第16話 自身への恐怖
リクには、僕があの化け物を倒したと伝えないでほしいと店長にお願いした。リクには知られるのが怖くなった。僕が人鬼でもそこまで強くないってのがリクの中の僕のイメージだから、それはそのままでいたかった。やっぱり、リクからの印象は僕からしたらすごく重要なことだった。リクが僕から離れていくのを想像するのはすごく悲しかった。つらかった。あんな化け物を倒した僕が一番化け物だ。
「リク、リクが助かってよかったよ。リクの大事な人生を壊したあの化け物を僕の手で倒したかった。だから、立ち向かったのに簡単に倒せちゃったんだ。」
僕の最近のお気に入りの場所は、屋根の上だった。屋根裏から出ることができるから、いつもそこでのんびりと星を見ていた。リクもたまにここに来たときは登っていた。僕は、リクにとって大切な存在になれているのかな。リクは僕の中ではすごく大切な存在だよ。大切な大切な友達であり、僕が初めて好きになった人だから。だから、お願いだから僕から消えないで。僕を一人にしないで。そばにいさせて。
「ツナ、リクくんが目を覚ましたよ。」
「本当?すぐにいく。」
「だけどね、記憶を失ったみたいなんだ。すごい衝撃を受けたみたいでね。ツナのこともここの店のことも、すっかり忘れている。それでも、会いたいかい?」
記憶がない。その言葉が今まで受けてきたどんな言葉よりも胸にずっしりとのしかかってきた。僕のことも、大好きだといったこの店のこともすっかりと忘れて、僕と出会う前のリクに戻っているということなのだ。消えないで、そう願った僕の気持ちはどこへ行ったのですか?どうして、こうも僕とリクを突き放すのですか?神様は本当に意地悪だ。僕を一度殺した神様は本当に本当に意地悪な人だ。
「会う。また、一から始めればいいだけでしょう?」
そうだ。僕が人生を一からまた始めたように、リクとも一からまた始めればいいだけだ。そんなに難しく考える必要なんてなかった。どんなことでもまた一からスタートしたらいいだけなんだ。今までやってきたことじゃないか。簡単なことだ。そして、リクが記憶を戻したら僕が化け物を倒したんだって打ち明けてみよう。それでリクが僕から離れていったら、そこまでだったと諦めてこの街を出よう。この街以外にも東京にはうようよと人鬼がいるんだから。
「初めまして、この店で働いています。水野ツナです。」
人生苦難も楽しんで乗り越えた者勝ちだと思うんだ。だったらこの苦難も楽に乗り越えていったらいいと思う。それがたとえ、記憶を失った好きな人だとしても。いや、好きな人だったら余計に。ほかの人に取られたくないんだから、人鬼でも人鬼以外の人にもリクを取られたくはなかった。僕がきっと、リクの記憶に一番残っている女性でありたかった。そう思うのも、いけないことなのだろうか。
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