第2話 本当の世界
僕はかなり甘やかされて育ったと思う。
なぜそうだったのか、真相は未だに解らないことだらけだけど、末っ子だったからかな。
保育園も一年遅れで4歳から入園した。
理由は色々あったみたい、お金が無かったのもあるし、どうやら僕は"知恵遅れ"か何かの分類として家族に扱われ、あまり外に出たことが無かった、それも含めて家の中での長すぎる単調な生活で記憶に残るようなことが少なかったんだと思う。
その理由の一つが保育園に入り、外の世界を知る事で明らかになった。
色々な事に興味を持ち始めた僕はまず、テレビを見ることに夢中になったんだ。
でも…
「お母さん、たぁち(僕の呼び名)、なんか変だよ?」
一緒にテレビを見ていた長男が僕の"変な部分"に気付いた。
それからまもなく、僕はとある病院に行く事になる。
それは眼科だった。
そう、僕は生まれつき視力が弱かった。
テレビを見る目線や仕草が明らかに人と違っていた事に家族がようやく気付いた。
自分では解らない、だって、見えないことが普通だったから。
次の日から分厚い牛乳瓶の底のような眼鏡を着けて生活することになった。
「あ、お母さんだ!」
眼鏡をかけた瞬間のこの第一声を未だにお母さんは嬉しそうに思い出話で何度も話す…正直、照れ臭い。
初めて鮮明に世界が見えた。
初めて母親が見えた。
長男、次男、おばあちゃん、ひぃおばあちゃん、おじいちゃん、皆の顔が見える。
これが本当の景色。
僕が生まれつき少し人と違っていたのは家族はもちろん解ってて、もし"知恵遅れ"の部類だったら…と、あまり口に出さなかったみたい。
貧乏だったこともあり、そういった病院にもかかれず、ここまで来てしまったのだという。
全く話そうとせず、食欲だけはあって、幼少はなかなかのぽっちゃりさんだった。
歩き出したのも2歳を過ぎてからだという話。
見えていなかったのだから、仕方の無い事だったんだなぁ、と家族も納得していた。
見えてなくて歩いただけ奇跡、とも言うべきなのかな(笑)
眼鏡によって、僕の世界は180度の変革を迎えた。
見える!
今まで解らなかった事が、見て解る。
何をしても嬉しかった!
何を見ても楽しかった!
その時の気持ちは未だに忘れることが出来ない。
そして、封印されていた本当の僕がここから解放されていく事になる。
僕は実は"お喋りさん"だったのだ!
登下校、食事中、いかなるときも僕はずっと喋り通した。
まるで4年間の見えていなかった空白を埋めるように、口から言葉が溢れだす。
ずっと喋っていて次男に夕飯のメインディッシュを何度も取られた。
「なんだ、食べるのか?残してるから要らないかと思った」
お喋りに夢中になって、大好きだった食事まで横取りされても、お喋りさんは止まることを知らない。
"口は災いの元"
タイムマシーンがあれば当時の自分によぉーく言って伝えたい言葉だったなぁ…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます