第8話 剣の道

 理由は無くても、"周りがそうだったから"という成り行きのような物事は多いと思う。

 特に小学生で、ど田舎ならば尚更だろう。


 この地域は小学生に上がると習い事が始まる。

 この程度は何処でも同じかな?


 こちらでは男子は決まって、剣道を習わされる。

 女子は任意。

 男子も任意だけど、全員やるのが普通だった。


 当然、僕も始めた。

 兄弟がいたし、長男・次男ともにやっていたのだから、自然の流れでもある。


 僕は運動も苦手だった。


 かなりの運動音痴で、走っても鈍足、ボール関係も全滅、飛ぶ跳ねるなんてもっての他。


 眼鏡はいちいち邪魔だったし、センスの欠片も無い。

 だけど、やらざるおえなかった。

 小学生のうちは世界も狭いから、仕方の無いこと。

 やってて当たり前が男子の剣道だった。


 入った頃にはすでに長男は小学6年で、大先輩。

「たぁ、違う違う!」

 練習中の足運びなど、あらゆる場面で長男に突っ込みを貰っていた。

 今になって思うけど、センスも何も全く無い子供に何を言っても無駄なんだと長男に言いたかったほどに。


 それでも、中学生や大人になると木刀を扱う様を見て、憧れだけは子供心に持ったりもしていた。


 毎週水曜日の夜7時から。

 本当は観たいアニメがあって、それが観れないのが一番の苦痛で、お母さんが忘れている日などは話題にならないように口数が減らしたり、思い出さないでー!と祈ったものである。


 下手でも出席だけはしていて、皆勤賞を貰うとか、何かあれぱまだ良かったのだろうけど、僕には継続する精神など微塵もない。


 試合などがあってもB組の補欠。


 やる意味など感じるわけがない。


 練習も適当、試合も出れるわけがなく、自分の招いた結果なのに、勝手に理不尽さを感じて、ただただ嫌だった。


 中学では部活があるために続けるかどうかは任意だったから、もちろん僕は小学校卒業できっぱり辞めた。

 勝った記憶など無いに等しい。


 ここまで書くと、まるで僕は運動が嫌いという印象を与えてそうだけど、実は違う。


 僕はスポーツが大好きだった。


 休み時間の友達との相撲や、クラブ活動は常に何かしらのスポーツを選択していた。


 サッカー、ソフトボール、ドッヂボール、ありとあらゆるスポーツに手を出した。


 とにかく運動が好きなのだ。

(もちろん運動音痴)


 トップクラスのやる気と、ワーストワンの下手さを併せ持つ、非常に厄介な子供だった。


 眼鏡を壊すことも多く、親にはかなりの負担を与えていたに違いない。

 新聞配りの貯金を全て使われても文句など言える訳がないのだ。


 剣道も、他のスポーツも、やっていた事は自負するけど、決して上手くはない。むしろ未経験でも運動神経のいい人には決まって負ける。

 その程度。


 運動も含めて、何をやっても結果を出せない自分が好きじゃなかった。

 いつの頃から解らないけれど、自分で自分が嫌いだった。


 そんな闇を抱え続けるきっかけに剣道がなっていたように思える。

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