第2話

 人というのは腹が減るもので、燃費効率の悪い俺の体は「ぐきゅるる」と悲鳴を上げていた。


 「あーもー!腹へった!!」


 叫んだところで周りには緑の絨毯しかない。故に一層孤独感に見舞われる。

 カメラでも持ってくればよかったなぁと一瞬後悔するが、第一にここがどこで、家に帰れるのかすらわからない。


 あの爺さんの言葉が頭の中で再生される。


 死んだと言われたが、現に俺の心臓は脈打っているし、生きている証とでも言える「空腹感」が俺を包んでいる。包みまくっている。

 左手にくしゃっとした感覚がある。爺さんがくれた紙だ。


 『欲しいモノを一つ』


 書けとは言われたが……くれるとは言ってなかった。というより、この紙切れにどんな効力があるようにも見えないのだ。

 

 しかしなにも起こらないなら書いても書かなくても同じ、という理由で書いてしまうと思わぬ後悔が生まれるかもしれない。

 少し歩くと町があるかもしれないし、誰かがここを通るかもしれない。


 ……良い機会だし、今の内に俺の自己紹介でもしておこうかな。あ、誰に向けてとか聞くな。


 俺の名前は倉萱くらがやまこと

 あだ名はシン。但し小学校までに限る。中学では周りに馴染めず年間で2回しか名前を呼ばれていない。

 高校では……義務教育ではないことをいいことに日がな一日ゲームに費やしていた。

 性格は至って慎重で温厚だ。ゲームの中でもレベル上げに力を入れるタイプだし、建築ゲームでもまずは外壁から作る。そして回復系アイテムは商人側に在庫がなくなるまで買い占める。

 容姿は悪くないと思っている。母によく言われるたのは「モブっぽい」 ちなみにモブとはメインでは無い人、脇役やエキストラの事だ。


 ……辺りからは変わらず、流れるような草の音が聞こえている。

 開放感があってとても癒される……二年以上も四畳半から出ていなかった所為なのか?


 太陽が目線と同じ高さになり、腹の虫が鳴き疲れた頃、草音とは別の音が聞こえ始めた。

 

 「なんの音だろう?何か転がしてるみたいな……」


 丸太を転がしているようなその音は数秒で段々と大きくなる。

 若干の丘陵になっている草の向こうから、音の正体は現れた。


 「馬車……?」


 疑問符が出た。何故か?

 俺の知っている馬車とは違い、


 「ぐるぁ」


 熊が車を引いていた。


 そして熊の巨体に見え隠れする客車……人が乗るところから、身を乗り出す人物がひとり。


 「何をしている少年! ここは私有地だぞ」


 熊は相変わらずこちらに走り続けている。


 「え、ちょ待って! 止めて止めて!」

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