組合にて
「よく来てくれた、モモン君。ナーベ嬢も」
冒険者組合組合長アインザックの顔には憂慮があった。
となりに座る魔術師組合組合長も同様だ。
(緊急で呼び出されるのはシャルティアの一件以来か……)
アインズは少し前のことを思い出す。
その時は都市長とミスリル級冒険者チームのリーダーたちがいた。そのうち一人はこの世にいないのだが、彼の名前はもう覚えていない。
「座ってくれ。さっそく確認したいが、彼女が襲撃されたのは事実かね?」
「はい」
アインズは話の先がわかっているので早く進めようとした。
「人違いという可能性はないか?貴族の令嬢か誰かと間違われたとか。あるいは強盗だとか?」
アインザックの声にはすがるような響きがあった。
「ありません。強盗ではなく、殺害が目的です。敵は待ち伏せしたうえにはっきりと顔を見てから襲っていますから」
ナーベラルの代わりにアインズは答え続ける。
彼女に答えさせるとうっかり余計なことを喋りそうなので基本的には喋らなくていいと言ってある。
「なぜ彼女がその場所を通るとわかったのだろう?」
これはラケシルの問いだ。
「ナーベは以前に頼んでいた冒険用具を店に受け取りに行くところでした」
アインズは事実をそのまま話す。
冒険者としての活動で細かな消耗品は出る。それをナザリックから補給していたのではもったいないし、怪しまれるので普通にこの街で購入していた。その店が人の少ない裏通りにあるのは不満だったが、表通りより土地が安いとか理由があるのだろうと勝手に想像している。
「そこの店主か関係者が情報を流したと?」
「いいえ、ラケシルさん。隠すようなことではありませんし、店の箔がつくから積極的に話す人もいます」
アインズもその点は考えた。
最高位冒険者ご用達となればどこの店もこぞって宣伝するし、ナーベラルはとにかく噂の的になりやすい。「あの美姫が来たのか。何を買ったんだ?」という具合に話し、次の来店がいつか知るくらい容易だろう。あとで調べるつもりではあるが、黒幕が馬鹿でないならそこに手がかりを残すと思えない。
「店の関係者を調べるよう私から伝えておこう」
アインザックは言った。
「では、犯人の目的はなんだ?」
来たぞ、とアインズは思った。
「我々は魔物の討伐で社会にも生態系にも問題がないよう配慮しているが、完璧ではない。君たちに任せた依頼のどれかで恨みを買ってしまったのだろうか……」
アインザックは考え込む。
この芝居にはアインズも苦笑した。
「組合長、はっきりと言ってくれて構いませんよ。公式の依頼で誰かに恨まれるはずがありません。非公式な依頼を受けたと思われているのでしょう?」
「いや、そういう意味ではない!そもそも非公式な依頼を受けても何も問題はないのだから!」
アインザックは取り繕ったが、図星だと丸わかりだ。
これがアインズの恐れていたことだった。冒険者が暗殺対象になるなど汚い仕事に手を染めて恨みを買ったときしかない。そして、そういう悪い噂ほど急速に広まってゆく。
(どこの誰か知らないがよくもやってくれたな……)
手間と時間をかけて築いた最高位冒険者の地位と名声を台無しにされかねず、アインズは事件の首謀者に黒い感情を募らせる。
「断言します。非公式な依頼は一つも受けていません」
「では、犯人の目的はなんだと思う?これを聞いてよいかわからないが、君たちの国家でトラブルが起きたという可能性は?」
「それはありません。そちらも断言できます」
アインズは即答した。
そもそもそんなものは存在しないのだから考えるだけ時間の無駄だ。
「では、目的はなんだろう?」
(こっちが知りたいくらいだよ!)
