第18話 家族だった人
大きな門の前。いざ来てみると緊張がただならない。うまく話せることができるだろうか。話した内容がダメだったとしても、信じてもらえるだろうか。チャイムを鳴らして、中から人が出てきた。僕の顔を見ては、驚いて固まっていた。そして、中に急いで戻っては組長さんを呼んできてくれた。もうあの時、説明をしたからか僕がカコではないことはしっかりとわかっていた。だけど、僕の顔を見るとどうしても希望をもってしまうらしい。その希望、いま本当になりますよ。
「あの時は、うそをついてしまい、申し訳ありませんでした。」
「嘘とは?」
僕は、古瀬カコであって本当は水野ツナではないこと。生きているのではなくて、生き返ってしまったということ、つまり人間ではなく人鬼だということ、人鬼だとばれないためにも名前を変えたこと。そして、人間だったときの記憶を無くしていること。すべてありのままで話をした。言葉は詰まっていた。何度も何度も言い直した。わかってくれるように、信じてもらえるように、古瀬カコとして生きた16年間を決して無駄にはしないように、ひたすら馬鹿な頭を回転させて頑張った。
「懐かしいな。お帰り、カコ。」
「組長!こんな話、あってよろしいのですか!」
「みんな、もうこの子の話を信じているんだろう?話し方が、声が、動作が、もうすでにカコそのものではないか。この子は人鬼。だからもう一緒には過ごせないがカコはちゃんと生きて帰ってきた。俺たちの希望はすべて叶ったんだよ。」
そういう組長の姿をみて、組員たちは泣きじゃくった。人鬼と人間は一緒には暮らせない。本能のままに動いてしまえば、この家に住んでいる人たちは1年もしないうちにいなくなってしまうだろう。だけど、信じてもらえてよかった。あとは、あの同級生の女の子に会うのみ。頑張って説明すれば、わかってもらえるんだから頑張らないと。僕のためにも、過去のためにも。そして、これからの未来のためにも。真実を話すことで、わかってもらえることはきっとある。逃げてばかりじゃ何も始まらないことくらい、自分が一番よくわかっていたのに今まで逃げていたから、今になって伝えることの大切さが身に染みてわかったような気がした。僕の元家族はすごくいい人たちだった。それは、古瀬カコがいい人だったからで、人から信頼をされていたからなのだろうと、今日でわかった。古瀬カコが16年間、育ててもらった家族と会ったことで僕の16年は報われた気がした。
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