4.メタ情報が紡ぎだすストーリー

👉ポイント

・我々は非活字テキストを集合的にとらえた上で対峙する

・テキスト量のような形の情報で提示することで、非活字テキスト読者に対しても小説を語ることができるはず


表:Wikipedia「全国農業協同組合連合会」3572文字(本文)の内訳

節タイトル_________字数_構成比(%)

リード文__________*195_*5.5

組織改革__________*459_12.8

沿革____________*591_16.5

組織____________*371_10.4

おにくだいすき!ゼウシくん_1363_38.2

関連項目__________*240_*6.7

脚注____________*279_*7.8

外部リンク_________**74_*2.1



 非活字テキストを前にして、我々はもはや、今までと同じように文章に接することはありません。大量の、しかもしばしば類似したテキストがすさまじいスピードで流れていく中で、文章それ自体の重要性はそれほど重要ではなくなります。代わりに、我々は文章を集合的にとらえた上で対峙することになります。


 ニコニコ動画には、動画の上に視聴者のコメントが流れるという特徴があり、それが動画の魅力をよりいっそう高めています。そうは言っても、これらのコメントをひとつひとつ丁寧に読むという人はいないでしょう。ではどうやって読むのか、というところの答えに当たるものが「集合的に」となるわけであります。一つ一つの「こころぴんぴょん」にはさしたる意味はありません。同じコメントが大量になされ画面を埋め尽くした状態(いわゆる弾幕)を一つの情報として認識するのです。


 このことは一見すると、我々個人が小説の書き手として何らかのストーリーを提示する可能性を否定しているように見えます。しかし、そう考えるのは早計です。以下にちょっとした例をお示しします。


 インターネット百科事典のWikipediaには、他の追随を許さない多数の見出し語が立項されており、読むことで社会の様々な事象について知ることができますが、社会の状況を描き出しているのはテキストそれ自体だけではありません。


 Wikipediaの「全国農業協同組合連合会」を見てみましょう[1]。いわゆるJA全農のことで、全国の農協の経済部門をまとめる組織ですから、特筆性の高い重要な項目であることは議論の余地がありません。ところが記事の内訳は表の通りで、全農が扱う肉のPRのために製作されたアニメーション『おにくだいすき! ゼウシくん』についての記述が4割近くを占めております(声優が豪華です)。


[1]https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%A8%E5%9B%BD%E8%BE%B2%E6%A5%AD%E5%8D%94%E5%90%8C%E7%B5%84%E5%90%88%E9%80%A3%E5%90%88%E4%BC%9A

(ここで記した内容は2017年5月10日現在の情報に基づきます)


 テキスト量についての情報が、関心がアニメに偏重した日本のインターネットコミュニティの現状を示しているのです(深刻な社会問題なのかもしれませんし、平和でよいことなのかもしれませんが、どちらでも結構です)。このようにWikipedia「全国農業協同組合連合会」は、メタ視点で眺めると全体としてギャグとして楽しめるコンテンツに仕上がっています。


 新時代のweb小説に求められているのは、こうしたメタ的な情報を通じてストーリーを紡ぎだしていくことではないでしょうか。次回はこの方針とカクヨムのインターフェイスの親和性の高さについて論じます。

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