アインズはそう言いたかった。
いくら考えても偽装身分であるモモンとナーベが恨まれる覚えなど全くない。荒唐無稽な逆恨みでもされたか、アインザックのいうとおりドジな暗殺者たちが標的を間違えたのではと思いたいくらいだった。それはそれで容赦しないが。
「以前に……」
綺麗な声が響いた。
アインズは隣を見る。
ナーベラルがおずおずと何か言おうとしているのだ。
「以前に……ナントカという秘密結社の男を墓地で殺しましたが、その報復という可能性はないでしょうか?」
ほう、とアインズは思った。
基本的に喋らなくていいと言ったが、ここに来る前に彼女の考えを聞かせろと命じた。ナーベラルなりに推理しているのだろう。
「ズーラーノーンか……」
アインザックはそれを聞いて腕を組んだ。
だが、すぐに首を横に振る。
「いや、それはないと思う。彼らは復讐を考えるような集団ではないし、それなら冒険者組合を恨むのが筋というものだ」
「だろうな」
「私も同感です」
アインズにまで否定され、ナーベラルは少し落ち込んだ。
「だが、発想は悪くないぞ、ナーベ。柔軟な考え方だ」
アインズは嬉しそうに言った。
的外れだとしても部下が必死に考えたのだからここで褒めないでどうする。
それを聞いてナーベラルも元気を取り戻す。
「ナーベ嬢、君の所持品の何かを狙われたという可能性は?」
そう聞いたのはラケシルだ。
「というと?」
アインズはラケシルの意図を計りかねた。
「以前に第8位階の魔法が封じられた魔封じの水晶を見せてくれたが、あれも命がけで奪ってゆく者がいないとは限らないほどの代物だ。普通なら戦闘のプロから奪うなどありえないが、その危険を冒してでも奪いたい別の品物があったりしないだろうか?」
「それはないでしょう……」
ナーベラルの代わりにアインズが答えた。
「誰かにナーベの所持品を知る機会があると思えませんし、そもそもそれほど貴重なものは心当たりがありません」
「……そうか」
ラケシルの顔に「残念」という感情があるのをアインズは見逃さない。
(こいつ、貴重なマジックアイテムを見たいだけでは……。邪推し過ぎか?)
アインズはその可能性は低くないと思った。
魔力系魔法詠唱者は知識欲が強いほど魔法を習得できるので必然的に高ランクの魔術師ほど魔法マニアが多い。以前の魔封じの水晶への反応を見るとまったくの邪推ではないだろう。
「こちらからも質問をいいですか?犯人の所持品などに手がかりは?」
アインズは少しだけ期待をして質問した。
死体をナザリックに持っていかなかったのは人間たちに捜査させるためだ。
「そうだった!これを見てくれ」
アインザックは小さな袋を取り出すと中から黒い指輪を出した。
奇怪な模様が彫られ、一言でいえば不気味な指輪だ。
「襲撃者は全員これと同じ指輪を持っていたそうだ。一つ借りてきた」
「魔法はかかっていないと我々が確認済みだ」
ラケシルが補足した。
アインズはそれを受け取るといろんな角度から眺める。
「魔法がかかってないなら奴らの認識証みたいなものでしょうか?」
「かもしれないな」
アインザックは言った。
ナーベラルがアインズの顔をちらりと見る。
(わかってる。ロケートオブジェクトだろう?)
アインズもすぐに考えた。
もしも襲撃者の仲間が同じ指輪を所持していれば物品探知の魔法で探せる。アインズは頭の中の予定表にそれを組み込んだ。
「この指輪をお借りしてもよいですか?」
「本来ならまずいが……君なら構わないよ」
アインザックは小さな恩を売る。
「他に身元を知る手がかりはなかった。小額の金銭と武器だけだ。泊まった宿を洗い出すために人相書きを配っているが、こちらは時間がかかる。何しろ大きな街だ」
あまり当てにしない方がいいな、とアインズは思った。
変装していたかもしれないし、正規の宿に泊まったとは限らない。
壁外で野宿することも不可能ではない。
「とにかく前代未聞の事件だ。目的が何にせよ、組合の威信にかけて首謀者を見つけ出す」
「魔術師組合も同じだ。魔術師の情報網は広く細かい。期待してくれ」
二人の組合長は本心か虚勢かそう言った。
「ありがとうございます」
アインズはとりあえず頭を下げておく。
「では、一つお願いがあります。兵士や冒険者達にナーベに近づかないよう言ってもらえますか?私たちが泊まっている宿にも近づくなと」
「なぜだ?護衛をつけるつもりだったが……まさか……」
