王都で休日・前
「わ~人がいっぱいだにゃ」
道を埋め尽くすほどの大量の人が動いている。
「今日は祭りでもやっているのかにゃ?」
「いや、ここはいつもこんなだぞ」
ここは王都マジャバ。イリシアにランを会わせる約束を果たすため、ここを訪ねていた。
「ここは商店街だからね、品を売りに来た旅商人やここに集まる珍しい品を見に多くの人が集まるのよ」
二人でランに説明する。ランが今までいた所からしたら、これだけの人数をいっぺんに見ることなど初めての経験だった。
「さてと、目的の店はどこだったかな」
スモークが看板を確認する。目的の店はすぐに見つかった。
「お、あったあった」
三人はそこに向かい移動した。
「ここにイリス様がいるのにゃ?」
「違うわ。師匠の所に行く前に買い物をするって話したでしょ?」
「そうだったかにゃ? 忘れたにゃ」
ランが初めて聞いたといった風な顔をしている。
「金が貯まったからマジックバックを買うんだよ」
「スモークが持ってるやつにゃ」
「そうそう」
「スモークが持ってるから必要ないにゃ?」
「一人一個はあると便利だからな。とりあえず持っとけよ」
「スモークがそう言うならそうしとくにゃ」
店の入り口のショーケースに手さげ鞄やリュック、ポーチなどが飾られている。
「これ全部マジックバックなのにゃ?」
「そうだよ。店の中にも色々あるから気に入るものを選べばいい」
ランが店の中に入っていく。尻尾の動きから彼女がそうとう楽しんでいるのがわかる。
「嬉しそうね」
レヴィヤがランの様子を見ていた。その手には茶色い小さな腰に付けるタイプのバックを持っている。
「レヴィヤはもう決めたのか?」
「うん」
「決まったにゃ~」
ランが奥から戻ってきた。手には全体的に水色で赤い金魚の描かれた巾着を持っていた。
「決まったならさっさと儀式をしよう」
「儀式ってなんにゃ?」
「実はな、今二人が持ってるのはまだ普通のカバンなんだ。それを儀式を行うことでマジックバックにするんだ」
「めんどくさいにゃ、買う前にもうマジックバックにしとけばいいにゃ」
「儀式の時に所有者の血が必要なんだよ。そうすることで所有者以外がマジックバックから物を取り出せない様にして盗難防止をしてるんだ」
「血を取るのにゃ!?」
「大丈夫だよ、指に針刺して数滴取る程度だから」
大量の血を取られるわけではないとわかると少し安心した。早速儀式と支払いを済ませようと店員のいる所に向かった。
買い物を終えて三人は目的地に向かった。イリスの工房と書かれたドアを開ける。ドアに付いたベルがカランカランと音をたてる。
「やあ、よく来たね」
ドアを開けてすぐにイリシアが出迎えてくれた。
「とりあえずこちらにどうぞ」
応接室と書かれたドアをイリシアが開けた。三人はそちらに向かう。長椅子とテーブルがある。イリシアの隣にレヴィアが座り、その対面にランとスモークが座った、
「ラン君だね。初めまして、私はイリス。君のお爺さんとは昔一緒に冒険した仲だ」
イリシアがランに自己紹介をした。
「おじい様から聞いたことあるにゃ。何でも出来る美人な才女で、味方には頼もしい存在だが、敵にはトラウマ。逆らう者には死よりも恐ろしい報復が待っているだろう。命が惜しくば彼女の言葉には逆らうな、と」
スモークはその評価を正確なものだなと判断した。正しいが、それを本人に伝えて彼女がどう感じるだろうか。もしかしたらダニエルにはあとでキツいお仕置きが待っているかもしれない。
「だいたい合ってるが、何でもは出来ないな。私でも世界の
「世界の理ってなんにゃ?」
「ランってそういった事ほんと知らないわよね」
「知らなくても生きてはいけるからね。それじゃあ簡単に説明しよう。スモークが」
「俺かよ。まいいけどな」
さてどこから説明しようか。ランがわかりやすく理解できるための説明法を考える。
