第20話 大好きな人

理央とは、お別れをした。お互いに幸せになることを約束して。そして今、記憶が戻ったリクと一緒に帰っている途中だ。なぜか、お互い緊張していて言葉が出てこないまま。折角元通りになったというのに、もったいないなあ。なにか話題…。


「記憶、戻ったんだ。生きていた時の記憶、すべて。」

「え、本当?」

「あの時、リクが沢山の人混みがいる中で必死に鉄柱と除けてくれていたことも、全部わかった。うれしかった。リクが殺したんじゃない。リクに助けてもらった」


リクには、助けてもらってばっかりだったから、リクに何かお礼ができないかと考えていた矢先にあの殺人鬼が乗り込んできたんだ。あの殺人鬼は空気を読まない。

だけど、あの事件があったからこうやって記憶を取り戻すことができたのかもしれないなと思うと、殺人鬼ん感謝をしてしまった。でも、リクの周りをぐちゃぐちゃに壊してしまったことは許せなかったから、あの殺人鬼を許すことはない。


「カコが、一人であの殺人鬼を倒したこと。店長に聞いたんだ。悲しそうな顔をして、怯えたような顔をして帰ってきたって。俺の仇を取れたかなって。でも、俺はそれを聞いて、悔しかった。カコにそんな酷いことをさせてしまったこと。」


僕は必死に首を横に振った。あれは僕が自分で勝手に行動したことだったから、リクには何も責任はないって。人間や人鬼を無差別に殺すあの殺人鬼が許せなかったから、僕の体が勝手に動いただけだと。だけど、リクは俺のせいだと聞かない。好きな人を守るためにやったことが裏目にでてしまったのか。初めて、このことに初めて後悔をしてしまった。あの殺人鬼に一人で立ち向かったことに。


「もっと強くなって、俺がカコを守れるようにする。カコが悲しい思いしないように、これからは俺がカコを守っていく。俺の、大事な人になってほしい。」


あまりにもリクが真っ赤な顔をして言うもんだから、こっちも恥ずかしくなった。だけど、それ以上に嬉しい気持ちのほうが断然大きかった。僕は、精いっぱいの笑顔で頷いた。これ以上に嬉しいことはたぶんなかっただろう。人間だった頃も、恋なんてしたことなかった。人鬼になって、初めて経験した気持ちだった。リクと一緒に生きていきたい。リクの大事な人になりたい。そして、これからもリクを支えていきたい、そう心から思えた。今、初めて神様が僕に微笑んでくれたような気がした。悲しい別れもあったけど、初めて人鬼になってよかったと心から思えた。


「リク、いま一番幸せかもしれない。」

「当たり前だ。俺の隣にいるんだ。幸せじゃないと困る。」


人間とは一緒には暮らせない。それは人間を喰う生き物だから。人鬼には幸せがない。心がないから。こんなのは、誰かが言ったでたらめだ。人鬼も人間もちゃんと向き合えば分かり合える。仲良くなれる。人鬼だって幸せになれる。こうやって、いまちゃんと僕がその幸せをつかんでいる。街にいる人鬼だって、みんな笑顔だ。人鬼に生まれたからって、生まれ変わってしまったからって、神様はちゃんと信じて微笑んでくれる。自身が努力をすれば、ちゃんといい人に恵まれる。僕は、大きな失敗を何度もしてきた。そして、大切な命を一度失った。だからって、幸せも人の心もなくなったりしなかった。いつか、人間と人鬼が分かり合える幸せな世界が訪れる日がちゃんと来ますように…。

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人鬼物語 成生わふ @wafu_mo

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