序章2 二人の出会いと新しい名前
レヴィヤが目覚めるとテーブルの上に置き手紙があるのに気付いた。書かれてるのは「ちょっと出かける」の一言だけ。文字は見慣れた彼女の師匠の文字だ。
師匠と言っても彼女が一方的にそう思っているだけで相手は自分をただの荷物持ちや小間使い程度にしか思っていないかもしれないが。
「朝食にしよ」
師匠が急にいなくなることは今回が初めてではない。年に数回あり、だいたい一日で帰ってくる。その時には大量の薬草やモンスターの部位、野菜をもって上機嫌で戻ってくる。
どこに行ってるかは知らないが、今回もそうなのだろと判断し、レヴィヤは宿屋の食堂に向かうことにした。
朝食を終えたレヴィヤは少なくなった傷薬を補充するため傷に効く薬草をすり潰す作業をしていた。
日も沈み始め、そろそろ作業を終えようと思っていた頃、師匠が一人の少年を連れて帰ってきた。
「師匠、この少年は?」
見た目は自分と同じくらいのようだがヒト族のようだから十歳くらいだろうかと少年の事を判断する。
「彼はモンスターの呪いで少年の姿になってしまった私の知り合いだ。名前は……」
師匠が少し考えるように言葉が止まる。
「そうだな、スモークだ」
「おい、俺はそんな名前じゃないぞ」
少年がすぐさまツッコむ。その言葉遣いにレヴィヤはイラっとした。相手は自分の師匠で世界中で知らぬ者など居ない大魔導士イリス様なのだ。魔王を倒した四英雄の一人であらゆる魔法を使うことが出来る世界で唯一の人物。英雄でだた一人今でも世界中を旅し困っている人を救って回る慈悲深きお方。
他の英雄は、一人は魔王と相打ちで死に、後の二人は自分の国に帰って国を守る騎士や実家の家業を継いでいるらしい。そんな中でいまだに旅をやめない彼女は尊敬に値するとレヴィヤは思っている。
そんな彼女に対する無礼な物言い。だがレヴィヤが納得出来ないのはその少年の言葉に対して師匠が気にしていなどころか、なんだか嬉しそうに感じられたからだ。
「忘れたのかい? 君を襲ったのはモンスターなのかモンスターを操った人間なのか分かっていないんだ。犯人が不明なうちは警戒して偽名を使っていた方がいいだろう?」
「なるほどな、それでなんで偽名がスモークなんだ?」
「可愛いだろ、スモークたん?」
「あ~よくわかった。つまり何も考えてないわけか。または窓の外にたまたま夕食を作ってる煙が見えたからだな」
「そうだ、君は本当に私の事をよくわかってるな、スモークたん」
イリシアがスモークの頭を乱暴になでている。二人の仲の良さそうな様子にレヴィヤの心がモヤモヤとするのを感じた。
「なんだい物欲しそうな顔をして、お前も頭を撫でて欲しいのかい、レヴィヤたん?」
「別に物欲しそうな顔など……」
最後まで言う前にイリシアがレヴィヤを抱き寄せ、頭を撫で始めた。
レヴィヤは黙ってされるがままにしている。
「さてとレヴィヤ、これからスモークと一緒に旅に出なさい」
撫でるのに満足したイリシアが突然に言い出す。
「師匠、それはどういう……」
「お前もいつまでも私の後を付いて来るだけではダメだ。ちょうどいい機会だから独り立ちしてみなさい」
「もう私は邪魔なのですか?」
恐る恐る聞いてみる。声が震え、なんだか目に涙が溜まってきている。
「そうじゃないよ。今のスモークには一緒に旅する仲間が必要なんだ。だが敵がわからぬ以上、一緒に旅する相手は信頼できる者でなくてはならないんだ」
イリシアはスモークに起きたことを魔王に関する事を隠し、レヴィアに簡単に伝えた。そして元に戻る方法や敵の目的や正体を探るため冒険者になることを伝える。
「私が一緒では目立ってしまう。だから私の代わりに彼と一緒に行ってもらいたい。お前は私の自慢の弟子だ。レヴィヤ以上に信頼できこの件を頼める者は居ないんだ」
その言葉が本心なのはイリシアの目を見れば伝わってくる。師匠がそこまで自分の事を評価していてくれていたなどとレヴィヤは思っていなかった。
そのことがとても嬉しく、この期待に応えなければと感じた。
「師匠がそこまで言うのなら、私頑張ります」
「頼んだぞ、レヴィヤたん」
イリシアがまた頭を撫で始める。彼女が満足するまで待ってから改めてレヴィヤはスモークの前に立つ。
「私の名前はレヴィヤです。氷の魔法を使う魔導士です。これからよろしくお願いしますスモークさん」
見た目は少年だが相手は年上の男だから敬語で挨拶をした。
「おう、よろしくなレヴィヤ。俺の事はスモークでいいよ。敬語も不要だ。短剣で近接格闘を主に行う戦士だ。簡単な回復魔法と盾の魔法も使えるぞ」
挨拶を済ますと三人で夕食を食べることにした。そして宿にスモーク用の部屋を取ってもらい今日は休むことにした。
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