「簡単に言うと魔法でも出来ないことがあるんだよ。個人の特性で使えないんじゃなくて、誰も出来ない事がな」
「個人の特性?」
ランが説明の中で不明な事を尋ねる。
「使える魔法が人によって違うんだよ。レヴィヤの場合は氷しか使えないし、俺は補助系の魔法と聖属性が少しだけだ」
使える魔法は一つから三つで使える属性の数が少ないほど高い威力を発揮する傾向にあるのだが、今はそのことをランに伝える必要は無いだろう。
「全ての人間がそういった使える魔法が決まてるんだ」
「ランにもあるのにゃ? 獣人族は魔法使えないにゃ」
「魔法は使えないけど魔道具は使えるだろ? あれだって得意な属性の魔道具を使った方が威力が増すんだぞ」
魔道具は魔力させ込められれば誰だって使える。だが相性の良い武器なら威力が上がり、逆に悪い武器なら威力が下がったりする。
「話を戻すがそう言った属性とは別の要因で使えない魔法、または効果が制限される魔法があるんだ。その理由はわかんないけど制限されるものを世界の理で制限されてるって言ってるんだ」
上手く相手に伝えられているか分からないがとりあえず説明を続ける。
「ゲートの魔法でも私有地には許可なく繋げる事は出来ないとか、毒や麻痺なんかの体調を変化させる魔法は永続的に効果は発揮させれず一定の時間が経つと切れるとか、死んだ者を生き返す事が出来ないとかだ」
「なんで制限されてるのにゃ?」
「さあな? 世界を創った六柱の精霊神さまがそうしたからってらしいが……」
実際の所なんて誰にもわからない。ただこの世界を創った存在が住む者のためにそう設定したからだと言われている。
「さすがに精霊王の説明はいらないよな?」
「それぐらい生まれたての赤ん坊でもないかぎり知っているにゃ。風、火、土、水、光、闇の六柱にゃ。世界を生き物の住めるようにしてくれて、それでなんやかんやあって闇の精霊神がこの星の生き物をモンスターに変えたにゃ。それに対抗してヒト族を元にして水の精霊神はエルフ族を、火はオーガ族、土はドワーフ族、風は獣人族を作り出したにゃ。そのあと精霊神達による大戦があってその余波で精霊界が出来て、精霊神は戦いの中で傷付き体はバラバラになって消えたにゃ。そのバラバラになった体は精霊となって今は精霊界で暮らしているにゃ」
ランが自慢げに話している。スモークは「正解だ」とランの頭を撫でる。
「ふにゃ~」
ランが嬉しそうに目を細める。
「さて、せっかく来たんだ。君達の旅の話でも聞かせてくれないか」
イリシアに言われ、何か面白い話があっただろうかと思い出す。
「ランが道に生えたキノコを食べて笑いが止まらなくなった話や路上ライブをしていたら警備兵がやってきて駐屯所で演奏する流れになった話やランが詐欺師に騙されて全財産を奪われた話なんかがあるが、どこから聞きたい?」
「そうだな……」
三人がイリシアに旅の思い出を語りだす。それだけで一日が過ぎていった。
夜、スモークはイリスの工房にある客室に泊めさせてもらった。ランやレヴィヤとは別の部屋だ。トレーニングでもしようかと部屋を出た。
「お、」
ちょうど部屋のドアをノックしようとしているイリシアがそこにいた。
「今からトレーニングでもしようかと思ったんだが、何か用か?」
「そうか、ならトレーニングは中止してちょっと付き合ってくれ」
「おう」
別に断る理由もないのでイリシアに付き合う。行き先は工房だった。ドアを開けた瞬間、薬品の刺激臭がスモークの鼻を襲った。
「棚のモノには触れるなよ。危険だからな」
「分かった。で、なんの用なんだ?」
「人型のモンスターに会ったらしいね。しかもそれが魔王だといったと」
それは先日、ケーナモの森での出来事だ。グールビーの女王がそうだった。
