第38話 行方不明のニンフル

 授業が終わって王宮に帰ろうと思ったナオミは、ニンフルが近くにいないのに気が付いた。

 さっきまで一緒に居たのに、次の瞬間にはいなくなっていた。

 たしか、下級生がニンフルに何かを言った後だったので、胸騒ぎがしてすぐにスリーとスースラムの所に駆けて行った。

 スリーが慌てているナオミを見て、その理由を聞いた。


「どうしたのナオミ?」

「ニンフルが突然いなくなったの。

 下級生がニンフルと話した後だったので、何らかの魔法をかけられたのかも知れない。

 私に何も言わずにいなくなったから」

「ルフクーダエ教授だよ。

 下級生を使ってニンフルに魔法をかけたんだ。

 クッソー!!どうすればいいんだ?」

「あ、あの子よ。ニンフルと話していた下級生は」


 その生徒は目が虚ろで、夢遊病者みたいな表情だった。彼らの近くにくると、言葉を棒読みで話し出した。


「ニンフルは我々の手の中にある。

 返して欲しくば、地下のアリの巣入り口まで来い。

 スリー、スースラム、ナオミの3人だけで来るんだ。

 さもなければ、ニンフルは死ぬ」


 そう言うと、下級生は夢から覚めたように、目をキョロキョロさせている。


「あれ、私なんでここにいるの?」


 下級生はそう言うと、足早に去っていた。

 明らかに、誰かに操られていたみたいだった。


 ナオミの顔から血の気が引いていって、自責の念に駆られた。

 なぜもう少し、気をつけなかったのかと。


 スリーは怒りに震えている。

日頃は兄妹喧嘩ばかりしていたけれど、今回はニンフルの命がかかっているのだ。


 スースラムが普段と違って、冷静に話し出した。


「とにかく武器を持って、地下に行くしかないと思うんだけれど。

 3人と武器があればきっとニンフルを取り戻せるよ」

「そうね。それしか道はないわ。

 お母さんには、ドラゴンから説明してもらうわ。

 お母さんから、何らかの指示がドラゴンを通してあるかも知れない」

「ナオミ、スースラム行こう。

 ニンフルを助けるんだ」


 今までにない真剣な表情で話したスリーは、全身が既に戦闘モードに切り替わって、神経が鋭い刃物の様に研ぎすまされていた。

 武器を持って地下に行くと、以前とは違う場の雰囲気が既に漂っていた。

 憎念と言うべきか。怨念と言うべきか。怒り狂ったルフクーダエ教授の存在を明らかに3人は感じていた。

 アリの巣に行くまでに、お母さんから習った高度な防御魔法を3人は唱えた。


「プロテクトヨワイノハキライ」


 この魔法は、よほど強い攻撃魔法でないと打ち破るこちが出来ない。しかも、こちらからは攻撃できるという今回にはうってつけの魔法だ。


 アリの巣の入り口に行ってみると、アリが沢山いた。

 いつものアリ達とは明らかに違って見え、しかも黒いアリまでもいて、ジッとこちらを監視するように見ている。

 向こうから黒い大きなアリが現れた。

 スリーは直感で、アリ見学に行った時のアリンス女王アリは、実はこのマックロクロアリの女王だと思った。

 ふと、過去の記憶が蘇った。

 ゴンスが、最近のシロッシロアリの行動がおかしいと言っていたこと。アリ見学に行った時に転んで、女王アリの下の方が真っ黒だったことを思い出していた。


「お前がアリンス女王アリに化けていたんだな。

 アリンス女王アリはどうしたんだ!!」


「ほー、よく分かっらね。

彼女には、死んでもらったよ。もちろんね。

 ククク!!!

 さてと、私について来てもらおうかね」

「ニンフルは無事なんだろうな?」

「ああ、勿論だとも。

 さ〜〜、こっちだよ」


 誘い込むように、マックロクロアリの女王アリが言っている。

 まるで罠を仕掛けて、そこに誘導しているかのようだ。

 ナオミが言った。


「ニンフルのドラゴンは、ニンフルと連絡が取れないから、何とかして欲しいとマザードラゴンに言っている。それによると、ニンフルはまで生きていて、意識がない状態なんだそうよ」

「ニンフルが生きているのであれば、取りあえずは一安心だな。

 さてと、彼らの罠にはまりに行きますかね」

「でも、大丈夫かな?

 いかにも罠があります、って感じだよ」

「行かなければニンフルを助ける事もできないし、ルフクーダエ教授に会わなければ、黒幕が誰かハッキリとはしない。

 会えば、ドラゴンが証人になってくれるので、誰もルフクーダエ教授を信じなくなる」

「そうだね。

 ニンフルのスターサファイアが付いた剣もここにあるし、4つのスターサファイアがあれば大丈夫だよね」

「行こう。

 ニンフルが待っている」


 3人はそろってアリの巣の中に入って行った。

 入る前に、魔力を抑えた小さな精霊の蛍を出した。

それに、スターサファイアの大きさもカモフラージュして、本来の大きさよりも小さく見える様にしていた。

 これらで、向こうがこちらの魔力のレベルを見間違うとの作戦からだった。


 ナオミは既に、ブレスレットのコンピューターを起動させており、数個の超小型の昆虫ドローンを出して、情報を収集している。

 ドローンの事はまだ誰にも言っていないので、たとえニンフルが知っている事を全て喋らされても敵側に知られる事はなかった。

 ドローンの情報によると、この先大きな空間があり、そこに人が3人いた。

 1人はニンフルで意識がなく、床に横たわっている。

 もう2人の内1人はルフクーダエ教授で片手には剣を持っていた。

その剣を詳しく調べる為にドローンを近くまで飛ばしたら、大きな宝石が4つ付いた剣だと分かった。

お母さんが言っていた、魔剣に違いない。

 もう1人は、全く知らない女の戦士で腰には剣を、背中には弓矢を装備しており、ルフクーダエ教授に話し始めた。


「そうすると、こちらに向かっているのが以前話していたナオミを含む3人で、そいつらを生け捕りにすればいいわけですね。

 お安いご用ですよ」

「油断すれでないぞ。

 彼らはマリネラ教授の子供達と友達だ。

 我が妹を気絶させて、遠大な計画を邪魔した張本人だからな」

「女王、安心して下さい。

 ダークエルフの中でも魔力に関しては1、2位を争う私がここにいるのですから」

「ああ。それは大いに頼りにしているよ、マキュリアル将軍。

 女の身でありながら、ダークエルフの軍隊の一翼を担っている強者だからね」


 ナオミはこれらの会話を聞いて躊躇した。

 ダークエルフの、魔力の強い将軍が向こうにいるからだ。

 でも、このまま行かなければニンフルは戻っては来ない。


 それに、気になることがあった。

 ダークエルフの将軍は何処から来たのであろうか?

 マックロクロアリがいるという事は、結果としてアリの穴が森の外に繋がっている可能性が強いと見ていいだろう。


 それに、ルフクーダエ教授を女王と呼んでいた。

 つまり、ルフクーダエ教授の本当の身分はダークエルフの女王と言うことになる。

 これは明らかに一大事で、エルフの情報が筒抜けだった事を意味している。


 以上の事を考えると、ルフクーダエ教授をこのまま見過ごすことができない。

 ナオミは、全力で相対する決心を固めた。




























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