第11話 正義のヒーロー
誰もがきっとあの子はもう助からないと思って諦めて泣いている人までいる中で、最後まで諦めなかったのは僕だけだっただろう。
「はぁ…。間に合った!!」
腕の中には、震えている男の子。助けることが出来た。トラックは、もう既にどこかへ消えて行ってしまった。気がついたら、僕の周りには大勢の人だかりができていた。そして男の子の母親らしき人が僕の目の前に出てきて、涙を流しながらお礼を言ってきた。なんか、さっきまで冷静でいられたのが嘘みたいに思えるくらい震えが出てきた。やっぱり、少しばかり怖かったから。トラックに自分も轢かれるかもしれないっていう恐怖が。
「お子様から、目を離さないようにしてくださいね。命懸けで産んだ大切な命ですから」
人間は食料。だけど、関わっていくのもありなのかもしれない。少しだけだけどね。まるまると太ったおじさんは脂がのってて美味しそうじゃないか。そう考えたら、お腹がすいてくるよ。お腹がすぐ前に早く帰らないと。
正義のヒーローが一気にただの人食い鬼になる前にね。帰って店長と一緒にご飯でも食べようっと。無差別にただただ人を喰う鬼が憧れの正義のヒーローになれたってだけで奇跡かもしれないのに、憧れのままで残しておかないと勿体ない。
「お名前は?」
「ツナ」
古瀬カコって名乗ろうとしたけどやめた。本名はもう言えないかもしれない。あれだけの大ニュースになったんだ。もう知らない人はいないだろうし、水野ツナで生きるのもそう悪くないと思うし。初めてお店で食べたツナ缶だけど、こんなにどハマりするなんて思いもしなかったのに。世の中、美味いものだらけなんだなあ。素直に死んでなくてよかったと思うよ本当に。あの子も、まだまだ美味しい物が山ほどあるんだから、あの歳で死んじゃうのは勿体ないと思う。助けてよかった。
「ただいま戻りました。」
「お嬢!!」
本当に、なんで人間だった頃の人達が居場所を特定して押しかけてくるんだよ。そろそろ本当に迷惑なんだけど、知らない人たちばっかりだし、今回についてはお嬢かよ。どこの時代の人なんだよ。聞いたことないぞ、お嬢なんて呼ばれている人なんか。時々お店のテレビで流れている時代劇とかドラマとかいう番組でしかない。まあ、過去の事は調べて正解だったみたいだったけど。
「どうぞ、奥の部屋へ。」
どうやってここがわかったのか、そして僕は古瀬カコさんではないということ。ちゃんと説明して帰ってもらわないと。古瀬カコさんはもうこの世にはいないのに、どうして皆は古瀬カコを探しているんだろう。なんで葬式も済ませてある人間を探しているんだろう。遺体がないだけの理由で、必死になって探しているのであればそれはただの馬鹿に違いないだろう。まあ、それだけ古瀬カコが大切な存在だったのだろうな。
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