第8話 来客
仲直りができた僕達は、店に戻った。店長も僕達を見てニコニコしていた。僕は仕事に戻って、リクはコーヒーを注文していた。店長が入れるコーヒーは格別なんだって言ったら飲みたくなってきたらしく、ワクワクした顔で待っていた。子供らしいとこもあるんだ。
「カコちゃん、君の事ばかり考えてたよ。」
「そうなんですか?」
「ここに来た時も、悲しそうな顔をして喧嘩したって相談してきたよ。僕のせいで、君に辛い思いをさせてしまっているってね。」
何やら話し込んでいる様子だったから、気が合うんだなと思って少し安心した。店長もリクもなんだかんだ似てるとこがある気がしていたけど、話し込むまでとはなあ。常連さんに、彼氏か?とからかわれたけど、訂正しておいた。リクに申し訳ないしね。
「いらっしゃいませ」
いらっしゃいませっていうセリフも、最初は恥ずかしさがあって言いづらかったんだけど最近になって慣れてきた。お客さんも、年寄りだけじゃなくて若い人も来るようになったきたし、すごい人気なんだなって思った。
「店長、コーヒーひとつ追加で」
「はいはい、待ってね」
「カコって、接客業向いてんだな」
リクに褒められると、少しばかり胸が弾む。嬉しいということだろうか?よく分からないけど、多分嬉しいのだろう。不思議と頑張ろうって思えるから、リクは褒め上手なのだろうなあ。罪な奴め。そこが、リクが友達の多い理由なのだろうけど。
「お待たせしました、コーヒーです。」
注文の品を机に置いて、扉が開いたのでいつも通りに接客をする。だけど、今回の客は違った。入口で僕の顔を見るやいなや、荷物を落として泣きそうな顔をしてこっちを見ていた。僕は、この人になにかしたのだろうか?
「カコ…??カコ!!」
突然抱きつかれたことに驚きを隠せなかったけど、不思議と冷静だった。だって、僕はこの人を知らない。人間だった頃の友人だったら、尚更だ。人鬼になったと知れば、恐れて寄ってこないのだろうけど、この店の評判が下がるからそれは避けたかった。だけど、どうすればいいのだろうか??
「すいません、どちら様ですか?」
抱きついていた女の人は、それを聞いて泣き崩れるように座り込んだ。近くにいた男の人が、僕を睨んで「親友の顔と名前もわからないのか!」と叫んできたけど、これまた理不尽なこともあるもんですね。僕は、記憶を消されたために人間だったときの記憶なんて何一つないんです。男の人が大きな声で叫ぶもんだから、さっきまで賑やかだった店内が一気に静まり返った。最悪だ。これ以上、店に迷惑をかけるなんて僕の立場からしても嫌だったし、もう古瀬カコはやめようかな。
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