第11話 キツネにつままれた。
放課後になった。
スリーとスースラムは急いで川に降りていった。
すでに大勢のクリスタル区の生徒たちが集まって、ニンフルとナオミも見学に来ている。
ナオミは初めて見る事ばかりで、とても興奮している。
クリスタル区のリーダーは最上級生のナーニアだ。
女性のリーダーで、彼女の得意技はジャンプスマッシュ。
敵ゴール直前でジャンプして、強烈なスマッシュを浴びせる。
イルカのマッシューはジャンプが得意で、ジャンピと同じくらいの高さまでジャンプができる。
クリスタル区の選手の服装は、真紅が基調で白青緑でまとめられていた。
「もうすぐ始めるよ。
最初にゴールキーパーを決めるので、希望する人はゴールまで行って」
スースラムも入れて、3人がゴール前に集まった。
スースラムは少し緊張した面持ちをしている。
それを見たニンフルとナオミが、スースラムに応援をの声援を大きな声でしている。
「スースラム頑張れ〜」
「スースラム、がんばってー」
スースラムは少し照れながら、手を振って応えている。
緊張が少し溶けたようだ。
「それでは始めるよ。
それぞれ10回行なって、最も守りの硬い人を今回のゴールキーパーにするから。
それで、二番目は補欠としてベンチに入ってもらう。
それでは始め」
最初は最上級生のダンダダだ。
去年のゴールキーパーである彼が本命と噂されていた。
彼は背が高く手足が長いので、守備範囲が広い。
今回もほとんどのボールを受け止めるか、はじき返していた。
2回ミスをした。
2人目は、今年14歳になるルールルだ。
唯一の女性だったけれど、4回ミスをした。
最後はスースラムだ。
7回目までミスがなかったので、もしかしてと誰もが思い始めていた。
あと1回ミスがなければダンダダと並ぶ。
緊張がスースラムから感じられた。
今度はケラースンがボールを持っている。一直線でゴールキーパーに突き進んだと思うといきなり潜った。
次の瞬間右側に浮かび上がり、ゴールの右側ギリギリにボールを投げた。
スースラムは左側と読んでいたらしく、手も足も出なかった。
8回目はあっさりと入れられてしまった。
次はムーンムーンだ。
彼は最初から潜ってゴール向かっている。
ゴール直前で浮かび上がり左に向きを変え、左のコーナーにボールを投げると誰もが思ったら、イルカの尻尾にボールを落とし、イルカが右側の方にボールを叩いた。
スースラムは左に来ると思っていたので、なすすべもなくあっさりとボールはゴールの中に入っていった。
最後はリーダーのナーニアだ。
彼女はゴールキーパーにモースピードで突き進み、直前に高くジャンプして、右側のゴール手前にボールを投げた。ボールは水面を跳ねて見事に右上のコーナーに決まった。ボールの動きが複雑だったので、スースラムは翻弄されていた。
これで3回のミスをした事になる。
でも、スースラムはついに補欠となって、夢にまで見た真紅のユニホームを着ることができた。
「やったー。補欠でもあのユニホームが着れるんだ」
遠くから見ていたニンフルとナオミは、スースラムが補欠になったのでジャンプしながら喜んでいる。
さて、今度はスリーだ。
「向こうに見える旗を一回りしてここまで帰ってくる。
途中にある障害物をうまく避けるように。
速い方がいいけれど、他の要素も見てから決める。そのつもりで。
用意、スタート」
今回は多くの生徒たちががいる。50人は下らないので競争する方は大変だ。
それでも、速いエルフはスピードを上げて行って先頭集団を形成していた。
突然障害物が現れた。
前方の川の下から、何やら棒の様な物が出てきた。
縫うようにして、イルカが泳ぐしかない。
「きゃー。スリー危ないー!」
ナオミが思わず口にした。
スリーはぶつかりそうになりながらも、巧みに棒の林をすり抜けて行った。
すでにスリナリルは5番手につけている。
もうすぐ旗をUターンする。
ほとんどの選手がスピードを落としているのに対して、スリナリルだけは依然としてモースピードで旗に近づいて行った。
そのままでは行き過ぎるか、あるいはイルカから振り落とされるかのどちらかだった。
誰もそう思って瞬間に、スリーはイルカと共に潜った。
潜ったと思ったら、すでにUターンを完了していて、こちらに向かっている。
見ている人達から歓声が沸き起こった。
「見たあれ。すごい技ね」
「誰、あの子?」
「グランの息子よ」
「へー、血は争えないね」
ニンフルもスリーを応援している。
日頃は口喧嘩をしていても、やはり双子の兄妹だ。
「スリー頑張れ〜」
「スリー、行け〜」
ナオミもスースラムも応援をしている。
体の小さなスースラムが、大きな選手を圧倒している。
スリーが一番手だ。
最後の障害が現れた。
今度は横長になっている。
潜るか、ジャンプするしかない。
スリナリルは、猛スピードで障害物に突っ込んで行った。
ぶつかる直前に、ジャンピの背中に腹ばいになって潜ったと思ったら、高くジャンプをして、軽く障害物を超えて行った。
ところが、スリナリルの姿が無く、ジャンピだけだった。
スリーはジャンピから振り落とされて、川にプカプカと浮いていた。
障害物に、スリーが当たったんだとばかり見ていた人達は思った。
「スリナリル惜しかったね。もう少しでゴールだったのに」
ニンフルが本当に悔しそうに言った。
スリーは、キツネにつままれた顔をしている。
「僕、なんで落ちたのか分からないんだ。
突然、手の力が無くなったと思ったら、振り落とされていた。
今までこんなことなかったのに」
「緊張していたからだよ。
でも頑張ったよね。最後は1番だったもの」
「これでは選手にはなれないよ。
ゴールできなかったもの」
「来年もあるからさ、頑張って」
「そうよ。私も応援をする」
ナオミも言ってくれたけれど、スリーの気持ちは晴れなかった。
「みんな聞いて。
結果を発表するよ。
今回も正規が6名で補欠を2名を選んだ。
まずは正規からね。
ケラースン、ムーンムーン、エスラ、コリーン、アーメイド、そして私の6名。
補欠。
バークラム、スリー。以上。
聞いている人達からはどよめきが起きた。
ゴールできなかったスリナリルが補欠として選ばれたからだ。
スリーはまたしても、キツネにつままれた顔をした。
ゴールできると思ったらできなかったり、選ばれないと思ったら選ばれたり。
「何かよくわかんないけど。
や〜っほー!」
スリーはジャンプしながら大喜びしている。
ニンフルとナオミ、そしてスースラムも共に喜んでくれた。
それを遠くで見ていたエルフがいた。
彼が喜んでいる姿を、舌打ちしながらジッと睨み続けていた。
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