第6話 地球人の女の子
スリーとスースラムは急いでホールに向かった。
「スースラム急ごうよ」
「ちょっと待ってよ。僕そんなに早く走れない」
途中の通路の壁には、ダークエルフとの戦いで戦死したエルフの遺影が掲げられていた。
スリーとスースラムのお父さん達の遺影も、横並びで掲げられている。
スリーのお父さんのグランの遺影は、ドラゴンに乗って弓矢を持っている時のものだった。スリーのお気に入りで、ここを通るたびにお父さんを思い出して勇気が湧いてくるのだった。
スースラムのお父さんは魔法が強力で、最強の魔法使いと呼ばれていた。遺影は同じくドラゴンに乗って魔法の呪文を言っている時のものだ。
スースラムのお父さんは見かけがゴッツイいけれど、優しい顔をしていた。
ホールには、既に多くの生徒達が座っていた。
ホールの上段は教授達が座る場所で、手前が生徒達が座っている。
魔法で木の形が変えられており、広い空間がある大きなホールだった。
「早く」
「ハアー、ハアー。もう歩けないよスリー」
「後ろから押してあげるよ」
スリーはスースラムを後ろから押してあげた。
やっと席に着いた2人は、クリスタル区のテーブルの妹のニンフルの前の席だ。
いつもここに座っている。
女性の学園長であるソーソルが、前方の右側のドアーから教授達を引き連れて入って来た。
お母さんの姿が見えなかったので、スリーは不思議がった。
学園長が立って話し出した。
「皆さんもご存知かと思いますが、異世界から地球人の探査隊が14年前にこの惑星を見つけ、それからここに住んでいます。
13年前に地球人の女の子がこの惑星で生まれました。
同じ年代の子供の友達を持たせてあげたいと願うご両親と、本人の希望に応えるために、当学園ではこの女の子を引き受ける事に決定しました」
聞いていた全校生徒がびっくりをしている。
そりゃそうだ。
異世界から来た地球人に子供が生まれていたことはみんな知っていたけれど、その子がこの学園の生徒になるのだから。
「お静かに。
それではマリネラ教授お願いします」
お母さんが、右のドアーから地球人の女の子を連れて入って来た。
その子はストレートの黒髪で目がパッチリとした、いかにも日系人といった感じの子だった。
「みなさんお静かに。
この子の名前はナオミと言います。
地球人は魔法を使えないのが普通ですが、この子はこの惑星で生まれたのでエルフ語と魔法が使えます」
生徒達がまた騒ぎ始めた。
地球人が魔法を使えるとは今まで聞いたことがなかった。
「お静かに。
ナオミは現在13歳で、私の養女になりました」
今度は一段とさわがしくなった。
ほとんどの子がスリーと妹のニンフルを見た。
2人は驚きで、息もしていないほどだった。
「スリーとニンフルは前に来て」
スースラムに肘で押されて、やっと動き出したスリーは、口がポカーンとなったままだった。
前まで行くと、優しくマリネラ教授が話し出した。
「2人ともよく聞いて、今日からナオミは家族になります。
仲良くしてあげてください」
スリーが言いかけた。
「でも、僕こ・・・」
マリネラ教授が小さな声で言った。
「スリー。お父さんの様に、この子を守ってあげて。
いいわね!」
この子を守ってあげなさいと言われたスリーは、ダークエルフからエルフを守ったお父さんと同じ様にしたいから、急に勇気が湧いてきて元気のいい声で答えた。
「はい!」
ニンフルも優等生らしく、はいと返事をしていた。
「ナオミ、みんなの前でご挨拶をお願い」
「はい。
みなさん初めまして。ナオミです」
半数ぐらいの生徒が返事をした。
「みんな、昼ごはん食べてないから元気ないのかな?」
クスクス笑っている声が聞こえた。
「もう一度聞くけど、ナオミと仲良くしてあげて!」
「は〜〜〜い!!」
全校生徒が返事をしていた。
学園長が祈りの言葉を始めた。
エルフが大勢集まる場所では食前の祈りを言うのが習慣だ。
「全ての物に感謝をします。
大地、空、海、動物、植物を私たちは
全ての物のおかげでこうして食べることができます。
ありがとうございます。
それでは食べましょう。
ヨイイモテベタヲルヒオ」
学園長の魔法で、左のドアーから昼ごはんがみんなの目の前に飛んで来た。
生徒達は目の前のご馳走に感謝して、さっそく食べ始めた。
スリーは横のナオミを見た。
ナオミは目が大きくて、そして耳が短かいと思った。
鼻と口は同じか?って突っ込みを入れないでね。
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