第13話「巨乳のじゃロリとは眠れない」
妙な胸騒ぎを感じて、アツロウは寝付けなかった。
結局、ベッドを抜け出て
「んぁ……なんじゃ、ダーリン。寝付けんのかや?」
「そーですよ、多分どっかの誰かさんのせいだと思うんですけどね」
「それは……罪なことじゃなあ。犯人は恐らく、とびきり美人で器量よし、その上にナイスバディな
「いい年して、部屋を間違えたフリなんかで
「むぐぅ、酷いのじゃ」
そして、アツロウの「どっかの誰かさんのせい」というのは、本音だ。嫌に
男ならこれは、
だが、アツロウが食べたいのは
ロリコンだもの、アツロウ。
「ちょっと外の空気を吸ってきます。リネッタさんも自分の部屋で寝てくださいね」
「つれないのう」
「……なんか、きな臭いなって思って。夕飯のあと、見ました? 連中、エリスさんの部屋の前につきっきりですよ。警護っていうより、あれじゃ見張りだ」
そして、ディッケンと名乗った男の一団は、彼女をその中に閉じ込めてしまった。
やはり、なにかがおかしい。
「リネッタさん、もしエリスさんになにかあったら」
「心得ておる。なに、アリューが自分で率先して寝ずの番を買って出たんじゃ。なにかあればアリューがまず動く。……ふふ、やはりワシの目に狂いはないのじゃなあ」
「……ホントにアリューさん、ノルニルの次期リーダーになるんですか?」
「それはアリューが決めることじゃよ。じゃがあやつは、目に入れても痛くない、かわいいかわいい
そりゃそうだ、とアツロウも納得した。
ずっともう納得していたし、それを確かめただけなのだ。
皆、事情を抱えていた。
唯一の男である、アツロウとミランだってそうだ。
そして、なにも聞かずにリネッタは迎え入れ、仕事を与え、技能と知識を学ばせる。ノルニルでは今も、百人を下らぬ女達が働いているのだ。
部屋をあとにし、廊下へと出てアツロウは改めて考える。
アリューなら皆も信頼しているし、実績も十分だ
「けどなあ、ああ見えてアリューさん、リネッタさんにべったりなとこあるからなあ……ん?」
外をぶらつき、村の酒場で冷たいものでも一杯と思ったが……宿の一階に降りると、外へと出てゆく背中が見えた。
こんな深夜に、随分と急いでる様子だ。
そしてそれは、アツロウが気にもとめずにスルーしていい人物ではなかった。
「……ディッケンだ。なんだ? 部下達にエリスさんの部屋を任せて、どこへ?」
自然とアツロウは、気配を殺して足早にあとを追う。
だが、かえって目が覚めてきたこともあって、アツロウも闇の中へと進む。
ディッケンは周囲を気にしているようで、何度も背後を振り返っては……村の外れへと歩いてゆく。そっちには森が広がっており、深夜は危険なモンスターだって出る
「妙だな……ん、誰かを待っているのか? 誰を……もしや、よからぬ
どうやらディッケン自身も、アツロウとどっこいどっこいのようだ。追うのも
洞察力を総動員していたアツロウは、不意に声を聴いた。
「見付けたわよ……ふふ、コソコソしちゃって。悪い子ね」
ドキリとした。
心臓を
そして、聴き覚えがある。
それも、つい最近……今日聴いたばかりだ。
自分が見つかってはいないことを確認して、
どうやら、アツロウは見つかった訳ではないらしい。
そして、ディッケンは声のする方を振り返って表情を明るくさせた。
「あれは……
そう、アツロウが見守る中で現れたのは、昼前の戦いを見ていた女だ。彼女は人間ではない……ロンリー・コンクエスターの力を使ったアツロウを見て、意味深な言葉を
まともな人間には見えなかったが、確信する。
ディッケンがこそこそと会いたがるだけでもう、怪しいとしか言いようがない。
「ああ、すまない。どうしても、その……もう一度確認したくてね。手間をかける、エリューン」
エリューン、それが例の女の名か。
水着だってこれほどとは、という格好で、見せるために隠しているのではと思えるような薄着だ。そして、見せても恥ずかしくないと言わんばかりの抜群のスタイル。青い月明かりの中で、エリューンは
「接触は最小限にしてほしいわね。そして……確認したのだけど、残念ながらジャレッジの方が一枚上手だったみたい。娘を通じて、
「そ、そうなのか!?
「そういうのはいいの。ただ、安心して
話は読めた。
アツロウの脳裏で人物の
それも、誠に
「あの女の人は、俺を……俺のロンリー・コンクエスターを狙っているのか? でも、救世主? おいおい、俺は無力で無能な最弱勇者だけどなあ」
今回の急な
そして、更に謎は深まる。
エリューンが『あの方』と呼ぶ人間、それは誰か?
便宜上、黒幕としておくにしても物騒だ。
だが、思いがけず事態は好転する。
「まあ、いいわ。ディッケン、あの方から伝言があるのよ? それを聴いて、少しは安心してほしいわね……ふふ、臆病で卑劣で、そのことを隠しきれない。好きよ、貴方みたいな小物」
「な、なんとでも言うがいい! そ、それより」
「ええ。心して聴いて頂戴」
エリューンは胸の谷間から、なにやら一枚の
うわぁ、よくファンタジーでセクシー担当がやるやつだ。まさか、本当に胸の谷間を収納スペースにしてる人がいるとは思わなかった。そんなことをつい、アツロウは考えてしまう程度には冷静だった。
エリューンは呪符になにかを
たちまち炎が呪符を包んで燃え上がる。
あれは時々見かけるマジックアイテムで、人の音声や音楽、物音などを記録する呪符だ。再生する際に燃えてしまうため、繰り返し使うことができないのが難点だが。
赤々と燃える呪符は、この場に不釣合いな緊張感のない声を振りまいた。
『やあ、ディッケン。不安かな、と思ってね……なぁに、職業柄そういうのはピンとくるんだ。で、やっぱり職業柄フォローしてあげたくなるって訳だ』
男の声……しかも、アツロウはどこかでこの声を聴いている。
すぐには思い出せないが、確かに覚えている。
どこか軽薄で、
『ゲームは既に始まってるんだ、ディッケン。大丈夫だよ、うまくやれば君も君の主も
思い出せそうで、思い出せない。
なにか、記憶の一部分に白い
だが、無責任を決め込んだ声音には覚えがあるのだ。
ディッケンは呪符が燃え尽き言葉が途切れると、文字通り胸をなでおろした。やはり、エリューンが言うように小物、それもテンプレ通りの人間らしい。
「安心したかしら? ディッケン……なるべく接触は避けたいのよ、あたしは。ほら、あれでしょう? ふふ……あの方と違って、あたしは用心深いのさ。嫉妬深いしねえ」
「あ、ああ……手間を掛けさせた。計画をこのまま進めよう。我輩は我輩の務めを果たす。それで望みが叶えられるのなら、なにも不満はない!」
わからないなりにアツロウは理解した。
今、この瞬間……目の前で陰謀が現在進行系だ。そして、エリスはそれに巻き込まれる……エリスを守るノルニルの仲間達と一緒に、巻き込まれてゆくのだ。
まずは戻ってリネッタと相談しなければいけない。
そう思った瞬間、背後から手が伸びて口を塞いでくる。
そのまま強い力がアツロウを拘束し、声もあげられぬまま彼は闇に包まれたのだった。
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