第9話 不穏な動き
「スリーも一緒に行くのよ!
お母さんが言ったでしょう。ナオミをお願いって!
地下は、スリーの方が知っているのに。
つまみ食いをしたくて、地下に行っているのを知っているんだからね」
「え、知っていたの?
今回は、ニンフルだけで大丈夫だよ。
僕は、ジャンピと練習がしたいんだ」
「分かったわよ〜〜〜だ!!
ナオミ行きましょう」
ニンフルはアッカンベーをして、ナオミと行ってしまった。
スリーは少しだけ後悔したけれど、どうしてもイルカボールの代表選手に選ばれたかった。
それと、スリーは高い所が少し苦手。
展望の枝は特に嫌いで、足がすくむ姿をナオミに見せたくなかった。
学園の下の川はクリスタル区の貸切の日で、放課後に選手を選ぶことになっている。
大勢のクリスタル区の生徒がイルカに乗って練習をしていている。
スリーと一緒に来たスースラムは、スピードが遅いけど体が大きかったのでゴールキーパーを目指していた。
イルカボールのゲームは簡単だ。
10センチの赤いボウルを敵のゴールポストに前から入れるだけだ。
でも、とても荒っぽいゲームで、殴る蹴るをしなければその他はOKなのだ。
ゴールポストは水上に浮いていて、横が2メートル、縦が1.5メートルある。
ゴールポストからゴールポストまで50メートルで、使ってもいい範囲はさらに広い。
「スースラム、もう一回行くよ」
スリーは、ジャンピの背中に乗ってゴールポストに近づいて来た。
スースラムの隙を見つけて思いっきりそこにボールを投げた。
右下のゴールポストにボールが入って行ったと思ったら、スースラムのイルカのショーキーの尾っぽで止められた。
その機敏なショーキーの動きで、スースラムはまた川に落ちた。
スースラムは何もできなかったけれど、ショーキーの活躍で今回もゴールを阻止した。
「またショーキーにやられた〜〜!
2回しかゴールできなかった」
ショーキーが得意そうにスリーに冗談を言った。
「ゴールの真ん中は、スースラムがいるから、イルカがいない!」
ジャンピとショーキーはキュンキュンと笑っている。
イルカたちの冗談に、スリーは大きな口を開けてキョトン、としていた。
やっとショーキーに乗ったスースラムは、激しく息をしていた。
「ハー、ハー、ハー。
何度も川に落ちて。ハー、ハー。
ショーキーに乗るだけで疲れちゃうよ。
そろそろ行かないと。
ハー、ハー。午後の授業だよね」
「そうだね。
でも、お母さんの授業だよ。 やだなぁ。
それに、2回しかゴールできなかったし」
「早く行こうよ。遅刻したら大変だよ」
「それだけは嫌だよね。急ごうスースラム」
行く途中で上級生のウワサ話が聞こえてきた。
暗い顔で話している。
「森の外に住んでいる家族が殺されたらしい」
「ああ、その話はさっきグニョンから聞いた。怖いよな」
「お前は、森の境界の近くだから気を付けろよ」
「俺たちが帰宅する前に、教授達が対策を考えるらしいぜ」
「戦争がまた始まるのかな?」
「ダークエルフの考えは俺たちには分からないさ」
スリーとスースラムはお互いに顔を見合わせた。
「早く大人になって、お父さんの仇をとるんだ僕」
「僕もだよ。
でも〜〜!。それには弓矢が上達しないと」
「そうだよね。
ハーー。ため息しか出てこないよ」
ニンフルとナオミは最上の枝に近い展望の枝に来ていた。
ここは、ほぼ360度見渡せて、遠くまでもよく見える、景色を見るには絶好の場所だ。
ニンフルは、この場所が大のお気に入りだった
「それで、右の向こうに見えるのが森の境界。
その先に住んでいるんでしょうナオミ?」
「うん、海に近い草原に家があるんだ。
よく海岸に遊びに行っていた」
「海岸?
私は森の外に行ったことないから、海のことはよく分からないの」
「海岸は、海と陸地の境目。
川岸と同じ。
波が、砂浜に寄せては返す音が好きなの。
川でもあるけれど、その10倍以上の大きな波が来るんだ」
「うわー、行ってみたい」
「学期が終われば遊びに来て。
珍しい物がいっぱいあるよ」
「うん。お母さんに聞いてみる。
あ、そろそろ行かないと、お母さんの授業に遅れる。
行こう、ナオミ」
「うん」
ニンフル達も上級生から嫌な話を聞いた。
「森の防御魔法を強化するらしいわ」
「ダークエルフが戦闘準備しているって噂だぜ」
「また戦争になるのかな?」
ニンフルがナオミに聞いた。
「ナオミの家は森の外だけれど大丈夫なのかな?」
「私の家は大丈夫よ。
小型のミサイルと、レーザー防衛システムがあるってお母さんが言っていた」
「そうなんだ。
よく分からないけれど。安心ね」
二人は分からないことを話しているので、よけいに分からなくなりクスクス笑った。
それを遠くの木の陰から、ジッと見ていたエルフがいた。
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