第1章 ナオミと王剣

第1話 エルフの惑星で生まれたナオミ

 惑星カーンに残った3人の地球人は、森の近くの海岸に基地を作った。

 衛星軌道には既に母船が去った後だったけれど、高感度の惑星監視衛星は残されていた。


 生まれた子供はナオミと名付けられた。ナオミは魔法が使える事が分かっていたので、地球に帰る訳には行かなかった。何故なら、研究の対象にされ自由を奪われるからだった。

 

 すくすくと順調に育ったナオミが13歳になったので、前から決めていたサーシャリー魔法学園に明日から入学する事になる。ナオミは、幼少の頃から英才教育を受け、あらゆる知識を両親から叩き込まれた。母親が軍隊出身者なので、格闘技も同じく教えられている。

 もちろん、エルフの世界に住むのでエルフ語を始め、この惑星で生き抜く為の教育も教えられた。


「お母さん、大丈夫だって。

 マリネラ教授と会って、とても優しい人だと分かったから」


「母さんもそう思う。親だからね、心配するのが親の仕事。

 ただね、養子に出さなくてはならないので、母さんは寂しいだけ」


「また、その話しているよ母さん。

 この場合、子供には何も心配しなくてもいいからねって言うんだよ」


「そうだね。逆だよね。

 ナオミがお母さんの心配をしているね」


「学期の終わりになったら母さんとお父さん、それにジェシカおばあちゃんに会いに来るからね。

 ところで、お父さんは工房で何をしているの?」


「うふふ、それはお父さんから聞いてよ。

 あ、出来たみたいだよ」


 工房からお父さんが、何か手に持って2人の所に来る。なにかとても嬉しそう。


「出来たよ。出来た。これはブレスレット型のコンピュータだ。見かけは木のブレスレットだけれども、軽量の合金で出来ていてとても丈夫。

 さらにだよ、太陽光パネル付きで、防水、耐ショックにもOKだ。これをナオミにプレゼントするよ」


「お父さんありがとう。

 それで、このコンピュータには何が組み込まれているの?」


「それは、ガイダンスを作ってあるからお楽しみだね」


 そう言うとお父さんは、ブレスレット型のコンピュータをナオミに渡した。

 それは表面が木目調で、誰が見ても木で出来たブレスレットにしか見えなかった。


「あ、お父さんのイジワル。

 教えてくれてもいいと思うんだけれど?」


「あーあ、後で見る楽しみがなくなっちゃうよ。いいのかい?

 じゃ、一つだけ。

 物質探査機能。半径3メートル内のあらゆる物質を表示する事が出来る。凄いだろう」


 お父さんは威張った顔をしている。

 逆に、ナオミは目が点になってお父さんを見た。


「お父さん、それって、森の中で宝石を探せって事?」


「それは使い方次第だね。エルフとダークエルフが戦争をしているので予断は許されない。

 もしも毒などの危険物質があると、あらかじめ分かると言う事」


 それを聞いたナオミはお父さんの心遣いに感動している。


「お父さん、ありがとう。

 でも私を毒殺って、ありえないと思うんだけれど?」


 しかしナオミはまだ、毒殺に関しては半信半疑。


「何が起こるのか誰にも分からないだろ。エルフの歴史を調べたら、毒殺されたエルフがいるみたいだ。

 ま、念には念を、と言う事だね」


「お父さん、心配性!

 大丈夫だって。森の中でも安全な所に行くんだから。お母さんとお父さん、心配しないで。私ちゃんとやっていきます。

 それに、来年になったら念願のドラゴンに乗ってここに来るわ。今から楽しみ」


「それは母さんも楽しみ。

 どんなドラゴンと感応するかしらね」


「ドラゴンとはテレパシーで会話が出来るので、それも楽しみにしているの。

 でも、ドラゴンが戦争に使われるのが可哀想。自由になれないのかしら?」


 ナオミはドラゴンが幼少の頃より気に入っていて、将来はドラゴンに乗りたい夢を抱いていた。お父さんが、真面目な目でナオミに言う。


「エルフの長い歴史で、戦争が繰り返し行われてきたのは残念な事。戦争が完全に終わらない限りは、ドラゴンは自由になれないと思うよ。

 残念だけれども、現実的には無理に近いな。ドラゴンを制している方が有利になっているからね」


「うん、それは分かっている。

 それに、もしかしたら私も戦争に参加する可能性があるもんね」


「それは否定できない。

 この惑星で生きるには、どうしてもどちらかの側に付かないと孤独になってしまう。

 いずれは地球人はナオミに1人になってしまうからね」


「お父さん、全部分かっている。それは何度も話した事でしょう。

 だから、養子になってエルフの世界の住人になるのよ」


 夜中まで家族の会話が続いた。

 明日はいよいよナオミがエルフの一員となる日でだからで、なおさらナオミの両親は心配で仕方なかった。


 

 



























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