「囮にする気か?」
二人は信じられないという顔をした。
「ええ」
今のアインズにはそれくらいしか方法が思いつかなかった。
暗殺者に仲間がいるなら再びナーベラルを襲わせ、そこを捕縛する。敵が自決するというなら動きを封じればよい。あらゆる状態異常系の魔法に並の人間が対策をとれるとは思えず、仮にとれるとしても服毒自殺を封じる手段は今思いつくだけでも3つある。
「君たちは少しも恐れていないようだな。まあ、6人を返り討ちにしているのだから今さらだが」
呆れとも感嘆ともいえる表情をするアインザック。
「普段なら魔術師を一人で囮にするなど断固反対だが……」
ラケシルのほうはやや呆れが強かった。
「君たちは規格外だ。余計な心配なんだろうな」
「当然です。我々は最高位冒険者ですから。逃げも隠れもしません。黒幕が何者だろうと必ず見つけ出し、”我々”を襲ったことに責任を取ってもらいます」
アインズは潔白が伝わるよう堂々と言い、必ず見つけ出すぞと自身にも誓った。
「逃げも隠れもしない、か。最悪の事態は避けられそうだな」
話し合いと情報共有を終え、モモンとナーベが退出するとアインザックは言った。
「ええ、二人が街から出て行くと言い出さないでほっとしたでしょう?」
「全くだよ」
アインザックは大きく息を吐いた。
この都市は物騒なのでほかの街に移ると二人が言わないか、彼は気が気ではなかった。
「彼らを失うわけにいかない。カッツェ平原を前にしてるというのに、ここにはオリハルコン級の冒険者さえいないのだから……」
彼は以前から不満に思い続けていたことを言った。
冒険者に国境はなく全ての人類を守る建前があるが、現実にはどこに強い戦力を配置するかという問題がある。他所の冒険者に救援要請しても間に合わないことが多々あるためだ。
実際、ズーラーノーンによるアンデッド大量発生事件があった時はモモンとナーベがいなければエ・ランテルは良くて半壊、悪ければ全滅しただろう。彼ら最高位冒険者がいることで都市の安全と評判は明らかに増した。経済的な恩恵も受けており、王都での会計報告が楽しみだと都市長は言った。
「そういえばオリハルコン級冒険者を引き抜こうとした時があったな」
「それは言わないでくれ、ラケシル。昔の話だ」
実際には少しも昔ではないが、彼は苦笑した。
他の都市からオリハルコン級冒険者チームを招聘しようと画策し、むこうの組合長と市長から抗議を受けたことがあった。
「いっそアダマンタイト級を、と考えたこともあったよ。今では嘘から出た真というやつだ」
アダマンタイト級冒険者という最高戦力が王都には2チームいる。両方が王都に住んでいることは仕方ないという声もあるが、1チームを他所へ配置すべきではという声もあり、アインザックも後者だった。それが今では自分たちも王都と同様に嫉妬される側なのだから世界は面白くできていると彼は思った。
「おっと、話を戻そう。非公式の依頼を受けていないというモモン君の言葉は信じていいと思う。手を出す理由がない。では、暗殺者の目的は何だと思う、ラケシル?」
「彼らの前でも言ったが、本当にお手上げだ」
ラケシルは素直に言った。
「黒幕が狂人だったら最も納得いくよ。それよりもう一つの問題に移ろう」
ここでラケシルは声を小さくした。
「組合に犯人の協力者がいるかどうか、だ」
「ああ、それか……」
彼は苦々しい顔になった。
二人ともモモンとナーベの前で言わないことがあった。冒険者組合や魔術師組合に暗殺計画の協力者すなわち裏切り者がいる可能性だ。
美姫ナーベは有名とはいえ、部外者が一から情報を集めるのは苦労が多い。市民なら情報を集めやすいし、組合員ならさらに容易だろう。裏切り者がいたらここの組合の評判が地に落ちることになり、あってはならないことだが、ありえないと信じるほどアンザックとラケシルは無垢でも馬鹿でもなかった。
「信用できる者を集めて調査する。魔術師組合もそちらで頼むよ」
「ああ。協力者はできれば無関係の市民、最悪でも組合を抜けた人間であってほしいね。現役の組合員が裏切り者だったらあの二人がなんと思うやら」
「全ての冒険者がモモン君のようでいてくれたらいいのだが。彼は過剰なくらいに法律を気にするからな」
「まったくだ」
ラケシルも心から同意した。
会議室を出たアインズは下の階へ降りるとアインザックから聞いた部屋に向かった。