「実はな、君がそれと会ったのと同じくらいのタイミングで似たようなモンスターに会ったって報告がたくさんあったんだよ。さらにその一部には魔王だと名乗ったって話もある。国王の判断でAランク以下の冒険者には秘匿にされてる情報さ」
イリシアは過去に魔王を倒した本人なのと、人型に姿を変えたモンスターが例の黒い結晶を持っていたので結晶の研究を依頼されているイリシアの元に情報が来ていたのだ。
「君達が結晶を集めてくれたから少しは分かったことがある。ここからは私の予想も含まれるが聞きたいか?」
「頼むわ」
「まずはこの結晶だが、これはもともと君の持っていた力だよ。なぜそれがこうなったのか、それは君が魔王にトドメを刺した者だからだ。そもそも魔王は一度死んだはずなのに自分を倒したドラゴンを乗っ取ってより強大な力を得て復活しただろう?」
魔王はもともとただの魔導士だった。モンスターを操る術を覚え、一匹のドラゴンを従えようとしたが失敗し食い殺されたのだ。その後、なぜだかドラゴンを逆に乗っ取り、全世界のモンスターを支配下に置き狂暴化させられるだけの力を得たのだ。
「正確な魔法の効果は分からないが、魔王には倒された相手を乗っ取る力があったんだろう。だが君の時は上手くいかなかった。魔王の力の一部だけが君の中に入り、十年の時を経て君の力を全て侵食したのだろう」
「でも俺は魔王になってないぞ」
「これは予想だが君が魔王を倒すのに使った剣、あれが原因なんだと思うよ」
「デーモンスレイヤーか?」
「そう、あらゆる魔を断つあの剣が、魔王の他者を乗っ取る魔法を斬ったんだろうよ。結果君の力は奪われたが、君が魔王になることは無かった。そういうことだ。そして中途半端にかかった魔法の残りの部分はどうなったかというと、魔王の魔力をたどって狂暴化していたモンスター達に少しずつかかったんだと思う」
イリシアがどこからかリンゴを取り出して半分に切った。半分をテーブルに置き、手元に残った半分を八分割する。これが今の説明の魔法代わりなの事だろう。
「モンスターが倒れた時に結晶は消えてるって話だからな、この結晶を着けることによって体内に残っている魔王の力を活性化させて、どこかに集めているのだと思う」
手に持ったリンゴを一つずつテーブルに置かれたリンゴにくっつけていく。
「だからある程度の力が戻り、魔王の力が強大になった事で、その魔法で繋がっているモンスターにも影響を及ぼし人型になったり魔王を名乗たりしているのだろう。今の所はそんな感じだ。ほとんどが私の予想だが魔王の復活が近いのは間違いないよ」
「そっかサンキュウな」
イリシアの性格からして予想だとしても九割方確信しているから話してくれたはずだ。だから今の話でほぼほぼ合っている。そうスモークは確信していた。
「また何かわかったら報告するよ。それと、魔王復活の対策として君達に渡した封印用の水晶と同じものをDランク以上の冒険者達に無償で配っている。結晶を封印すればその分魔王に力が行かないってことだからね。君達も引き続き結晶集めを頑張ってくれよ」
水晶を配るランクがD以上なのは、それ以下では勝てないから逃げろという判断からだろう。Fランクであるスモーク達は知らなかったが少し前から無料配布が始まっていたらしい。
「リンゴ食べるかい?」
説明のために切られたリンゴを渡された。ありがたくいただくことにする。
「サンキュ、じゃ俺はトレーニングにいくわ」
「地下に実験室がある。そこなら訓練用ゴーレムと壁に防御や防音の魔法が張ってあるから思う存分使えばいい」
「ん、せっかくだから使わせてもらうわ」
スモークは家の前にでもでて素振りしようと思っていたが、そんな場所があるならそっちの方がいい。なのでそちらに向かう。
二時間ほど実験室ではしゃいだ後、スモークは眠りについた。
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