VS.クマ (前編)
サミシ草を手に入れ、あとは戻りつつ薬草や食べれそうな果実など見つけたら回収していこうという事になった。
「そのキノコは毒があるぞ」
レヴィヤが手に取ろうとしたキノコを見ながらスモークが警告する。
「これはモウスコシダケではないのか?」
「それにそっくりなアトゴフンだな。先が丸っこいだろ、モウスコシダケの傘はそれよりもっと平べったいし、傘の下にトゲトゲした部分あるだろ、それが無いんだよ」
そんなことを言いながらレヴィヤが取ろうとしたキノコとそっくりなキノコを手に取る。
「これがモウスコシダケだよ」
レヴィヤがキノコを受け取り見比べる。確かにスモークが言っていた部分に違いがある。
その時、草が大きな音を立てて動いた。なにか大型のものがこちらに近づいてくる。
「レヴィヤ掴まれ」
スモークがすぐさま近くの木に登り、レヴィヤに向けて手を伸ばした。
イリシアはすでに木の上にいる。風を操る魔法で自身を浮かしているのだ。
スモークに手伝ってもらいながら木の上に身を隠す。
すごい勢いでパラライズスネークが走ってきた。そしてヘビを追いかけ現れたのは巨大なクマ。
クマの背中から黒い腕が四本伸びパラライズスネークを掴んだ。
「なんだあのモンスターは?」
イリシアが呟く。あんなモンスターは見た事が無い。見た目は普通のクマだ。だが普通より一回り大きく、何より背中から四本の黒い腕を生やしたやつなど見た事がない。
「師匠も知らないモンスターなのですか」
レヴィヤが下にいるモンスターに気付かれぬように小声で話す。
「うん、わからない。スモーク、君はどうだい?」
「あのモンスターは知らない。だが腕には見覚えがあるぞ」
それはほんの三日前、スモークを襲ったあの影のモンスターの腕と同じものだった。
そのことを二人にも伝える。
「そうかあれが……」
クマがパラライズスネークを四本の腕で引きちぎり普通の腕で食べ始めた。
「君達が苦戦した相手を容易く倒してしまう相手だがどうする?」
「逃げるのが正解なんだろうな。普通は」
今の自分は普通のクマにすら勝てないのだ。それなのにクマのような正体不明の敵を相手にするなど正気の沙汰ではない。
だが自分の力を奪ったものに近づけるチャンスをスモークは不意にしたくはなかった。
「もしもの時は頼む」
レヴィヤを一瞬見てからイリシアを見る。自分がもしやられてもイリシアならレヴィヤを無事に逃がすことが出来るだろう。
「当然だ」
さすが付き合いが長いだけある。スモークが具体的なことを何も言わなくても彼女にはその考えが伝わったようだ。
イリシアの答えを聞き、スモークが木から飛び降りた。不意打ちでの急所への攻撃。食事に集中してこちらに気付いていない今なら可能かもしれない。
短剣を構えクマに向かう。決まった。そう思ったが、クマの首まであと数ミリの所で黒い腕がスモークの短剣の刃を掴んでいた。
三本の黒い腕がスモークに迫る。クマの背を蹴って離れようとする。だが掴まれた短剣が抜けず動きが止まる。
「チッ」
逃げるタイミングを失った。マジックシールドを発動させるにも詠唱時間が無い。自分の力ではどうしようもない。
「バインド!!」
イリシアの声が聞こえた。クマの周囲の地面から銀色の鎖が伸びてスモークに迫る腕を絡めとる。
「本当に君は私が居ないとダメだな」
背後からイリシアの声がした。背中に何かが触れている感触がある。イリシアを見ると右腕が途中で消えていた。
ゲートの魔法だろう。その先は自分の背後だ。
「いつもありがとな、イリシア」
「これはおまけだ」
背中に当てられた手からあたたかなモノが流れてくる。力があふれてくる。
肉体強化の魔法を使ってくれたのだろう。
掴まれている短剣を力いっぱい引き抜く。相手の指を巻き込んで短剣の自由を取り戻した。
鎖はすぐに消え、腕が再び自由になる。再び攻撃が来る前に後ろに飛びクマの背を離れる。スモークの予想外だったのはそのままゲートを通ってイリシアのもとまで戻った事だった。
「おかえり」
「ただいま」
返事をしながら近くの枝を掴み木の上に着地した。
「あの腕とクマ本体は別の意思で動いているようだね」
イリシアがクマの様子を見ながら呟く。さっきの戦闘をまったく気にせずずっと食事を続けるクマの姿がそこにあった。だがその背から生えた腕はスモーク達を警戒して動き回っている。
「俺が攻撃した時もクマは俺の接近に気付いていなかったな」
だからスモークは攻撃が成功したと思ったのだが、結果は腕によって攻撃を阻まれた。それがクマと黒い腕が別の存在なら納得がいく。
「戦いながら黒い腕の核となる部分を探してくれ。そうすればクマはもとのクマに戻るだろう」
「了解」
「今は一応試験中だ。クマと対等に渡り合える程度までは肉体強化してやったからあとは自力で頑張ってくれ」
「そうゆうとこ妙に真面目だな。単に俺が苦労してるのを見て楽しんでるだけかもしれないが」
「君が真剣に何かしている姿を見たいという意味ではその通りかもな」
小さな声で返答する。
「なんだって? よく聞こえなかったんだが?」
「その通りだよ。と言ったんだ」
イリシアがニヤリと笑って答える。
「あ、そうかい」
イリシアの返事を聞き流して武器を構えなおす。そしてスモークはクマと戦うために木から飛び降りた。
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