第20話 接戦

 両選手がそれぞれのゴール前にいる。

 ボールが中央に魔法によって置かれると、一斉にボールめがけてイルカ達が泳いで行った。

 アクアマリーン区のスームリとクリスタル区のアーメイドが最もボールに近く、どちらが取ってもおかしくない近さにいた。

 ほんのすこしの差でアーメイドのイルカが鼻でボールを拾ってアーメイドにボールを渡すと、チームワークで敵ゴールに猛進して行った。


「ゴーゴーダンケル。ゴーゴーダンケル」

「ナオミ〜、このままゴールできるかも」

「うん、行きそうだよね。

 あと少し〜〜」

「ゴーゴーダンケル。ゴーゴーダンケル」


 すごい声援で、このままゴールすると思っていたら、焦って小さなミスが元で相手ゴールキーパーにボールを奪われた。


「あ〜〜あ。

 向こうのボールになった。

 もう少しだったのに」

「あ、今度はスームリがボールを持っている。

 早いねあの子」

「あ、パスした。

 あ、またパスしたよ」

「ニンフル〜〜、見てられない私。

 危な〜〜い!!」


 アクアマリーン区はチームワークが素晴らしく、パスの連続でクリスタル区側が掻き回され、ゴールキーパーのダンダダも健闘したが、ほんの少しの隙を突かれ先取点を取られてしまった。


「あ〜〜あ。

 こんなにも早くゴールされた。

 悔し〜〜〜い。

 スリー、何とかしてよ」


 普段は静かな口調で話すニンフルも、人が変わったように興奮している。

 スリーは、後ろを向いて怒った顔で言った。


「あのね。

 また言うけど、後ろで大声出さないでよね。

 それに、僕が出てないんだよ。

 どうにもできないよ」

「それはそうだけれど、口から出ちゃうの。

 分かってよね!」

「そんなの分かりたくないよ。

 僕のこと考えている?」

「今度はこっちの番よ。

 ゴーゴーダンケル。ゴーゴーダンケル」


 前を向いたスリーは小さな声で言った。


「あ〜あ、やっぱり考えてないや」


 スリーは後ろの雑音を無視して神経を集中し、敵の動きを観察していた。

 今回の攻撃も、もう少しでゴールできたのに、向こうのスピードに追いついていなくて決められなかった。

 すでに、前半戦の半分が過ぎようとしていた。


「また向こうのボールだよ。

 スームリがまたボールを持ってせまってきたよ〜!」

「前と同じだ。

 入るな〜〜〜!!」


 スピードとチームワークで今回も得点を許してしまった。


「あ〜〜あ、まただ。

 ナオミ、今回のダンケル弱いよ」

「スームリを誰か止めないと、次も点を入れられちゃうよ〜!」

「あ、ナーニアがタイムを要求した。

 何を話すんだろうね」

「ナーニアがスリーを呼んでいる」

「ナオミ、間違いなく選手の交代だよ。

 スリー、頑張って〜〜〜!!」

「ゴーゴー、スリー。ゴーゴー、スリー」

「本当にスリーと交代するんだ」

「これでスームリの動きを抑えきればいいんだけど」


 アーメイドがボールを持って今度は攻撃に転じた。

 スームリがアーメイドのボールを奪おうとしたら、スリーにボールをパスした。

 スリーはモースピードでゴールに向かっている。


「ナオミー。スリー早いよ。

 もしかしたらいけるかも」

「うん、うん、早いよね。

 もう少しでゴール。

 あ、ナーニアにパスしたよ」


 それはアッというまの出来事で、スリーが右から来たナーニアにパスした。

 ナーニアはゴール前でジャンプして、スマッシュで決めていた。


 カッコいい!!俺はナーニア一筋だぜ。

 ボカ、ボカ、ボカ。

 誰だーー。またおいらの、か弱い頭を叩くのは??

 え、ナーニアのファンクラブの方達?

 嘘〜〜、もうファンクラブ出来ているの??


