第22話 感応式前夜祭

 感応式を明日に控えたナオミ達は、身を清めるために湖の水を浴びることになった。

 彼らは白装束で、湧き水が出ているコリャカナワンツメタイ湖にたどり着いた。

 春とはいえ、夜はまだ寒く生徒の中には震えている子供もいる。

 この湧き水にはドラゴンと感応しやすい魔法がいにしえより何度も注ぎ込まれており、この儀式をしない訳にはいかなかった。

 湖のほとりにはとても大きな木があって、そこにドラゴン達が止まって前夜の儀式を見守っている。

 父兄も湖の辺りで、家族の儀式を興味深く見ていた。



「スースラムは寒くないのかい?」

「僕かい。大丈夫だよ。

 スリーは、震えているけど?」

「寒いに決まっているだろう。

 こんな寒空にさらに冷水だよ。

 凍えそうだ。う〜寒い!!」


 ニンフルとナオミもやって来た。

 2人とも寒がってはなくて、普段と変わらない感じだ。


「スリー、どうしたの震えているよ」

「寒いからに決まっているだろう!!

 なんで3人とも寒くないんだ〜〜。

 う〜、寒い」

「心の鍛え方が違いますからね」

「ニンフル意地悪言ってはダメだよ。

 スリーが痩せているからでしょう?」

「ナオミの方が意地悪だと私は思うんだけれど?」

「え、そう?」

「どっちでもいいよ。

 早くすませて、家の温泉に入りたい」


 父兄とドラゴン達が見守る中、儀式が始まった。

 1人また1人と、順番に湖に入っている。

 湖に入って、普段と同じ子もいるが、驚いた表情になっている子もいる。

 スリナリルは、なんでこんなに違うんだろうと不思議がった。


 仲良し4人組の中ではスリーは最後だった。

 最初はスースラムが湖に入って行った。

 しばらくすると、スースラムは驚きの表情で湖から上がって来た。

 話を聞こうとしても、スリーは入る為の列に並んでいるので話も聞けない。


 ニンフルの番になった。

 スースラムと同じで、とても驚いている。

 一緒に住んで、こんなに驚いている妹のニンフルを見るのは初めてだった。


 ナオミの番になった。

 湖に入ってすばらくすると、木に止まっているドラゴン達がざわめき出した。

 父兄からもざわめきが広がり、辺りは騒然となっていった。


 スリーは何事が起きたのかと思ったけれど、今度は僕の番だと思って気を引き締めた。


 スリーはユックリと湖に入っていった。

 湖の水は冷たくなく、むしろ暖かかった。


 突然頭の中で声が聞こえてきた。


「ん〜〜〜む。

 また特殊な能力の持ち主が現れたものだ。

 素早い、機転がきく、勇敢、いや、無謀か?


 ん〜〜〜む。


 これは難しい。

 先ほどの子供もよりも決めるのが!!」


 スリーは声の主に勇気を振り絞って聞いてみた。


「あなたは誰ですか?」

「ほう。

 我の声が聞こえるのか?」

「はい。

 あなたは、ドラゴンの神様ですか?」

「ワハハハハ。

 これは面白いことを言う。

 我はドラゴンの精霊だ!!」

「精霊?」

「そうだ!!。

 明日の儀式で、どのドラゴンがその子に相応しいのか判断をしておる」


 スリーは恐る恐る希望のドラゴンんを言った。


「僕のドラゴンは、速い方がいいんだ」

「これは、これは。

 初めてだ。

 子供から欲しいドラゴンを言ってきたのは。


 ん〜〜む。


 よかろう。

 戦争が近いので、お前のような子供も必要だろう。

 特殊な能力を持ったドラゴン。そして、最も早い。

 お前の希望を叶えよう」


 スリーは驚いて、思わず足を取られて頭から水の中に潜った形になった。

 湖底を歩いていたと思ったのに、そこは巨大なドラゴン背中で、周りには多くのドラゴンが見えた。

 精霊?魂?


「プハー。

 驚いた〜〜〜!!

