娘さんの方が価値があるみたいだ。

 悔しいけれどね。

 でも、私にとってはその方が嬉しい。

 好き好んで戦争をしていた訳ではないんで、戻ってまた戦争はもうこりごりだよ。

 飢えで、行き場のない私を救ってくれたのがルフクーダエだったんだが、単に私の魔力を利用したかったんだろうね」

「向こうの情報を教えてくれないかしら?」

「それは知っている限り話すよ。

 でも、娘さんを助け出すのに、それらが役に立つかは分からない。

 私が知っているのは、軍隊の事だけなんでね」

「そう、分かったわ。

 後ほど誰かが詳しくは聞くはず」

「えーと。こんな事を言える義理では無いんだけれども、ナオミの警護をしたいのだけれどもいいだろうか?」


 突然のマキュリアル将軍の申し出に、皆んなが大騒ぎを始めた。

 さっきまで死闘を繰り広げていたのに、いきなり勝った相手に対して警護したいと言うのは前代未聞で、そんな事が許されるはずがないと口々に言っている。

 マリネラも反対だったけれど、ナオミの方を見たら反対の表情をしていなかった。


 ナオミだけは、大局に立った考え方をしていた。

 今まで恐れられていたマキュリアル将軍が自分の警護をすると、ダークエルフにとっては精神的なダメージを与えられる。

 それに、エルフからは畏怖の念で自分を見てくれる。何故なら、死闘をした相手に、常に背後を取らせるのだから。

 ナオミは一大決心をした。

 ナオミは静かに、威厳のある口調で話しだした。


「ええ、いいわ。

 でも、1つだけ条件があります」


 みんなが大騒ぎを始めた。

 マキュリアル将軍が言った事自体が前代未聞だったのに、それを承諾しようとしていたからだ。

 ホールは段々と静かになり、次のナオミの言葉を一言も逃すまいとしていた。


「これから貴女は、自分の良心に従って生きなさい。

 それだけです。

 私に対して服従の誓いは不要です。

 貴女は先の戦争で多くの人を殺しましたが、これからは、貴女の良心に従って多くの人を助けるようにするのです。

 それが貴女に与えられた罰でもあり、使命でもあります。

 それを守る事が出来るのならば、私の警護を許します」


 マキュリアル将軍はナオミを見つめて、涙を流していた。

 本心からナオミの警護をしたいと思って言ったのが許されたばかりか、服従の誓いもいらなくて、良心に従って生きろと言われた。

 ルフクーダエと、なんという違いかと。

 マキュリアル将軍は人生で初めて涙を流している自分に気がつかず、ナオミが近くに寄って、涙をハンカチで拭いてくれるまで気がつかなかった。

 マキュリアル将軍は心の底から誓った。

 ナオミの為なら自分は命さえいらず、ナオミの役に立つよう、残りの人生を捧げようと。

 ナオミの役に立つ事で、多くの人が幸せになると確信し、それが自分の良心の方向であると。

 涙を流しながら、マキュリアル将軍はナオミに返答をした。


「私のわがままな申し出を真剣に受け止めてくれ、尚且つ、こんな私を受け入れてくれたナオミ次期女王に感謝いたします。

 私の命に代えましても、警護の任務をやり遂げる所存です」

「私の背後で、いつも命に代えてと思っている人がいたら、私は常に緊張していなくてはなりません。

 もっと穏やかに警護する事を望むのは、私の贅沢ですか?」


 ナオミの返答にマキュリアルは涙目が点になっていった。


「重ね重ね失礼しました。

 生まれながらの王家はやはり違いますね。

 私、マキュリアルは心底ナオミ次期女王に惚れ込んでしまいました。

 これから、どうぞよろしくお願いいたします」

「こちらこそ、よろしくお願いしますね。

 でも、当分の間は傷の治療に専念してくださいね」


 2人は笑いだした。

 それは、死闘をくぐり抜けた2人しか分からない笑いだった。


 こうして、マキュリアルはナオミの警護を任されるようになった。

 マキュリアルがナオミの警護をするのを反対する人も多かったけれど、ナオミの決心が硬く、時と共にナオミの背後にはマキュリアルが常にいるんだと人々に受け入れられていった。

 マキュリアルがナオミの警護をすることによって、世界が大きく変わった。

 ダークエルフ側にとっては、大きな精神的なダメージを与えていって、ルフクーダエ女王を信じる人達が少なくなっていって、軍に入隊する若い人達が減っていった。

 そして、マキュリアル将軍を見捨てた女王として、人々の話の中に常に話題にされていた。

 エルフの側では、ナオミの次期女王としての威厳がさらに高まっていって、畏怖の念さえ持つ者もいた。



 なんとまあ〜〜。ホンマでっか。

 あのマキュリアルがナオミの警護???

 ワオ〜〜〜〜〜〜!!!




















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