とりあえず読んで感想くれ

@neet

死を恐れ、時は戻る

 思う。

 朝、会社に行く前に新聞の字面をけだるげに眺めながら、ふと思う。昼、取引先との商談で作り笑いを必死にしながらやっとの思いで契約を取ってふと思う。夜、キレの悪くなった排尿を済ませて布団に入り、ふと思う。あの頃はよかった。あの頃に戻りたいと。


 私は人生に後悔していたのだ。小学校、中学校、高校、大学。それぞれのステージで記憶に残るような楽しい思い出などはほとんどなかった。社会人にはこれまでのような区切りなどは存在しない。社会人とは明確な目標もないままひたすらに働き、ひたすらに食べて生き残るだけが日々の日課の下等生物だ。下等生物であり、廃人であり、猿であり、それでもひたすらに生物であり続ける。


 人生の終点を意識して、現状に満足しない人間が最後に行きつく場所、それが後悔である。後悔をためてためて、ため続けた先にあるのは死でしかない。人は必ず死ぬ。死ぬことを回避することは、この科学技術が発展した現代でさえ不可能とされている。先日、23世紀に活躍した科学者を表彰する世界科学技術貢献者授賞式に登壇したアルベルト=リオルが正式に発表した見解では、人の死は避けられない、しかし人の死は引き延ばすことができるのだそうだ。死んだも同然の生活を送っている私にとっては死を引き延ばすことが何に役に立つのか全く想像がつかない。それはおそらく、今日参加する未来展で各社が発表した時を逆行する装置を見聞きすることで明確になるのだろう。そう思って今日、私は千葉の幕張メッセで開催される未来展にやってきた。


会場はざわめく喧噪と多くの人であふれかえっている。それもそのはず、今年はタイムトラベル元年とされ、各企業は時間を操る家具家電をメインに展示を行うとのことだからだ。これまでは、時間は不可逆性を持つものとされていた。しかし、ドイツの科学者、アルベルト=リオルが時を空間に溶け込ませる概念を発見。それから、数十年の時間がたち、企業レベルで時間を操ることが可能になった。そうやって自信作を持ち寄った初めての展覧会が、この未来展である。




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