「やった〜〜。

 この2人すごいよね。

 ナオミ、これがジャンプスマッシュだよ」

「海面に叩きつけるようにして、ゴールするんだね。

 直接入れるのかと思った」

「直接入れることもあるんだ。

 イルカの尾っぽでも入れることがあるし、ゴールキーパーはどれで来るか分からなくなり、隙が出来るんだ」

「すごいな。

 私もやってみたいな」

「私も応援するからさ、来年は選手になって出場すればいいよ」

「うん。

 本気で考えるね。

 あ、今度は向こうのボールだよ。

 また、スームリがボールを持っている。

 でも、見て!!」


 スームリのすぐ後を追っているのはスリーで、半分過ぎた所で追いついてスームリにアタックした。

 スームリは、まさか後ろから追いついて来るとは思わなかったらしく、あっさりとスリーがボールを奪っていた。


「スリー凄い。

 スームリのボールを簡単に奪った」

「スリーは勉強がダメだけど、今回は凄いよね」

「あはは」


 ナオミは、ニンフルの言い方が面白くて笑った。


 今回も相手ゴールまでボールを持って行って、今度はムーンムーンにパスをした。

 しかし、緊張したのかミスを犯し、あっさりとゴールキーパーに奪われてしまった。

 またしても相手チームのボールになって、猛攻を仕掛けて来た。

 あわや、ゴールかと思ったら、前半戦が終了した。

 うーー、もう少しで点が入るとこだったね。ヤバイヤバイ!!!


 ダンケルチームはニンフルの前の席に集まり、作戦会議を始めた。


「とにかく相手はチームワークがいい。

 それとスームリが素早いのでマーメイドとスリーしか追いつけないでいる。

 後半はスリーはスームリをマークして!

 他の皆は、マーメイドになるべくボールを渡して、それからゴールに最も近い人に最終的に決めてもらう作戦で行くよ」


 皆んなが納得をして、一度に気勢を上げた。


「ダンケル〜、ファイト、ファイト!!」


 そういえば、チアリーダーいないのかな?見たかったのに!


 後半戦が始まった。

 魔法でボールが中央に置かれると、選手達は一斉にボールをめがけて向かって行く。

 スリーとアーメイド、そしてスームリが同じくらいの早さでボールに迫る。

 遠くからでは3人が同時だったけれど、スリナリルのイルカのジャンピが僅かの差でボールを取ってスリナリルに渡して敵のゴール目指した。


「ゴーゴーダンケル。ゴーゴーダンケル」

「ニンフル〜〜、スリーがボールを持っている。

 早いね」

「本当に驚き。

 あれがスリーとは思わないよね。

 日頃はボーとしているのに」

「あれがスリーの実力なんだよ。

 あ、パスした」

「あー、ダメだったね」


 両チーム共にそれ以上の点数が入らずにいた。


「もうすぐ終わって、負けちゃう〜。

 あ、スリーにボールが行った」

「ナオミ、今回もスリー凄いよ。

 アタックしてくる選手をことごとく交わしている。

 すご〜い、選手を飛び越して行った」

「ゴーゴーダンケル。

 もう少しでゴールだ。

 行けー、スリー〜〜」


 2人とも大興奮している。

 時間があと僅かだけど、チャンスは残されていた。


 木陰からスリーの動きを、ジッと見つめていたエルフがいた。

 何かの呪文を唱えたかと思うと、スリーが握っている手綱が突然切れた。

 スリーはジャンピに振り落とされ、その弾みでボールは虚しく川面に浮かんだ。


 すぐにスリーがボールをとった途端に、ゲームオーバーの時間になってしまった。

 惜しいー〜〜〜。もう少しだったのに。でも、誰?このエルフ?


「え〜〜、何今の。

 手綱が切れたの?

 もしかしたら、ゴールできていたかもしれないのに」

「ニンフル、手綱って簡単に切れるものなの?」

「んー。滅多に無いよ。

 なんか怪しい気がする。タイミングが良すぎるもの」

「え、それじゃー、誰かのイタズラ?」

「可能性が高いけど、誰だか分からない」

「そんなー。相手チームかな?」

「別のチームかもしれない。

 呪文を唱えているのを見ない限りは分からないもの」

「結局、負けちゃったね」

「動いているスリーの手綱に魔法を当てるのは、かなり高等な技術よ。

 高学年か、大人の仕業ね」

「一体誰なんだろう?

 そう言えば、スリーが選手に選ばれる時に振り落とされた時も不自然だった。

 それも誰かのイタズラ?」

「分からないことだらけね」


 2人はそれ以上話しても解決できないのと、初戦で負けて意気消沈していた。


 誰だ、この怪しいエルフ。もしかして、意地悪な教授???





























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