ドアをノックすると「はい」という女性の声がした。
「冒険者のモモンだ。少し話をしたいのだが」
彼がそう言うと部屋の中でバタバタと慌しい音が鳴り、すぐにドアが開いた。
「モ、モモン様!よくぞいらっしゃいました!ナーベ様もご機嫌麗しゅう!」
一人の受付嬢が驚いた顔でアインズを見上げる。
部屋は魔法の照明が輝き、大きな机の上にはペンとインク、そしていくつも巻物が広げられていた。
「急に訪ねてすまない。こんな遅くまで仕事とはご苦労なことだ」
「仕方ありません。昼は通常業務がありますから」
従業員は慌てた顔を営業スマイルに変える。
「ということは、そこにある巻物は私たちが頼んだアレか?」
「はい」
「おお、それは益々すまない」
「とんでもございません!お二人がこんな雑用をなさる必要はありませんから!」
アインズたちの会話にナーベラルが不思議そうな顔をした。
「ん?ああ、そういえばお前には言ってなかったな……」
アインズはこれを機に彼女に説明しておくことにした。
「最高位冒険者になってからあちこちから手紙が届くようになったのは知ってるな?討伐完了への礼状や昇格祝い、その他些細なものだ」
「はい」
「ファンレターも来ますよ。お二人なら当然のことですが」
受付嬢が言った。
「私はその手紙を仕分け、儀礼的な返事が必要なものは代筆しています。あっ、申し送れました!私はイシュペンと申します。以後お見知りおきを。ナーベ様」
彼女はナーベラルに向かって微笑み、返ってきたのは微動だにしない氷の表情だった。
「秘書、ということですか?」
ナーベラルもおおよそ理解したようだ。
「そうだ。秘書を用意すると組合長から言われたときは驚いたが、とても助かっている。ありがとう」
「とんでもございません、モモン様!」
アインズが頭を下げ、イシュペンは慌てた。
(俺たちに貴族や商家から来るスカウトの手紙を読ませたくないって事情も知ってるんだがな)
アインズは兜の中で笑う。
冒険者を辞めて私兵として雇用されないかという直接あるいは遠まわしな表現が書かれた手紙が何通も来ており、送り主は王国だけでなく帝国の人間も含まれる。さすがに組合もそれらを隠すことはないが、遠まわしな表現は”意訳”して伝えていることをシャドウデーモンを通じてアインズは知った。
卑劣とは思わなかった。有能な社員を繋ぎ止めたいのは企業なら当たり前であるし、どこの貴族や富豪であれ今の偽装身分を捨てるほど有益な待遇があると思えない。
「さて、ここに来た用件だが、ナーベ宛に変な手紙は届いてないか?危害を加えるとか、それに近い脅迫状が来たということは?」
「ありえません!」
イシュペンは即答した。
「そんな手紙があればすぐにご報告しています!」
「そうか……まあ、そうだな」
アインズは自分なりに思いついた可能性が潰れ、落胆した。
ナーベラルに恨みを持つ人間がいるならその兆候がどこかに現れると思ったのだが、所詮は素人の思いつき。名探偵アインズなど夢のまた夢である。
「あっ、変な手紙はないのですが……一つ困っていることがあります」
「なんだ?」
事件の手がかりか、とアインズは少し期待する。
「以前にご報告したエフェンドラ様のことです。お断りの手紙を出し続けているのですが、なかなかあきらめて貰えず……」
アインズは記憶をひっくり返してエフェンドラという名前を探す。
人名を覚えるのはビジネスマンの基本だが、この世界の権力者は3つも4つも名前を持つので苦労している。
「ああっ!ブルムラシューの息子……じゃなくて、ブルムラシュー侯のご嫡男か。ナーベに手紙を送ってくるという」
「はい」
イシュペンが頷き、一人だけ意味がわからないナーベラルは首をかしげた。
「ブルムラシュー侯爵はわかるか?6大貴族の一人で王国随一の財力を持っている人物だ。確か、裏で帝国に情報を流してる噂が……いやいやいや!そういう理不尽な噂も出るくらい有名な貴族という意味だ!ゴホンッ!公爵の嫡男がお前によく手紙を送ってくるのだ。理由はまあ、なんというか……」
「ナーベ様と交際をしたいという手紙です」
イシュペンがアインズの代わりに答えた。
「は?」
顔に虫が止まったような不快な顔をするナーベラル。
「結婚を前提に、と。どこかでナーベ様のお顔をご覧になったようで、何度も情熱的なお手紙を送ってくるのです。私から丁重にお断りする手紙を書いて出しているのですが、忍耐の強い御方のようで……」