 ドラゴンの背中を歩いているよ僕。

 それに、精霊の言っていた意味がよく分かんなかった。

 お前のような子供ってなんだろう?」


 スリーは湖から出て3人と合流した。


 ナオミは放心状態に近く、ぼーっと立っているだけだった。

 ニンフルとスースラムも同じ様な感じで、ドラゴンの精霊からの言葉で、その場に立ちすくんでいる。


「ニンフル、ニンフル。

 大丈夫かい?」


 珍しく、スリーが妹に優しく声をかけた。

 ニンフルはゆっくりとスリーの方に向いて話し出した。


「あのね、頭の中でね、言葉が聞こえてきたの。

 あなたは優秀な子供なので、最も優秀なドラゴンと感応するでしょうだって。

 ね、スリー、これどう思う?」

「凄いね。

 ニンフルにピッタリだよ。

 それよりもさ、ナオミとスースラムが、まだぼーっとしているままなんだけど?」

「あ、ほんとだ。

 さっきの私みたい。

 ナオミ、ナオミ。

 大丈夫?」


 ナオミはやっと動き出して、ニンフルの方を向いた。


「あの〜〜。

 将来のマザードラゴンと感応するって言われたんだけど・・・。

 マザードラゴンはドラゴンのお母さんだよね?」


 ニンフルとスリーは驚いて、お互いを見た。

 しばらくして、ニンフルが興奮して話し出した。


「ナオミ、それって凄いことだよ。

 マザードラゴンは黄金色をしていて、ドラゴンの中では最も大きくて最も影響力があるんだ。

 それに、卵を産める唯一のドラゴンでもあるんだよ。

 マザードラゴンは今は1頭しかいない。

 ナオミので2頭になるんだね」

「あの〜〜、私でいいのかな?

 地球人の私で?」


 スリーも興奮している。


「もちろんだよ。

 ドラゴンの精霊が決めたんだから間違いないさ。

 僕、精霊と話をしたんだ」


 今度はニンフルとナオミが驚いて、お互いを見た。

 ニンフルが驚いた口調で質問をした。


「スリー、精霊と話をしたって、それ本当なの?」

「ああ、間違いないよ。

 それでね。はやく飛べるドラゴンが欲しいって言ったら、いいよだって」

「信じられない!

 話をした事もそうだけれど、希望のドラゴンを言った人、聞いた事がないよ」

「そうなの?

 それでね、驚いてつまずいたら、湖の中はドラゴンが一杯いた。

 それに、湖底を歩いていたと思っていたら、巨大なドラゴンの背中だったんだ」

「うそ〜。

 あれって、ドラゴンの背中を歩いていたの?」

「そうだよ。

 明日の感応式楽しみだね。

 あ、スースラムを忘れていた。

 スースラム、だいじょうぶかい?」

「あ、スリー。

 頭の中で声がして、最も魔力の上がるドラゴンがお前には相応しいだって。

 これって、本当かな?」

「よかったねスースラム。

 それ本当だよ。

 皆んな明日の感応式楽しみだよね」


 向こうから、スースラムのお母さんと、ナオミのお母さんが歩いて来た。

 ナオミのお母さんのマリネラが、ナオミに確かめるように聞いた。


「ナオミ、ドラゴン達が言うには、あなたがマザードラゴンと感応するって言っていたけれど本当なの?」

「あのー、頭の中で聞こえた声はそのように言っていました。

 それって、本当に私でいいのでしょうか?」

「もちろん問題ないよ。

 ただ、ビックリしただけ。

 ここ、千年間マザードラゴンと感応する子がいなかったからね。

 ナオミ、周りを見てごらん。

 ドラゴン達がそれぞれの家に帰る前に、あなたに深く頭を下げているだろう。

 あなたに敬意を表しているんだよ。

 ナオミもドラゴン達に頭を下げて、挨拶をした方がいいね。

 明日の感応式の後は、ドラゴンと会話ができるようになるよ」


 ナオミは軽く頷いてマリネラの言う通りにし、ドラゴン達に一頭一頭に頭を下げて挨拶をした。

 結局スリー達は最後まで残る事になったけれど、今夜の出来事で皆んな感動していて、時間の過ぎるのも忘れていた




























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