VS.クマ (後編)

 スモークがクマの前に着地する。


「GRYYYYYY」


 クマも彼の存在に気付き食事を中断して威嚇する。黒い腕がスモークに向かう。スモークはクマに向かって突進しそれを躱す。

 クマ本来の腕が振り下ろされる。短剣でそれを受け止める。


「氷の槍よ、その鋭き穂先で敵を刺し貫け。アイスランス」


 スモークを追いかけ戻ってきた黒腕に向けてレヴィヤが氷の槍を放つ。黒腕の一つに当たり、腕はそのまま消え去った。

 スモークは腕が一本消えたことにより一瞬だがクマから魔力の気配を感じた。本来のクマは魔法を使わない。だからクマから感じた魔力はきっと黒い腕のものなのだろう。


「イリシア、一瞬だがクマの中に魔力を感じた。場所は分かんねえが黒い腕が壊れた時だ」


 目線はクマから外さず、クマからの攻撃を短剣でさばきながら伝える。


「腕が破壊されたことにより余った魔力が核に戻ったのだろう」


「つまり黒い腕を破壊すればいいってことか」


 クマの腕を弾き、空いた脇の下をすり抜けクマの背後に回る。クマがそれを追いかけて振り向く。

 結果、レヴィヤとイリシアに背をさらす形となった。


「俺がこいつの注意を引き付ける。レヴィヤはタイミングを見て黒い腕を破壊してくれ」


「わかった」


 レヴィヤがすぐさま魔法詠唱を開始する。


「そうそう、私が強化したのは肉体だけだ。魔法は強くないからマジックシールドを使う時は注意してくれ」


 イリシアが忘れていたことを思い出して伝える。


「あいよ」


 応えながらもクマの攻撃をさばいていく。一本減ったからと言ってまだ黒腕三本、普通の腕が二本。計五本の腕が攻撃してくるのだ集中を切らせていい状態ではない。

 猛攻を受けきれず少しずつ後ろに押されていく。スモークが何かを踏んで転倒した。みるとそれはパラライズスネークの頭だった。頭には麻痺毒があるから手を付けずに放り出していたのだろう。それに運悪く足を取られたのだ。

 スモークがこけた隙にクマが飛び込んでくる。


「盾よ、迫りくる脅威を止めよ。マジックシールド」


 盾を出して数秒でも時間を稼ぐ。クマが腕を振り下ろしすぐに盾を壊し、黒い腕がそのままスモークを攻撃する。


「アイスランス」


 黒い腕とスモークの間に氷の槍が突き刺さった。攻撃の勢いが止まった間にヘビの頭を掴んで立ち上がる。すぐさま近くにあった木の陰に身を隠す。

 クマがスモークが消えていった方向に黒い腕で無作為に攻撃を行う。周囲の木がめちゃくちゃに倒れた。


「残念、俺は無傷だ」


 ヘビの頭をクマに向けて投げる。黒い腕が頭を弾く。

 残りの腕がスモークに向け攻撃を行う。その隙に背後から飛んできた氷の槍が黒い腕を一本貫いた。

 クマの攻撃を避けつつ魔力の出所を探る。


「額だ。クマの額に魔力を感じた」


 黒い腕の核の部分は分かった。問題は額までスモークの身長では届かないことと、届いても核を分離する方法がわからないという事だ。


「場所がわかれば後は私がやろう。二人はクマの動きを抑えつつ、残りの黒い腕を破壊してくれ。魔力がすべて核に戻れば何とかできるよ」


 イリシアが二人に伝える。やることがわかれば問題ない。さっきと同じことをするだけだ。

 クマの腕が攻撃してきた。スモークは右手の短剣でそれを受け止め、左手に持ったあるものでクマの胴体を狙う。それはさっき木の陰に隠れた時にパラライズスネークの頭から取った牙だ。麻痺毒のある牙がクマに突き刺さる。

 クマの動きが微妙に鈍る。だが完全に動きを止めるには毒の量が足りないようだ。それに黒い腕には全く影響がないようだ。


「それでも本体の動きが鈍れば十分」


 迫ってきた黒い腕を逆に斬りつける。破壊まではいかないが傷つけることは出来た。最初に短剣を引き抜いた時に指を斬れたからもしかしてとは思ったが、この腕は前に戦った影のモンスターとは違い物理的な攻撃でもダメージを与えることができるようだ。

 攻撃され怯んでいるうちに腰に下げた巾着からパラライズスネークの牙を取り出す。


「くらいやがれ」


 麻痺で動きが鈍ったクマに二本目の牙を突き立てた。だいぶ鈍ったがそれでもまだ動けるようだ。

 スモークが次の牙を左手に持った頃、レヴィヤによってまた一つ黒い腕が破壊された。これで残る黒い腕はあと一本だ。

 クマ本体の攻撃は麻痺のおかげで簡単に避けられるようになった。スモークは牙を短剣の代わりのように使い二刀流で戦っていた。黒い腕に麻痺毒は通じていないようだが、単純な武器として刺すぶんには問題なく機能していたからだ。

 右手に持った短剣で攻撃を受けつつ、左で攻める。そうやって少しずつだが削っていく。

 だいぶ一方的な展開になっていたが最後にとどめを刺したのはレヴィヤのアイスランスだった。

 四本の黒い腕は消え体は麻痺で動かない。そんなクマの額にイリシアが丸い水晶を当てた。イリシアが魔力を込めると水晶の中に黒いひし形の結晶が現れた。


「これがクマについていたものの正体だね」


 結晶が取れたことでクマの体が一回り小さくなった。さっきまで感じていた狂暴性も今は感じられない。


「体の不調を払い健全な状態に戻せ。キュア」


 もう安全だろうと判断したスモークはクマから麻痺を解いてあげるため呪文を唱えた。

 麻痺の解けたクマが感謝のしるしなのかスモークのほほを舐め、そして森に帰っていった。


「それで、その結晶はなんなんだ?」


「さあ? それは調べてみないと分からない」


 あっけらかんと答える。


「それより今日はもう帰ろう。試験終了の時間が迫っているぞ」


 そういってイリシアが歩き出す。わからないものはしょうがない。今日は疲れたのでスモークもレヴィヤもそのまま森を後にした。

 試験の結果、スモーク達のギルド『クリスタルイーグル』はFランクスタートと決まった。

 こうして彼らの最初の冒険は終わったのだった。

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