第7話 初めての喧嘩

しばらくカフェで雇ってもらうことになった。家の1階をカフェにしているらしいのでおじいさんの家は2階にあるそうだ。部屋がいくつか空いているらしいので、そこを借りることになった。リクとは、連絡手段がないため連絡を取れないでいた。どうしているのだろうか?僕がいなくなった事で困ることは何一つないことはわかっているけれど。


「いらっしゃいませ〜〜」


接客業は案外楽しいもので、すぐになれることが出来た。常連さんは、とても気さくな方でよく話しかけてくれる。僕が来た時は、夕方だったから人がいなかったけれど、昼間は満席になるほどお客さんが来ていた。おじいさんも楽しそうに仕事していて、にぎやかだないと思った。このカフェに出会えてよかったと心から思った瞬間だった。


「いらっしゃいま…リク。」

「やっと、見つけた。」


おじいさんの顔を見ると、上へ行きなさいと言ってくれたので自分の部屋に案内した。まさか、リクが来るとは思ってもなかったから本当にびっくりしている。リクの顔は、前よりもすごく暗くなっていた。笑顔なんて、なかった。なんで?僕がいなくなった事で重りが取れたんだ、幸せになったはずなのに。


「なんで、探しに来たんだよ」

「ごめん。ちゃんと話さないといけないって思ったんだ。記憶がなくても、ちゃんと謝らないとって。」


古瀬カコは、工事中のクレーンから落ちた鉄柱に下敷きにされて死んだ。それが起こったのは、リクが仕事で追っていた人鬼が鉄柱を運んでいたクレーンにぶつかったからで。まさか、下に人がいるなんて思ってなかったみたいで相当なダメージを受けたらしい。そして、人鬼となっていた僕を見つけた。そこで、この子に罪を償おうって思ったけど記憶を失っていたから、どうしたらいいのか分からなかったらしく、あの考えに至った。


「古瀬カコは確かに僕だよ。死んだ記憶なんて無かった。でも、ここに来てテレビを見て一度死んだって知ったよ。」


だけど、店に来る人も死んだ女子高生に似てるなんて言ってこないから、大丈夫だろうし。なんて言ったって皆優しい人ばかりだから、心配することなんてひとつもない。確かな理由とかそんなのどうでもいい。いまの僕はこの店で働かせて貰ってて貴重な体験をさせてもらってるんだから。今が楽しければなんだっていい。リクが僕と離れて幸せになるんだったら、僕もそれでいい。これが、今の僕の意見で意思だ。


「俺は、カコが必要だ。償うとかもうどうでもいい。仲直りがしたい。」


リクって、本当にいい子なんだろうね。僕がそのまま死んで天国にでも行っていたら、きっと一生悔やんでいたのかな?それとも、死んだことすら分からなかったりするのか?でも、人鬼になったことは良かったのではないかな。こうやって、仲直りもできた。どんな形であれ、生きているって素晴らしいんだ。

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