第30話 剣と弓矢

 ドラゴン達の巣立ちの翌日、お母さんとスリーとニンフル、それにナオミ達は、彼らの剣と弓矢を見つけに、鍛冶屋と弓屋に行く事になった。


 魔法で強化されたシナシナユミノキで出来た弓は、持つ人のドラゴンの特性に合わせて変化していき、年齢と共に大きさも成長して育っていくのでとても人気があった。

 剣は逆に、作る人によって特性が大きく変わる。年齢と共に剣を変えていく人がほとんどだった。

 特に、自分に合った宝石が見つかった時には新調するのが普通だった。


 弓屋に行くと、スースラムが既に来ていて、店から出て来るところだった。


「スースラムも来ていたんだね。

 どんな弓を選んだの?」

「これだよ、見てよ」


 それは思ったよりも太くて短かった。


「弓屋の人が言うには、僕に合っているのはこれなんだって。

 強くて、遠くまで飛ばせるって言っていた」

「よかったね。スースラムに合っているのが1番だよ。

 じゃ、サーシャリャーで」

「うん、サーシャリャーで」


 スリー達は弓屋の中に入って行った。

 中はとても広くて、いろんな種類の弓と矢が置いてあった。

 奥の方で作業をしている人が手を止めて、こちらに歩いていて来た。

 年配の女性で、お母さんと知り合いだと言っていた。


「お久しぶりです、ウェアーリン」

「ほんと、久しぶりだね、マリネラ。

 この子達の弓と矢がいるんだね」

「はい、お願いします。

 こちらから、ニンフル、スリナリル、そしてナオミです」

「ほう、あんたがナオミかね。

 今度の女王になるんだったね。

 どれどれ、ナオミから見ようかね」


 ウェアーリンはナオミの手を取って真剣に見つめている。


「地球人だと言っていたね。これは変わった手だよ。

 相当しなやかな弓でないと合わないよ。

 それに、弓矢と剣以外の武器も使っているね」


 ナオミがおどろいてウェアーリンを見た。


「はい、その通りです」

「今持っているかい?」

「はい、今持っているのは携帯用の武器で、これなんですが」


 ナオミは袋から手裏剣を数種類取り出した。


「これは投げて使うんだね。

 へー、よく出来ているね。

 そこの試し用の的に投げてくれないかね」

「あ、はい」


 スリーとニンフルは突然の展開について行っていなかった。

 ナオミがこんな武器を隠し持っていた事もだけれども、手を見ただけでそれが分かったウェアーリンにも驚いていた。

 ナオミは最初に星型の手裏剣を的に投げた。

 ほぼ真ん中に当たっている。

 次は、剣の形をしており、手に隠れるくらいとても小さかった。

 今度は、ど真ん中に刺さった。


「思っていた以上に凄いね。

 マザードラゴンと感応した訳だよ。

 あとは、どんな武器を扱えるんだね?」

「薙刀です。

 えーと、棒の先に刃物が付いている武器です」

「紙に書いてくれないかね?」

「はい」


 ナオミは渡された紙に、薙刀を書いた。


「ほう、これも面白いね。

 弓に、この武器を付けようかね」

「そんな事が可能なのですか?」

「私の作る弓は、持つ人の特性で変化出来るんだよ。ナオミが思っただけで、弓がこの薙刀に変化する。作るのは3日あれば大丈夫だ。

 今から鍛冶屋のザンザーゲンの所に一緒に行こうかね。

 先につける刀身が必要なんでね」


 そう言うとウェアーリンは、鍛冶屋の所に行った。

 鍛冶屋はすぐ近くにあり、この辺りは武器と防具などを作っている人達の工房が集まっている。


 ウェアーリンは鍛冶屋に入って行くと、歳をとったザンザーゲンと話し出した。

 しばらくすると、鍛冶屋のザンザーゲンが薙刀に近い形状の棒を持ってナオミを呼んだ。


「この武器はここには無いが、似たようなこの棒で、一つお手合わせ願いますかな」


 ナオミは戸惑っている。

 武器を探しに来たのに、どうして手合わせをしないといけないのか。

 後ろで見ていたお母さんが助け舟を出した。


「ナオミ、この人達は、その人に合った武器を作るので、薙刀の動きを知りたいんだよ」

「分かりました。そうだったんですね。

 それで、本気を出してもいいのでしょうか?」


 ザンザーゲンが突然笑い出した。


「私に対して子供が、本気を出してもいいかと聞かれたわい。

 わははは。

