サミシ草を探そう
「ん? どのくらい寝てた?」
スモークが目を覚ましあたりを見回す。杖を握りしめて椅子に座るレヴィヤが見えた。気を張っているのか体がガチガチに固まっているのがわかる。
「十分ぐらいかな」
イリシアが答える。その間レヴィヤが周囲の警戒をしていてくれたのだろう。
「もう体は大丈夫なのか?」
レヴィヤがスモークに気付いたようで、少し緊張が和らいだようだ。
スモークが少し体を動かす。
「動く分には問題ないな」
「ではすぐに出発しよう」
「いや、先にパラライズスネークの解体するからレヴィヤは少し休んでてくれ」
レヴィヤの状態を見て少し休ませた方がいいと判断し、適当な理由をつける。レヴィヤは何も疑わずに言われた通りに休みだした。イリシアにはスモークの考えがわかったようなので笑っている。
スモークは恥ずかしさを誤魔化すため巾着からヘビを取り出し使えそうな部位を確認する。
まずは皮、これは防具や鞄の材料だ。尾のほうの皮はレヴィヤの魔法により大きな穴が開いている。スモークが切った部分は上手く解体すれば誤魔化せそうだが、穴の方はあきらめるしかない。
次に二本の牙を確認する。牙には穴が空いていて牙の先、鼻の少し上に麻痺毒を作る麻痺袋と呼ばれる器官がありそこから毒を敵の体内に流し込む。牙にも毒を溜めておく空間があり少量の麻痺毒が残っていれば、一回限りで使える麻痺矢として使える。
目玉の部分にレヴィヤの魔法で穴が空いているので麻痺袋が無事か少し不安に思いながら頭を開く。
「ここは問題なさそうだな」
全てを確認し終えると皮、牙、麻痺袋、そして肉を切り取り巾着にしまう。
最後に解体に使った短剣リメンバに魔力を込める。リメンバは魔力に反応し刃に付いた血や汚れを消し去り、欠けた刃を元に戻した。
残ったヘビの死体はそのまま放置。そのうちに肉食のモンスターがやってきてきれいに片付けてくれるだろう。
「さて行くか」
全ての作業が終了し、三人は再び川を目指して歩き出した。
幸運にも川に行くまでの間に攻撃的なモンスターに出会うことはなく無事につくことが出来た。
「それじゃサミシ草を探すか」
川を上流に向かいながら進む。上流を選んだのに特に理由はない。
「あれじゃないか」
レヴィヤが向こう岸に白い花が咲いているのに気付いた。真っ白なじゅうたんを敷いたように向こう岸の一区画にぎっしりと咲き乱れている。
「そうだな」
スモークも言われて気付く。確かにそれはサミシ草だ。
「問題はどうやって向こうに渡るかだ」
レヴィヤが川を見渡しつぶやく。
近くに橋は見当たらない。川の流れはこれなりに早く、深さも今のスモークやレヴィヤでは中心の方では頭まで完全に浸かってしまう。
「魔法で水を凍らせるとか空中を飛ぶとかは?」
「私が使えるのはアイスランスだけなんだ。すまない」
レヴィアが申し訳なさそうに答える。
「それならこれはどうだ? レヴィヤの魔力量にもよる話だが」
「それはどんな方法だ?」
「まずレヴィヤがアイスランスを川に打ち込む」
スモークが地面に二本の線を引き小石をその内側に等間隔に置いた。
「そしてその上を俺が飛んで渡る」
等間隔に置かれた石の上をスモークの指がジャンプするように動く。
「川の広さから考えて四本。帰ってくる時までアイスランスが持たない可能性も考えると少なくとも八本は撃つことになる。できるか?」
「攻撃魔法にもそんな使い方があるのか」
レヴィヤは攻撃魔法は相手を攻撃するためだけにあると思っていた。まさかそんな応用が利くとは。
「氷の槍よ、その鋭き穂先で敵を刺し貫け。アイスランス」
空中に氷の槍が出来上がる。
「このままアイスランスを向こうまで投げ、そこにスモークが乗るのではだめなのか?」
レヴィヤに言われて考える。今の自分は子どもの体だ。しかも防具は何もなく武器の短剣一つ。これならそんなに重くないから乗っていけるかもしれない。
「よしやってみよう」
こちらの方が魔力を節約できそうなので採用する。
レヴィヤが氷の槍を放ち、その上にタイミングを合わせえ飛び乗る。
「ゲートが使えればよかったんだがな……」
ゲートは離れた場所に道を繋ぐ魔法だ。昔のスモークは百メートル先までに手のひら大の大きさのゲートを開けられた。それが使えればこんな苦労せずに済んだだろう。
そんなことを考えていると向こう岸にたどり着いた。
サミシ草を取りに行く。十本ほど取って止める。あまり取りすぎると次の年に咲かなくなってしまう。生態系を壊し森に悪影響を与えないための配慮だ。
「さて戻るか」
花の採取を終え立ち上がる。
チャプン
水の跳ねる音が聞こえた。スモークはすぐにその場から後ろに飛んだ。
目の前を水の塊が飛んでいき、木にぶつかる。木に巨大な穴が空き倒れた。
レヴィヤ達が心配になり確認する。心配そうにこちらを見ているレヴィヤとレヴィヤにバレない様にモンスター除けの魔法を使っているイリシアが見えた、
「それは反則だろ」
休憩中の手出しはまだグレーゾーンだろうが、この状況でレヴィヤを守るのはあきらかにダメだろう。
そう思ったがそれと同時に感謝する。これでモンスターの対応に集中出来るから。
水の球を撃ってきたモンスターを確認する。川の上に顔ぐらいの大きさの水の球体が五つ浮いていた。一つだけ少し小さい塊がある。あれがさっき水を撃ってきた奴だろう。
「空游漁か」
水の中に魚の姿が見えた。あれは魔法で周囲の水を操るモンスターだ。その力で川から出ても泳ぐことが出来る。さらに水で鳥型のモンスターなどを撃ち落として捕食している。
水の球がスモークに向かって飛んできた。横に避ける。避けた所に別の魚が撃った水が迫る。
「盾よ、迫りくる脅威を止めよ。マジックシールド」
盾を出しながら後ろに下がる。そのまま木の裏に回り魚から身を隠す。
「戦ったら負けだよな……」
相手は遠距離の攻撃、自分は超近距離の短剣のみだ。まともに戦えば勝ち目なんて無い。それならば……
巾着に手を突っ込みパラライズスネークの肉を取り出す。投げやすい大きさに切り魚達に向かって投げる。
戦わない。勝てなければ逃げればいい。
魚達はスモークの目論見通りにヘビの肉に群がる。
魚の方は大丈夫そうだ。念のために残りのヘビの肉を全部川に投げ込んでおく。今のうちに戻ろう。
「レヴィヤ、頼む」
川にアイスランスが刺さり、その上を飛んで二人のもとに戻った。
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