第19話 親友だった人

組長に友達のことを聞いて、家を教えてもらった。ここから遠くもなく近くもないところだった。あの時は、理央さんは用事があって僕と一緒には帰らなくて、別の友達を連れて帰ってきていた。そして、友達との別れ際に僕は下敷きになって死んでしまったという。家族だった人や友達だった人の話は新聞やスクープ雑誌よりも信憑性がある。何がともあれ、死んだのが僕だけでよかったと思う。あの時の記憶は何もないけれど、一緒に帰っていなくてよかったと思う。


「前島理央さん。」


組長が電話で近くの公園まで呼び出してくれたから、理央さんは公園のベンチで待ってくれていた。僕の姿を見て、悲しそうな表情をした。今日は彼氏さんとは、一緒ではないらしい。一人でポツンと座っていた。僕は理央さんの目の前に立って勢いよく頭を下げて、謝った。とりあえず、最初に謝っておきたかった。家族だった人たちと同様、カコであることを自白した。そして、人鬼であることも記憶がないことも、人鬼であることを隠すために偽名を使っていることもすべて話した。


「あの時のこととか、僕がちゃんと生きていた時のことはみんなから聞いた。新聞の記事やスクープ雑誌とかで調べたりもした。本当にごめんなさい。死んだ僕を探してくれてありがとう。」

「やっぱり、カコはカコだね。人鬼になったんじゃないかってことは、薄々気づいてはいたんだよ。あの時、本当に私のことを忘れているんだってわかった。でも、どこかで覚えてくれているんじゃないかって微かな期待もあった。」


ちゃんと分かり合えた後、僕の中で何かが起きた。視界がぐらついて、地面が目の前に来た。倒れてしまった。激しい頭痛が波のように押し寄せてきて、痛みで顔がゆがむ。突然のことで焦った理央さんが救急車を呼ぼうとしたけど、止めた。人鬼だってことがばれてしまう。人間を食べてしまうかもしれない。人の命を助けるところでそんな行為はしたくはなかった。理央さんの顔を見ると、泣きそうな顔をしていた。その時、不思議と「また理央に悲しそうな顔をさせてしまった。」と、思ってしまった。確かに理央さんと会うのは二度目だし、悲しそうな顔をさせてしまったのも二度目だけど、そんなことを思うほど親しくはなかった。


「理央…。ごめんね。死んじゃって、ごめんね。」


その瞬間、僕の知らない光景が頭の中を勢いよくフラッシュバックするかのように駆け巡った。赤ん坊の時の記憶、組長たちに引き取られた時の記憶、保育園だった時の記憶、小学生だった時の記憶、中学の時の記憶、理央に出会った時の記憶、そして、死んだときの記憶。すべてが走馬灯のように。すべて思い出せたのだ。死んだ直後にリクが必至な顔をして、鉄柱を排除している姿も。理央が通夜や葬式の時に遺体がないことで泣きじゃくっている光景も、僕は見ていないはずなのに目に見えている。こんなこともありえるのか。世の中、不思議なこともあるんだと実感したとともに、記憶を思い出したことで理央のこともはっきりとわかった。


「全部、思い出せた。理央、私の為に泣いてくれてありがとう。人鬼になっちゃってごめんね。もう一緒にいられなくてごめんね。」


久々にカコとして理央と話をした。その時、公園の入り口からリクが走ってきた。

そして僕に思いっきり抱き着いた。記憶を失っているはずのリクが、僕に抱き着くはずもなかったから、驚きが隠せなかった。それを見ていた理央も、開いた口が塞がらない状態だった。そして、僕の目を見てこういった。


「カコ、記憶戻った。俺を助けてくれてありがとう。」


どうやら、今日は僕にとって一番幸せな日になっているみたいだった。リクの記憶が戻ったのと、僕の記憶が戻ってきたこと、全部が全部繋がっているような気がした。やっぱり、全部諦めなくてよかった。行動に移して正解だった。

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