おばあちゃんの化粧

@aoitaidananeko

田中さんの眉毛

「おはようございます」

 看護師1年目の私はその日の担当の田中さんの部屋を訪問した。

田中さんはベッドの上で起き上がって床頭台の中を触って何かを探していた。

「どうされたんですか」

「いやね。化粧水をはたこうと思って」

田中さんは84歳の女性。右足の大腿骨の骨折で手術をしたところ。リハビリを毎日行っている。

「探しましょうか」

一緒に化粧水を探し、お渡しすると田中さんは化粧水をはたき、今度はファンデーションを付けている。

「田中さん、入院中だからお化粧しなくてもいいのではないですか」

そう私が声をかけると彼女はニコニコしながら答えた。

「だって、リハビリの先生は男の方でしょう。男の方の前に出るのに何もしないなんて恥ずかしいわ」

会話しながら田中さんは眉を描いているが目が見えにくいので鳥の足のように3本になっていた。

「田中さん、眉毛3本になってるから私が描いてもいいかな」

「そう、お願いできるの」

その後、私は田中さんの眉毛を描き、部屋を出た。

看護師詰め所で数人の同僚と話をする。

「ねえ聞いて、田中さんがね。お化粧されてたの。どうしてかなと思って聞いたらリハビリの時、男の方に会うから化粧しないのが考えられないんだって」

その当時、すっぴんの看護師もいた詰め所。一瞬、静まり返った。

「そっか、もしかして田中さんの年代なら男女7歳にして同席せずの頃かな。私達、女性として負けてるかも」

「へたしたらすっぴんだものね」

「田中さん、目が悪いでしょ。眉毛が3本になってたの。私、描いてきたんだけど、毎日されてるのよね」

「そっか、私たちが眉毛描いてもいいのかな。ほんとは入院中にお化粧は顔色とかが分かりにくいからしていただかない方がいいんだけどね」

それから、田中さんが退院されるまで数人の看護師が毎日眉毛を描くのを手伝っていました。

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