第17話 記憶を
久々にみたリクを見ると、不思議と泣きそうになってきた。だけど、ここでは泣いたらだめだと思った。であった頃のリクとなにも変わらない。それだけは確かに言えていた。リクは、記憶を失ってもちゃんとリクだった。何も変わらない元気で明るい男の子だった。僕の事件を起こす前のリクだった。まずは、リクが働いていたあの事務所のことを説明しなければいけない。
「あなたは、血まみれで倒れていたんです。治ってよかった。あなたが働いていた事務所なんですけど、化け物にすべて喰い尽くされてしまいました。」
「は?そんな冗談やめてよ。初対面でそんな冗談はきつい…。」
「本当。だったら、僕と一緒に来なよ。君の事務所、朝のニュースでもやってたから、多分マスコミがいっぱいいると思うから気を付けてね。」
リクを連れて、僕はあの血で赤く染まった事務所へ足を運んだ。昨日の今日では、血は洗い流されてはいなかった。この光景は、リクにはちょっと衝撃が強すぎたようだけど、一人でここへきて衝撃を受けるよりかはまだましだと思った。リクが、大切にしていたものを僕の手で一つ壊したことになる。人鬼だということを悟られたくないように、僕のほうを向かないようにしているけれど、僕には無意味だ。人鬼は自分の感情をあらわにすると目が青くなってしまう。早くこの場から消えないとリクが危ないであろう。人間は、本当に心が腐っている奴が多いから。
「こっちへ来て。」
何もないただの河原。どうしてだかわからないけど、屋根の上以外にもうひとつお気に入りの場所があってそれがここの河原なんだ。なんも考えずに歩いていると、ここに来てしまう。きっと、前世の僕のお気に入りの場所なんだろうなって思っているけれど、本当にきれいな場所で落ち着くんだよ。夕日がきれいに見える場所。
水もキレイに透き通ってて、奥に行けば森がある。そんな穴場なんだ。ここは。
「僕、一回死んでるんだよね。生まれ変わりの人鬼なんだ。」
「え…。本当に言っているのか?」
「もし僕が人間だったら、君が青い目を隠すために僕の顔を見なかったこと気づいてないからね。一回、鉄柱に下敷きにされて亡くなってるんだ。」
僕は、そのころの出来事をすべて話した。実は、リクと僕は初対面ではないことも友達だったということも何もかも。あの化け物を倒したのは僕なんだということもすべて話した。話すにつれて、リクの顔はだんだん曇っていく。僕の声も、だんだんと震えていく。何も変えたくなかった。でも、リクの記憶が消えているのでは、もう変えていくしかないのだ。僕は、運命の歯車をひたすらに狂わせているのだ。
「リクが、君が、僕のことをどう思っていたのか。なにもわからなかった。僕の記憶にいるのは、いつも優しいリクだったから。リクが何を考えて部屋で倒れていたのかも、あの化け物にどうやって立ち向かったのかもわからない。」
リクがただ、生きていてくれてうれしかったのは本当だった。リクの命を消したくなくて、今までにないくらいに走ったのも、店長に今までにないくらいに頼み込んだのも、全部僕の自己満だったとしても。それで、リクの命が救われたわけではないとしても、リクが生きていてくれることが、また話せていることが僕にとっての幸せなんだってことを、いますごく実感している。今になって、僕を訪ねてきた人がどんな気持ちで来ていたのかがわかった。もう一度、会って謝りたい。あの時はごめんなさいと、もうカコとして生きるのをやめたけれど、しっかりと話をしたいという気持ちは強かった。あの人たちに会いに行こう。やり直しは効くんだから。
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