6.作者は実在するのか?

👉ポイント

・Web小説の作者はステルス性が高く、どこまで現実なのかよく分からない

・ケータイ小説が提示する「リアリティ」はこの性質を上手に利用している


※長くて邪魔なので表は最下部に掲載しています


 私の好きなカクヨム作家の一人に理桜さんさんがいらっしゃいます。この方の『女子小学生二人が携帯ゲームをする話』はまさにwebだからこそ楽しめる作品で、強くお薦めいたします。


https://kakuyomu.jp/works/1177354054880285310


その中でも、ここで話題にしたいのは第二話「国語の宿題」であります。作中で登場人物「乃木ましろ」が小説を執筆していますが、その作品が実際に「小説家になろう」に投稿されています。乃木の作品だけを目にした人はそういう作家がいるのだと誤認するかもしれませんが、『女子小学生――』の中で仕掛けが明らかにされている以上、乃木という作家が虚構であることは明らかであります。しかし、私がここで問題にしたいのは、そうではない一般的なweb小説家は果たして現実の存在なのかという点であります。


 覆面作家は昔から存在しますが、少なくとも編集者くらいは真の姿を把握していたはずです。これに対しweb作家はステルス性がはるかに高いと考えられます。カクヨムでいえば、プロフィールに出鱈目を書くことが可能ですし、ホラー小説ばかりにレビューを書くことでホラー好きを装うことをできます。簡単に始められる分、失踪したり転生したりするのも容易です。誰か有名人が変名を使って書いているかもしれません。ゴーストライターだ何だという前に、普通の作者がゴースト的だとも言えましょう。



 この性質の活用という点で参考になると思われるのが、ケータイ小説の提示する「リアリティ」です。鍵括弧をつけたのは一般的な意味でのリアリティとは幾分異なると思われるからです。ご存知のようにケータイ小説は、難病だのレイプだの非現実的なくらいに悲劇的な展開が連続する作品が多いことが特徴です。


 ところが、ケータイ小説の中には「実話に脚色を加えた」などとあらすじに記したり、作者の名と主人公の名を一致させたりして、作品が完全にはフィクションでないことを強調するものも多いのです。表に「魔法のiらんど」累計TOP10入り作品(2017年5月13日現在)の例を示します。


 前回ご紹介した「小説家になろう」のインターフェイスでは、作者が作品世界に入り込んでくることで、これは虚構だとはっきり示すことを強いられるわけですが、ケータイ小説では逆に、登場人物が作者欄まで出張ってくることで、作品の現実性を声高に主張するのです。


 もちろん、提示されているストーリーが現実離れしている以上、読者はその主張を額面通り受け取るとは限りません。それでも、ある種の「リアリティ」を持つことで、読者は誇張されていることを認識しつつも自分との共通項を見出し作品に共感することができるのではないでしょうか。『電車男』のような掲示板発の作品に関しても同種の構造を見出すことが可能であるように思われます。


 話が古いと思われるかもしれません。現行のweb小説はこの点に関してケータイ小説と断絶しております。その原因が、「1.未開拓の領域はどこだ?」で述べた過剰な書籍化重視にあると考えています。


【表:「魔法のiらんど」累計TOP10作品に見る「リアリティ」】

◎1位_タイトル:切ナイ恋物語☘恋空☘前

____著:美嘉

____主人公:田原美嘉

____作品紹介における記述(一部抜粋):実話をもとに作成しています。

◎4位_タイトル:大好きやったんやで

____著:れい

____主人公:れい

____作品紹介における記述(一部抜粋):※この小説は実話をもとにしたフィクションとして読んでください。

◎10位_タイトル:純愛~私の初恋~(完結)

____著:ハル

____主人公:稲森遥香

____作品紹介における記述(一部抜粋):「ノンフィクション・実話」タグ


【表の註(およびコメント)】

 ※2017年5月13日現在 http://novel.maho.jp/rank/reader/

 累計TOP10にはこの他に恋空の後編とサイドストーリーが入っており、削除済み作品が一つあるので、「ノンフィクション」の割合は見た目より大きいです。

 ただし、近年ではサイトの傾向も大きく変わっているようで、週間ランキングを見ると、まともな小説っぽい作品が多いです。ケータイ小説でも書籍化への意識が高まっているように見えます(「野いちご」のトップページとか書籍化強調しすぎでげんなりします)。


【追記(2017年5月20日初回投稿時)】

 創作論・評論の新作を見ましたら、@kuronekoyaさんが「自主企画へのお誘い>うそ日記を書いてみませんか?」を書いていらっしゃいました。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054883207671

 これなどは逆に、本当に架空の日記であると示せない状態だといえましょうか。例として挙げられている時事ネタへのコメントなどは(架空OLから見た、などの視点の部分がフィクションを構成するのかと推察しますが)、作者自身にも考えがあるはずです。どこまで虚構かわからないという揺らぎにワクワクします。

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