第10話 犬嫌い
僕は犬が嫌い。
理由を数え上げたら切りがないけれど、大嫌いだ。
対して、猫が好き。
だいたいの人がどちらか、犬派・猫派に別れると思う。
僕が犬嫌いになったのは順を追っていけばある程度は答えがみつかる。
そもそも嫌いだったかというとそうでもない。
幼少期はどちらかと言えば犬派に属していたのだ。
故郷の家では物心つく頃には犬を飼っていて、大型犬のような雑種がいたのを覚えている。
ある時、ふいに見かけなくなり、数年後に母さんから聞いた話だとおばあちゃんが飼うのが面倒になって毒殺したのだという。
真相は定かではないが、やりかねないと今でも思ってる。
幼少であったためにそれが嫌いになる引き金にはならなかった。
僕の記憶の中でのその犬のあとに飼った犬がウチで飼うのが最後となった。
最後の犬はこれも雑種で中型犬だった。
しかし、ある時をきっかけに病気になってしまい、顔は青ざめ、痩せ細り、数年は生きたが、ついに息絶えてしまった。
山のタヌキか獣に病気を移されてしまったらしいけど、非常に酷い思いをさせてしまったと後悔した母さんが「ウチではもう2度と犬は飼わない」と決めた。
それから猫だけ飼うようになり、僕も小学生位で動物を認識出来るようになっていたので、自然と猫派となった。
嫌いになったきっかけはそこではなかった。
度重なる裏切りにあったからである。
「裏切り」というと相手(犬)が悪いように取られてしまうが、大人になってから思うと、それは子供であったために犬への理解が浅かったからだと感じている。
しかし、嫌いになってしまったものは覆りはしない。
まずは新聞配りをしている家庭の飼い犬のエピソードが要因になっているのが強い。
新聞配りの三軒目の家で飼われていた犬は子犬の頃は可愛らしくて触ったりして遊んでいたけれど、いつの日か急に吠えられて子供にとってはとても怖い目付きで睨まれるようになってしまった。
それからその犬とは2度と仲良く触れあうことはなかった。
ある日の新聞配りの際、妹(あーちゃん)を連れていた日にその犬が鎖をほどいて僕たちに襲いかかってきた!
僕はあーちゃんを後ろにやって庇い、手持ちの新聞で必死に追い払おうとした。
数分吠えられ、捲し立てられていると異変に気付いた飼い主によって捕まり、事なきを得たが、とても怖い思いをした。
唯一の救いはあーちゃんに怪我が無かったことだ。
さらに一軒目の家でも同様に、子犬の頃には可愛がったが、成長すると吠えられるようになり、自然と距離を置くようになった事が2度続いた。
新聞配りをしているうえで、実に3回、成長すると嫌われるという体験を繰り返していた。
犬嫌いになる決定的な出来事は、次男の"とも"が噛まれた事が一番の引き金となった。
その日は母さんが車を出してくれていて、新聞配りに出ていた日、
ルート的に僕が先に降りて配り始め、その間に次男も車から降りて自分のルートを配る、
そして、僕から順番に車で拾って貰うのだが、その日は次男がいつまで待っても拾うはずの場所に来なかった。
心配した母さんが車で周辺をぐるぐるしていると、足をひきづった次男が涙目でいつもとは違う道から現れた。
「これはなにかあった!」と、母さんが問い詰めると、「噛まれた」とズボンを下げながら答えた。
以前にも書いた事なのだけど、僕は自分が傷付くよりも、人が傷付くのを見たくない性格をしている。
犬に噛まれ、その痛々しい傷痕と普段から冷静で人前で泣いたりしない次男が涙を浮かべていた。
その日の状況は十数年経っても忘れられない。
「あんなこと2度と御免だ、兄を気付けた犬が憎い、犬はいつか裏切る、大嫌いだ!」
それが僕の出した答えだった。
僕は犬が嫌いだ。
兄を傷付け、あーちゃんを危険な目に合わせた犬が大嫌いだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます