冒険者登録をしよう
「スモーク様とレヴィヤ様ですね。ギルド名は『クリスタルイーグル』リーダーはスモーク様ですね」
依頼相談・冒険者登録と書かれた窓口のお姉さんが書かれた書類の内容を確認している。
ここは冒険者に仕事をあっせんする依頼案内所。スモークとレヴィヤの二人は冒険者として登録するためにここを訪れていた。ちなみにギルド名はイリシアを入れた三人で適当に思いついた単語を袋に入れ、ランダムに引いた二つをくっつけて決めたものだ。
「はいこれで登録は完了です。では続いて新人研修を行いますので担当の者が来るまでそちらのソファーでお待ちください」
番号の書かれた紙を渡され、言われた通りにソファーで待つ。しばらくして渡された番号が呼ばれ、また窓口に向かった。
そこにはイリシアが立っていた。
驚いた二人はしばらく固まっていた。
「お二人は運がいいですね。あのイリス様がたまたまこのウイノ村に来ていて、しかも新人研修を引き受けてくださったんですよ」
二人の反応を伝説の魔導士に出会った感動で固まっているのだろうと勘違いした受付のお姉さんが嬉しそうに話している。
「私が教官のイリスだ。よろしくね、二人のひよっこ冒険者君」
「お、おぅ……」
イリシアが二人を連れて施設内の個室に向かう。そこは冒険者が依頼人と直接会う時にも使う部屋で、盗聴防止の魔法が施され部屋の中での会話が外には漏れない使用になっている。
その部屋で冒険者の心構えやこの施設の利用法などを簡単に説明された。
「意外と真面目にやるんだな」
一通り説明が終わるとスモークがそんな感想をこぼす。彼の感覚では部屋に入った瞬間にイリシアがふざけだすと思っていた。
「当たり前だ。教官も正式な依頼だからね。私は仕事はきっちりこなす主義だよ」
「スモーク失礼だろ、師匠が真面目でない時などありはしない。あのお方は常に完璧なのだぞ」
「そ、そうだな。すまない」
レヴィヤの言葉にスモークは同意するしかなかった。
「では次は実際に依頼を受けてもらう。さっきも説明したがふつうは自分のランクと同じ掲示板から仕事を選んで受注窓口で仕事を受けるんだが、今回はここにある依頼を受けてもらう」
イリシアが一枚の紙を二人に見せる。
「依頼の内容は村の近くの森に行き、サミシ草を取ってくること。時間は依頼を受注してから六時間、その間ならどれだけ草を取ってきてもいいし、ほかのアイテムやモンスターの部位を好きなだけ取ってきてかまわない。六時間の君達の成果によってギルドのランクが決まる事になっている。最低限依頼をこなせれば最低ランクのG、内容によっては最高でDランクに認定されるので無理せずに頑張ってほしい」
「なるほど了解だ」
「師匠はどのランクだったんですか?」
「私達はFだった」
「下から二番目……」
イリシアならDランクスタートだったんじゃないかと期待して聞いたのに期待はずれは回答であった。
「それには理由があってな、Gランクの仕事は街のゴミ拾いや上級冒険者の荷物持ちだったんだ」
最低ランクの者に与えられるのは経験を積ませるため簡単なものばかりになっている。
「それは嫌だと私はさっさとDを狙う気だったんだがな、一緒に旅をしていたヘタレが目立ちたくないと言ってな、それでFランクを狙うことにしたんだ」
イリシアがレヴィヤにバレない様にスモークのことを見る。スモークはバツが悪そうに視線を外した。
「じゃあ本当ならDになれたんですか?」
「さぁそれは分からない。F以上であることは確かだがね」
話は終わりだとイリシアは依頼書をレヴィヤに渡す。それを窓口に持っていき、三人は森に向かった。
「ここが森の入口だ。私は君達では対処できなさそうなモンスターが現れた時のみ戦うが、それ以外の時は黙って後ろで見てるからな」
「はい師匠」
「イリシアの出番はないから安心してゆっくり見てろよ」
スモークとレヴィヤの少し後ろをイリシアが進む。
「この木でいいかな」
少し森を進み、一本の木の前でスモークが立ち止まる。
「何する気だ?」
突然止まったスモークにレヴィヤが尋ねる。
「サミシ草は水辺に咲くからこの木に登って川を探そうと思ってな」
スモークが木を手をかけながら答える。レヴィヤが上を見るとその木はこのへんで一番高い木であることに気付いた。そうしている間にスモークがどんどん木を登てゆく。
「そんな方法があったか……」
レヴィヤもサミシ草が水辺に咲くのは知っていた。だがわざわざ川を探そうと思ってはいなかった。六時間もあるのだし、森の中を歩いていればそのうちに見つかるだろうと楽観的に考えていたのだ。
「彼は新人じゃないからな。普通の新人はレヴィヤのように歩いてれば川が見つかるだろう考えたり、そもそもサミシ草がどこに咲くのかわからず闇雲に探すものだよ。これは経験の差だから参考になるな~程度に思っておけばいいさ」
落ち込んでいることに気付いてイリシアがすぐさまフォローする。しかし何も言っていないのに自分の考えを読んでしまうあたりさすが師匠だと感心してしまう。
「当たり前だよ。短い付き合いじゃないんだ。レヴィヤたんの考えなんてなんでもお見通しさ」
イリシアがレヴィヤを抱き寄せ頬ずりする。
「師匠、今は試験中では?」
「周りに私たち以外誰もいないよ。だからよいではないか」
そんな感じに二人がじゃれているとスモークが降りてきた。
「お待たせ。あっちに川があった……」
枝から飛び降り、川の見えた方を指しながら二人を見ると、イリシアがいまだに抱き着いている状態だった。
「……」
スモークが何か言おうかと思ったが言葉が上手く出てこない。
「君も抱きしめて欲しいのかい?」
イリシアは沈黙をどう考えたのか、右手をスモークに向け、手首を曲げ来い来いというように動かした。
「そんなわけあるか!!」
「恥ずかしがる事はなかろう、思春期の少年じゃなかろうに」
イリシアが笑ていう。イリシアの腕の中でレヴィヤがスモークを睨む。
「おっと、今の君は思春期の少年だったな」
「るっせえ、そんな事より川を見つけたから試験の続きだ」
このまま会話を続けていてもスモークに勝ち目はなさそうなので早めに誤魔化し歩き出す。
イリシアがレヴィヤを放す。レヴィヤが一瞬物足りなさそうな顔をしたが、すぐに正気に戻りスモークを追いかけた。
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