 これは可笑しい」


 ナオミはキョトンとしている。

 お母さんが言った。


「ナオミ、この人は刀鍛冶で有名で歳を取っているけれどもね、剣の達人としても有名なんだよ」

「おいおい、マリネラ。

 歳を取っているは要らんだろうが」


 お母さんとウェアーリンが笑いだした。

 ウェアーリンは言った。


「早く試合をやっておくれよ。

 私もこの薙刀の動きを見たいんでね」


 それを合図にして、ナオミは棒を受け取り、ザンザーゲンに相対した。

 ナオミは構えたらすぐに分かった。この人は相当強いことを。

 本気を出しても勝つ見込みは、ほんの僅かだ。

 待っていても時間が立つだけなので、ナオミは知っている技を全てぶつけていった。

 ザンザーゲンは薙刀の動きが刀と違うのに驚いた顔をしながらも、ナオミの猛攻を受け止めていた。

 今度はナオミは、コンビネーションで攻めてきた。

 殆どの攻撃は間一髪の所で受け止められたが、ナオミに薙刀を教えた、生みの母からの秘伝を最後に使った。


「痛いーー!」


 ナオミの快心の一撃がザンザーゲンの足に当たったのだ。


「ごめんなさい。痛かったですか?

 つい本気の力になってしまって」

「わははは。

 これは笑わずにはいられないな。

 まさかここまでとは。

 あと十年もしたら、ワシを上回るかも知れん。

 ん〜〜、道理でな。マザードラゴンがこの子を選んだのが分かるよ」


 ウェアーリンはさっそくザンザーゲンとナオミの新しい薙刀と弓が合わさった武器を話し始めた。

 スリーが思わず口にした。


「あの〜、僕の弓と刀は?」


 ザンザーゲンが、スリーを見て言った。


「そうじゃった。すっかり忘れておったわ。

 お前達から先に片付けようかいな。

 どれ、手を見せてくれ」


 ニンフルとスリーの手を見て少し顔色が変わった。


「何ともはや。

 この子達も変わった特技の持ち主じゃな。

 特にスリーは今まで見たことがない。

 どんなドラゴンと感応したんじゃな?」

「えーと、赤い卵でした。

 生まれたドラゴンも夕焼け色みたいに真っ赤に燃えるよな赤色です」

「なんと、あの千年以上も卵の中にいたあのドラゴンかいな。

 あのドラゴンがどんな能力を秘めているのかは誰も知らない。

 異質なドラゴンなので、感応出来る人がいなかったんじゃよ。

 とにかくスリーは運動神経は抜群、それと無鉄砲、いや、勇敢みたいだな」

「僕の手を見ただけで分かるんですか?」

「ああ、大体はな。

ドラゴンと感応すると、手相が変わるんだよ。

 取りあえず、今のお前さんに合う剣を作っとくよ。

 それと、ニンフルは頭がいいみたいなので、知力の上がる剣を作った方がいいな。

 うん、よしよし」


 お母さんが例の宝石を3つ彼らに手渡した。


「マリネラ、一体これをどこで手に入れたんじゃ」

「ナオミがサーシャリャーの地下で見つけたのです。

 これを、剣にはめ込んでいただけないでしょうか」

「おー、もちろんじゃよ。これはすごい宝石じゃな。

 ふむふむ。

 何ともはや、これはさっきのスースラムとか言う小僧の剣と同じレベルの剣が出来るぞ。

 やり甲斐があるのう」


 そう言うとザンザーゲンはウェアーリンに言った。


「今焼き入れをしている剣があるんで、それが済んだらお前さんの所にナオミの武器について相談に行くよ。

 それに、この宝石を埋める場所も考えないとな」


 そう言うとザンザーゲンは熱気が漂ってくる奥に入って行った。

 弓屋に戻って、今度はスリーとニンフルの番になった。

 2人の手を見ながらウェアーリンは言った。


「2人ともお父さんの子供だね。2人とも弓矢の名人に将来なれるよ。

 それと、スリーのドラゴンは今までにないドラゴンの能力を持っているみたいだね。

 さっきの子も特徴的だったけれども、作り甲斐のある子供達が立て続けに来ると、やり甲斐が出てきて嬉しい限りだよ」

「それではよろしくお願いします」


外に出ると太陽が真夏の日差しに変わろうとして、輝いている。

王剣が盗まれた以外は全て順調で、少しだけみんなの心は明るかった。


























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