第4話 ジャンピ
お母さんは、ドラゴンに乗って学園まで飛んで行った。
お母さんのドラゴンの名前はマリネラーで、お母さんの名前の一部を使っている。
赤胴色の立派なオスのドラゴンんだ。
お母さんと感応しているので、テレパシーで会話が出来る。
お母さんが家にいる時は、木の家の一番大きな枝の下が居場所だ。
一週間に一度、海に行って大型の魚を食べに行く。
平和だった頃は、平原で草食動物を捕食していたけれど、ダークエルフとの戦い以降、草原が危険になった。
戦争で何頭ものドラゴンがダークエルフによって殺されたのだ。
エルフは、11才になる年にドラゴンの卵と感応してドラゴンと絆を結ぶ儀式がある。
スリーはもうすぐ感応式があるので、とても楽しみだった。
しかしスリーは、高い所は苦手で、ドラゴンに乗って飛ぶのを他の子よりは魅力を感じなかった。
ドラゴンに乗れるまでは川イルカに乗って移動している。
学園の規則で自分のドラゴンに乗ってくるか、川イルカに乗ってくるかのどちらかだった。
スリーが大声で呼んだ。
「ジャンピおいで!!」
鬱蒼と茂った森の中の川を、右から猛スピードで泳いできて、目の前でジャンプしながら前方回転をした。
このイルカがジャンピだ。
スリーが幼い頃からの友達で、とっても仲が良い。
体長3メートルぐらいはある、大きなイルカだ。
「おはようジャンピ」
「おはようスリー。
今日は学園まで?」
「うん、よろしく」
「任せてよ。
早く魔法をかけて行こうよ」
「分かったよ。ちょっと待ってて。
ヌレナイヌレタクナイボウスイ!!」
スリーの体全体が薄い膜に覆われた。
これで水に濡れなくて、たとえ振り落とされてもプカプカと川に浮いている事ができる。
「ようし、準備はいいよ。
ジャンピお願い」
「わかった。 行くよー」
川イルカの上には、皮で出来た足を載せる台がある。
手綱を持って、その端を川イルカが咥えている。
これで準備万端だ。
言葉を理解するので、行き先を言えばそこまで行ってくれる。
森の静寂を破ってスリーが水上を逆立ちして行く姿は、陸地を歩いている人の目を引いていた。
大きな川に出ると、生徒の中にアクアマリーン区のスームリが見えた。
彼もスリーがいるのが分かったようだ。
スリーと同年代で、前回の川イルカ競争ではスリーがほんのわずかな差で勝った。お母さんが誕生日祝いに、プレゼントしてくれた中にいた子だ。
それと2人とも、地区対抗の川イルカの競技である川イルカボールの代表に選ばれたいのだ。
2人が顔を合わすと当然競争になった。
相手よりも少しでも先に行きたいと、お互いに思っている。
今回も同じで、2人とも猛スピードで他の生徒の中を縫いながら進んで行った。
最短距離を泳いでいるので、他の生徒のすぐ横を通り過ぎて行き、驚いた生徒が叫んでいる。
「キャ〜、ヤメて!」
「危ない!!」
数人が川に落ちたのをスリーは後ろを振り返って見ていたが、スームリに負けるわけにはいかない。
さらにスピード上げていった。
スリーの目の前に、突然横一列になっている5、6人の生徒達が目に入ってきた。
ぶつかると思った瞬間、腹ばいになりジャンピの背中にお腹をつけた。
いったん潜って勢いをつけて、前方に大きくジャンプして飛び越えていった。
「イヤッー、ホ〜〜〜」
スリーは得意げに大声で叫ぶと、見事に着水した。
追い越された生徒達が驚いて川に次々と落ちていった。
遠くから眺めていた体育の教授であるグレンダル教授が、呪文を唱えた。
「ウルスメルブスーモマスマス」
次の瞬間、スリーとスームリの動きが止まった。
動きを完全に止める高等魔法だ。
手に持っていた手綱が離れ、2人とも川に落ちていった。
濡れない魔法を掛けていたので濡れなくて良かったけれど、呪文で2人ともなすすべもなくプカプカと浮いている。
グレンダル教授がまた呪文を唱えた。
「ヒモヒモカラムムム」
今度は足首に手綱が絡んで、それぞれの川イルカが学園まで引っ張っていった。
それを見た生徒達は、笑いながらスリーとスームリを眺めていた。
もうすぐサーシャリー魔法学園につく。
サーシャリーの木は、川を跨いだ形で両岸から伸びて、川の中央の上で合流し、さらに上に伸びていた。 この木は、アットオモッタライチマンネンと呼ばれている樫の木の種類で、樹齢1万2000年ぐらいだろうと言われている。
高さは200メートルを超えていて、横も120メートルは軽くあった。
2人は、左側の木の1階の廊下に立たされ、首からボードが掛かっていた。
「私達2人は迷惑をかけました。もうしません」などと書かれている。
前を通る生徒はクスクス笑いでながら通り過ぎて行った。
「スリーが悪い。
僕は普通にイルカに乗っていただけなのに」
「僕もそうさ。
普通に乗っていただけなのに、スームリが悪い!」
「スリーの方だろそれは!」
2人が言い合いをしている時に、右からスリーが好きな女の子ビーナムが微笑みながら歩いてきた。
スリーにとっては、ビーナムがスローモーションで通り過ぎると思うくらいに、とてもゆっくりとした動きで行き過ぎて行いく。
ビーナムがスリーの首から掛かっている文字を読んで、クスクス笑って通り過ぎた。
ビーナムが通り過ぎて、今日はなんて日だろうとスリーが思ったら、今度は妹のニンフルが目の前に立っていた。
「スリー、これで2度目だよ。
私の身にもなってよね。
私も、みんなから笑われるんだから!」
もう最悪。
そう言えば、今日は僕の誕生日だったんだと思い出して、ますます落ち込んで行ったスリーでした。
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