第32話 薙刀

 ナオミ達が、再びサーシャリャーに戻る日がやって来た。

 スリーのイルカのジャンピは、王宮の近くの川で待って居てくれて、元気よく泳いで来た。


「おはよう、スリー。

 サーシャリャーまでだよね。

「うん、そうだよ」


 ジャンピが聞きにくそうに言った。


「あのね、スリーは魚を食べるの?」

「え。食べないけど。なんでそんな事聞くの?」

「ナオミ達が魚を食べるって噂になっているよ。

 でね、イルカも食べるのかなって、心配しているイルカもイルカも?」


 ジャンピは自分んで言って可笑しかったらしくて、キュンキュン笑っている。

 スリーは心配になって、ナイトキラーに聞いてみた。


「・・・、と言うわけなんだけどね。どうしたらいいかな?」

「スリー、よく聞いて。イルカは魚でなくて、哺乳類なの。

 だから、ナオミはイルカは食べない。簡単でしょう。

 でも、誰かが故意に情報を流しているわね。こっちの方が大変かもね。

 お母さんの力が必要だわ。

 ちょっと待ってよ、マザードラゴンと連絡してみるわ」


 スリーは、昨日のスームリの一件で、明らかにナオミが魚を食べるのを彼が知っていたのを思い出した。彼からまた何か言ってきそうだった。

 ナイトキラーが落ち着いた感じで話し始めた。


「マザードラゴンに聞いたら、既に対策を講じて、お母さんがお昼の時間に何かするそうよ。

 安心しなさいスリー」

「お昼の時間に何をするんだろう?」

「それは言わなかったけど、多分お魚料理が出るかもね」

「え〜〜〜、それって生の魚を食べろって事かな?」

「生の魚とは限らないわよ」

「あ〜〜、安心したよ。美味しいのだったら何でもいいや」

「スリーらしい考えね。

 とにかく、気を付けて行ってらっしゃいね」

「うん、行ってきます。

 ナイトキラーは、本当にお母さんと同じように話すよね」

「ウフフ」


 スリーは今度はジャンピに話しかけた。


「ジャンピ、イルカは哺乳類で、魚ではないんだよ知っていた?」

「イルカは魚ではないのかイルカ?」

「えーとね。イルカは哺乳類でエルフと同じなんだよ」

「それ、本当イルカ。エルフと同じなんだね」

「そうだよ。だからイルカは心配いらないからね」

「分かった〜。よかった〜〜〜。

 ジャンピ、食べられるかと思った〜〜」

「えーーーーーーーーーーーーー、それはないよ。絶対に。

 あー驚いた。逆にこっちが驚いたよ。

 でも、疑っているイルカがいるんだね。

 みんなに教えてあげてよ」

「もちろんだよ。ジャンピはスリーの友達だし、同じホニュウルイだよね」

「うん、そうそう。イルカとエルフは同じなんだよ」


 スリーはサーシャリャーで起こる騒ぎに早くも胸騒ぎがしていた。

 サーシャリャーに着くと、思っていた通りその話題になっていた。

 最初は、川イルカ達がスリーに寄ってきて、話したがっていた。

 どの川イルカか知れないけれど、スリーに質問をしてきた。


「ジャンピから聞いた。

 本当にイルカはエルフと同じか?」

「そうだよ。同じ哺乳類なんだよ。

 イルカは魚ではないの、分かった」


 それを聞いたイルカ達があっちこっちで、ジャンプしたり、潜ったりで大騒ぎになった。


 サーシャリャー内に入っても同じような感じで、ナオミがマザードラゴンに感応した事と、将来の女王になる事、それとナオミが魚を食べるのかなどで大騒ぎになっていた。

 既にニンフルとナオミは最初のクラスルームにいて、クラスメイトから質問責めにあっている。


 今日の最初の授業は剣術でシルマーリ教授が教えている。

 細身ながら筋肉質なシルマーリ教授は、クラスルームに入って来るとナオミに質問をした。手には薙刀に近い形の棒を持っていた。


「ナオミ、薙刀と言う変わった武器を使うんだってね。

 私も、その薙刀の動きを知りたいんでね。手合わせしてくれないかね」


 ナオミは驚いた。教授が薙刀を知っているのと、いきなり手合わせをしてくれと言ったからだ。


「あ、はい。分かりました」


 手を抜くと、教授に分かると思ったので、全力でナオミは相対した。

 シルマーリは素早い動きでナオミを攻めてきた。ナオミはそれを薙刀独特の動きで防御し、一瞬の隙をついて攻撃に転じていた。

 シルマーリは薙刀の太刀筋を誤って読んで隙を与えてしまい、足に一撃を食らった。

 シルマーリは苦痛に顔を一瞬歪めたが、戦闘体型を崩してはおらず、続けて相対していた。

 周りの生徒は、それこそ大騒ぎになっており、ナオミを応援していた。

 日頃、シルマーリ教授は厳しく生徒達を指導していて、生徒からは一度も負けたことがなかった。


「ナオミ〜〜頑張って」

「ナオミ、頑張れよー」


 5回相対して、3回ナオミが勝った。

 ナオミも2回、足と脇腹に木刀をまともに受けて、苦痛な顔になっている。

 シルマーリ教授はすぐにナオミに高度な治癒の魔法を使った。


「イタイノイタイノナオーレ」


 ナオミの、打撃を受けた所はすぐに痛みも無くなってきて治癒が完了していた。


「シルマーリ教授、治していただいて、ありがとうございます」

「行儀作法もいいね。私は気に入ったよ。

 それにしても、ナオミは凄いね。その年で私に手傷を負わせるとはね。

 マザードラゴンと感応した訳だよ。これは将来が楽しみだ。

 さて、授業を始めるかね。

 あれ、どうしたみんな?」


 活発なマリッシュが発言した。


「あのー、ナオミと手合わせしたいんですが?」

「そうだよね。あの動きは刀では出せないよ。

 どうだいナオミ。1人ずつ相手してみるかい?」


 ナオミは少し驚いたけれども、手加減が出来そうになかった。


「シルマーリ教授、本気でしていいのでしょうか?」

「ああ、思う存分やってくれ。

 治癒は私が引き受けるからね」


 そう言うとシルマーリ教授はナオミにウインクした。


 クラスメイトが一列に並んでナオミと相対した。

 どの子も真剣そのものだ。

 ほとんどの子は一瞬でナオミに一撃を食らっていった。

 その都度うめき声が聞こえてきて、シルマーリはすぐに治癒の呪文で治していった。

 スリーの番になった。

 さすがにスリーは一瞬ではやられなかったけど、最後には腕に一撃を食らった。

 ニンフルとスースラムは一瞬の内に終わってしまっていた。

 スームリは少しだけ粘ったけれども、やはり最後には足に一撃を食らった。

 結局、ナオミに誰も勝てなかった。


「そろそろ時間だね。

 ナオミ、今度の授業もお願いするよ。これはみんなにとって、いい経験になるし」

「はい、こちらこそお願いします」


 クラスメイトは、ナオミに拍手をして、その技術を讃えた。

 数名は、拍手をしなかった者がいて・・・。


 拍手をしない者がいて?

 誰だよそいつは?

 なお名乗れ〜〜、この・・・が目に入らぬか〜〜!!

 お後がよろしい様で。

















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