第18話「終わりの始まりを、終わらせろ」
アツロウ達が戻ったパーティ会場は、騒然としていた。
ついに奴が、
もっとも、以前からずっと鎧を隠しきれていなかったが。
だが、警戒していたつもりでも、いざことが起こってしまうと悔しい。
「アリューさん!」
「わーってる!
「あそこに!」
アツロウはすぐに、一般の招待客とは別に拘束されている二人を発見した。怯えた表情のエリスを、リオンが守ろうと背に
まだ若いのに、リオンはちゃんとエリスを守っている。
ロリっ
アツロウ達ノルニルの冒険者へと、ゆっくりディッケンが振り返る。
「これはこれは……泣く子も黙る
「チッ、やーな感じ! あーし達が来たってことはわかってるね、ディッケン!」
「おやぁ?
もともと
その醜悪に歪んだ表情は、高揚感に彩られて上気していた。
間違いない、企みあっての行動、そして悲願の成就を思わせる興奮に支配されている。
そんな彼へと、仲間達を手で制してアリューが叫んだ。
「リネッタの
「ほう? 次期リーダーと
「試してみる? あんたが剣を抜くまでに、あーしはあんたを三回は殺せる」
二人が場の空気を険悪に濁らせてゆく中、アツロウは周囲に視線を配る。
エリスはリオンと一緒に、複数の男達に囲まれている。リオンの表情を見れば、寝耳に水の不意打ちだったことは明らかだ。つまり、現時点ではリオンには他意はなかったと思った方がいい。
精神衛生上、そこはとりあえず信頼しておいた方が、自分達のためでもある。
洞察力を総動員するアツロウは、ふと妙なことに気付いた。
「ん……なんだ? みんな、外を気にしてる。外になにかあるのか?」
一箇所に集められた
誰もが窓の外、開け放たれたバルコニーの向こうを気にしていた。
そのことが妙に気になった、その時だった。
不意に外で
それも、凄く近い落雷の音だ。
そして、ディッケンの笑みがさらなる醜悪さを増してゆく。
「ほほう、派手にやってるようですな……
「なっ……姐御は、リネッタの姐御はどこっ! 外!? なにがあったし……」
「なに、因縁の対決のやり直しというところですよ」
今度は爆発音。
爆縮する炎の巨大な熱量が、暴風となって吹き込んでくる。
閉まっている窓は全て割れ、会場を照らすシャンデリアの蝋燭が消し飛んだ。薄闇の中で、時折外が光って周囲を照らす。
パーティ会場は今、阿鼻叫喚の地獄絵図へと変貌しようとしていた。
やはり、外にリネッタがいる。
そして戦っている。
この光は、彼女の魔法の力だ。
「でも、誰と? なにと戦ったら、こんなにも……苦戦してるんじゃないのか!? リネッタさんっ!」
アツロウは
今までずっと、リネッタは無敵の大魔導師だった。どんな相手にも臆せず、決して
だが、問答無用で力を振るう彼女を、アツロウは見たことがなかった。
そして、いつも
世に魔法を使う者達は多く、転生してきた勇者などは強力な術を使う。しかし、リネッタ程の魔力、その量と質、速度と精度を持って振るえる人間など存在しない。
――
「クククッ! さて……ノルニルの冒険者達よ、そこで見ておれ。でなくば、エリス
「あったまきたし! リーゼ、ミラン! みんなをお願い! アツロウは――」
ヒュン、とアリューが
他の仲間達も臨戦態勢を取る。
実力行使は不可避に見えたが、アツロウは外がやはり気になる。そして、相手は城の兵士達……その数は、10人や20人ではない。そして、先程のロリっ娘メイド改めワーキャット達も気になる。
獣人とはいえモンスターが城内にいるのだ。
兵士達の他に、まだ見ぬ強敵が
「……こーゆー時、さ。リネッタの姐御がいてくれたら」
仲間だけに聴こえる声で、小さくアリューが弱気を呟く。
しかし、リーゼとミランが即座にその弱腰を否定した。
「
「そうですぅ! アリューさんならきっと、僕達をちゃんと
不安げに振り向くアリューに、アツロウも大きく
それでアリューも、普段の強気な笑みを取り戻した。
同時に、アツロウは小さく叫んで飛び出す。
「俺はエリスちゃんとリオン君を! こいつなら……ロンリー・コンクエスターなら、一人の方がかえって有利!」
「おいっ、アツロウ! ……二人に当てるなよー? そっち、任せた!」
アリュー達はディッケンへと一気に詰め寄る。
だが、よく訓練された兵士の動きは迅速だった。組織だった行動に慣れており、その鉄壁の守りがディッケンを守る。
それでもアツロウは信じている。
アリュー達は、ノルニルの仲間はみんな、何度も死線をくぐり抜けてきた。
あのリネッタが育てて、信頼している者達である。
「で、あればっ! 俺がやることは、一つっ!」
エリスとリオンの周囲にも、兵隊達が集まって防護の壁を作る。
守るべき少年少女に、傷一つつけてはいけない。先程言った通り、ロリっ娘は絶対に守らなければいけない。であれば、自分以外の全てを攻撃する巨剣ロンリー・コンクエスターは不自由だ。
不便だが、なにもできない訳じゃない。
そして、やってやるという
「うおおっ、
ロリ
背の巨大な剣をアツロウは、
伝説の剣の噂はもう、兵士達に届いているのだろう。アツロウが抜刀する気配を見せないので、彼等の安堵感が非道な仕打ちに勇気を与える。
それを
兵士達に罪はないとしても、少しおとなしくしてもらう必要があった。
大振りな一撃を力任せに振るえば、剣の重さに身体が持っていかれそうになる。
そして、
「ヘヘッ、伝説の剣? 抜かなきゃなあ! 抜けなきゃ、怖かねえぜ!」
「抜けないんじゃない……抜かないんだっ! 少ししか、抜かない!」
鞘を相手が手で握った。
その瞬間、そっとアツロウは握るロンリー・コンクエスターを少し引く。
また、僅かな隙間に眩く輝く刀身が
ぼんやりと光るその刃を、ほんの数センチだけ空気に
あっという間に、鞘を握っていた兵士が吹き飛ばされる。
しかも、背後に控えていた完全武装の兵士達数人を巻き込んで。
「どうだ……見たか、俺のありったけの
アツロウはわざと
無論、ハッタリである。
とりあえず抜けばなんとかなる。
問題は、その威力を制御し、範囲を絞ることだ。
ひらめいたままに上手くいったが、アツロウは「狙ってやってるんだぜ」というドヤ顔を忘れない。
エリスがリオンの背後から叫んだのは、そんな時だった。
「アツロウ様っ! 後ろですわ!」
振り向くとそこには、回り込んだ
だが、完全にアツロウを不意打ちに捉えた大男は……突然、シュボン! と発火して
そして……窓の外からリネッタが現れた。
彼女は周囲を一瞥し、無事なアツロウに弱々しく
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