第33話 魚を食べますか?

 午前の授業が終わってお昼の時間になった。

 全校生徒が集まっているここでもやはり、話の中心はナオミの事だった。

 サーシャリャー学園長のソーソルが教授達を引き連れて入って来て、微笑みながら話し出した。


「みなさん、既にご存知かと思いますが、マザードラゴンと感応した子供が実に千年ぶりに現れました。

 実に喜ばしい事であり、これからのエルフの世界に安泰をもたらしてくれるでしょう。

 さて、皆さんは一つだけ気になる事があるようです。

 ナオミは地球から来た両親によって育てられたので、食習慣がエルフとは異なり、時には魚を食べる事もあります」


 ホールは、生徒達の驚きの声で、ソーソルの声が聞こえないくらいになっていった。

 噂話で、ナオミが魚を食べる事を学園長自ら肯定したのだから。


「お静かに。

 そう、それでよろしい。

 さて、父兄会、並びに教授達と協議した結果、今日からお昼ご飯に魚料理を出す事に決定しました」


 今度も大騒ぎになっていった。生の魚を食べ丸ごと食べるのか、などなど。


「お静かに。

 魚料理は油で揚げてありますので、みなさん安心して堪能して下さい。

 最初の魚料理はアジフライです。

 ナオミのお母様からレシピをいただき、家庭的な料理を選んでもらったのがこれです。

 魚は、ドラゴン達が捕まえてきてくれた、アッチッチアジを使っています。

 アジフライに掛けるトンカツソースは野菜から作れています。

 それではみなさんお昼ご飯にしましょう」


 ソーソルは、いつもの様に祈りの言葉を唱えた。

 そして、ついに魚料理が目の前に来る時がきたら、生徒達は一層やかましくなっていった。


「ヨイイモテベタヲルヒオ」


 ソーソルが呪文んを唱えると、いつもの食事に加えて、アジフライが皿に載って飛んで来た。

 みんなは興味シンシンだ!!


 生まれて初めての魚料理で、早速食べる者や、食べた人達から感想を聞く者など、いつものお昼ご飯よりも数倍うるさかった。


「これ、もぐもぐ、美味しいよ。もぐもぐ、僕好きだね」


 スリーはアジフライにかぶりつきながら言った。

 でも、アジフライを素手持って食べているので、次第に手に油がついてベトベトになっていった。

 その点、お箸はそんな事がない。

 ニンフルもナオミに習って、お箸を持って来ていた。


「ナオミ、これ美味しいよ。

 それに、お箸で食べると手が汚れないんだね。

 やっと分かったよ、お箸を使う理由が」

「そうなんだ、ニンフル。

 お箸は、手に油が付かないからね」


 スースラムが黙々と食べていたが、突然ナオミに言った。


「このアジフライ美味しいよ。でね、手に油がつくから僕にもお箸の使い方教えてよ」

「もちろんいいわ。

 予備のお箸があるからそれをスースラムにあげる」

「ありがとう、ナオミ。

 それで、これをどうやって使うの?」


 ナオミは箸の使い方をスースラムに教えてあげた。

 周りの子供達も興味を引いたみたいで、真剣に聞いていた。


「分かったけど、意外と指が動かないや」

「毎日使うと慣れてきて、上手になるよ」

「よーし、頑張るぞう」


 ニンフルがスースラムに言った。


「スースラムは、食べ物の話になると俄然、テンションが上がるよね」

「だって、美味しい食べ物のいっぱい食べたいもん」

「スースラムらしい考えだね」

「魚って、こんなに美味しいとは思わなかったよ。

 これから毎日違う魚料理が出るんでしょう?

 楽しみだよね」

「そうね、私も。

 ナオミに感謝しないとね」

「ナオミさ、魚料理の種類はどれくらいあるの?」


 ナオミが少し考えてから言った。


「私が知っているのが大体30種類ぐらいで、レシピの本では、軽く1000種類は超えていると思うよ」

「え、本当に。

 それ全部食べたいよ僕」


 ナオミとニンフルがクスクス笑った。

 スリーは驚くようにナオミに聞いた。


「そんなにレシピがあるの?凄いね。

 お母さんが作ってくれないかな?」

「私も少しは作れるよ。

 あまり得意ではないけど」

「ナオミお願い、何か作ってよ」

「うん、お母さんに聞いてみるね」

「やったーー!」


 スースラムが不満そうに皆んなを見ている。

 ナオミがそれに気が付いて、スースラムの悲しそうな目を見て言った。


「私が魚料理作った時は、スースラムも分も作るから、その時は遊びに来て」

「本当に。ありがとう、ナオミ。

 よーし、頑張るぞう」


 始めて食べた子供達からは、概ね好意的な反応が返って来た。

 しかし、中には反発的な子供達もいて、魚料理には一切手を付けなかった。


 誰だよ。ま、予想はつくけどね!!






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