イシュペンは苦笑する。
しつこい奴がいたものだ、アインズは思った。
実はアインズも同じ話が舞い込むことがあった。雇用だけの関係ではなく養子や婿入りという血の繋がりで大きな戦力を取り入れようとする商家や貴族だ。血統を重んじる貴族とはいえ財産や武勲、あるいは能力があるなら体裁を整えて家に迎えることがあり、最高位冒険者は申し分ない武勲の持ち主だった。
アインズは度々断りの手紙を送らせ、相手も2,3回断ればあきらめてくれる。それが常だった。しかし、戦士モモンと比較して魔術師ナーベに結婚まで迫る貴族は意外に少なく、大貴族がここまで執着するのも意外だった。
「エフェンドラ殿はどうしてそこまでナーベにご執心なのだ?この国で魔術師の地位は低いと聞いているが……」
「決して褒めるわけではありませんが、ひょっとするとエフェンドラ様かお父上の侯爵様は魔術師の重要性を理解しているのかもしれません」
イシュペンは冒険者組合受付嬢の血が騒いだのか突然きりっとした。
「貴族ならば間違いなく手紙の指導係がいるでしょうが、ナーベ様へのお手紙はそのお美しさを讃えるものが多い中で、この御方はそこに軽く触れるだけで魔術師としての実力を褒め称えています。
百万の兵を抱えても不可視化や瞬間移動などの魔法を使われれば対処できません。魔術師に対抗できるのは同じ魔術師だけです。帝国のフールーダ・パラダイン様が良い例かと。あの御方がいることで帝国は王国が危惧するような多くの陰謀と無縁でいられます。
そもそもお二人が討伐した数々のモンスターと功績を検証すればモモン様だけでなくナーベ様も尋常ならざる能力の持ち主である事は誰にでも理解できること。戦士と魔術師の二人組で活動するなど通常は不可能ですから。そういえば6大貴族のレエヴン侯爵様もお二人が最高位冒険者に昇格されてすぐに祝い状を送られており、この御方もかなりの知恵者かと存じます。
ですが、ナーベ様を正しく評価なさっている貴族は残念ながら王国よりもむしろ帝国に多く――」
「わかった!わかったからその辺にしてくれ!」
アインズはこのまま永遠に喋り続けそうな彼女を制止した。
「とにかくエフェンドラ殿は熱烈にアピールしてくるわけだな?」
「はい……。ひょっとしたら私が身分違いを強調してお断りしたしたことでエフェンドラ様は脈ありと判断したのかもしれません。お許しください!」
イシュペンは深く頭を下げる。
「いや、文面も考えずにただ断ってくれと頼んだのは私だ」
アインズは少し責任を感じる。
(暗殺者の問題に比べれば本当にどうでもいいことだが、財力のある貴族なら友好的な関係でいたい。角が立たないよう治めるにはどうしたらいいんだ……?)
アインズは新しい問題ができて頭が痛くなった。
「死ね、ウジムシ、と返事を出せばあきらめるのでは?」
ナーベラルは不思議そうに言った。
部屋に沈黙が降りる。
「……ま、まあ、今度は少し強めの表現で断ってもらえるか?無礼にならない範囲で」
アインズは文面をどうすべきかわからないのでイシュペンに丸投げした。
「か、畏まりました……」
一も二もなく彼女は応じる。
(よし、何かあればこいつのせいにできる!)
浅はかな考えを抱きながらアインズは退出した。
部屋を出るとナーベラルが再び口を開いた。
「ア……モモンさん。先ほどの貴族がこの一件と関わっている可能性はないでしょうか?」
(え?どんな関係が?)
アインズには想像ができなかった。
「いえ、どのようにかはわかりませんが、同じ時期に起きたからには偶然でない気がするのです」
「……ほう」
ナーベラルは必死に考えているようだ。
いや、ないだろ、とアインズは言いかけた。
しかし、ここで明言すると万が一の際に言い訳できなくなる。
どう答えるべきか。
「……まあ、柔軟にいろんな可能性を考えてみろ。ただし、考えすぎると泥沼にはまるぞ」
一見、意味がありそうで何の意味もないことを言って歩き出す。
ナーベラルはそれ以上質問せず、アインズはほっとした。
幻の胃がきりきりと痛む。
(とりあえずあの指輪を探知させよう。だが、それで仲間がわかるなんて都合のいい展開があるか?俺が襲撃者ならそんな手がかりは残さないぞ……)
アインズはそんな疑問を持った。
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