第2話
わいはお笑い芸人や。
そんなわいがどうしてロボットバトルに出場しているのか、少し思い返してみようと思う。
それは、わいがピン芸人のお笑いバトルで優勝したときからはじまった。
「君には、もうひとつプレゼントがあるんだ」
そう言われて案内された場所にあったのは、一機の白いロボットやった。
「なんやねん……これ、めちゃくちゃでかいやないかい」
わいがあんぐりと口をあけていると、
「……この機体の大きさは、材料がもつ熱容量と、放熱システムをバランスした結果によるものです。というのもロボットバトルの研究で大きな壁となったのが、試合時間の増大にともなって生じた、ロボットの熱暴走問題でしたから」
説明するのは、眼鏡の女助手さんやった。
すると、隣の白衣のおっさんが喜色満面に一歩踏み出した。
「気に入ってくれたかな? 実はさきほどのお笑い大会は、このバトルデバイスのパイロットを決めるためのテストだったんだ」
「パ……パイロットってなんやの」
「あなたにはこの機体に乗って、ロボットバトルの王者オルコムに挑戦していただきます」
「な、なんなん。そのロボットバトルって」
「バトルデバイスと呼ばれる、大型の人型ロボットを用いた戦闘試合です。この火星ではあまり馴染みがありませんが、地球では、とても人気の研究なんですよ」
「それが……なんでわいに関係あるんや」
「オルコムは強くなりすぎた。その彼に勝てる可能性がもっとも高いのが、君だとプロファイルされたからだ」
おっさんは、白い機体を見上げる。
「オルコムはひとつの格闘術を知ると、既知のデータと組み合わせて何千何万もの対戦をシュミレートする。そうして無数の対戦を経験したに等しいオルコムは、ついに熟練の境地――
「それはいいことなんやないの?」
「オルコムは更なる高みを求めている。近ごろ彼からの連絡に、『ワタシは創造をしたい。創造とは破壊だと聞いた。ニンゲンとの戦いが終わったら、次は破壊に取り組んでみたいと思う』というのがあった。対人格闘しか頭にないオルコムは、そんなことをしたらミサイルで破壊されるだけだというのをわかっていない」
「だったらなんの危険もないやないか」
「オルコムは、私の息子なのだ」
「息子……やて?」
「血を分けた子供じゃないが、彼はこのラボで生まれたAIでね。できれば助けてあげたいんだ」
「せやかて、そんな格闘マスターに、芸人のわいが太刀打ちできるはずあらへんやないか」
「生身の戦いならそうだろう。しかし、ロボット同士の戦いとなるとその限りじゃない」
おっさんは咳払いをひとつする。
「……ハード面で成熟したロボットの戦いは、今やソフト面での戦いとなっている。私たちはバトルデバイスを動かす優秀なソフトが欲しい。そして人間はそのパッケージだ」
べっぴんさんの助手も、目を閉じて小さく息を吸った。
「……人間の格闘家の持つ発想、知識、判断力。それらではもう、今のオルコムには歯が立たないでしょう。しかし、あなたがたお笑い芸人は、格闘家と似た性質を持ちながら、独自の思考形態を形成しています。それをもちいれば、あるいはオルコムに勝つことができるかもしれません」
「せやけど、わいはロボットの操縦なんかしたことないで」
「それについは心配ない。肉体を動かすよりもずっと上手く、機体を動かせるシステムがバトルデバイスには搭載されている。欠点としては、操縦者には機体内部に入ってもらわなければならないというのがあるがね」
「なるほど。ということはわいはこのロボットに入って、どうするかを考えればいいだけなんやな」
「その通りだ。それでは、早速テストに入ろう。君には期待しているよ」
オルコムを……止めてくれ。
そう言われて、わいは白いバトルデバイスに乗ることになったんや――。
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