第5話「ロリに会ってはロリに従え」
アツロウの日々は
なにせ、ただただ『かわいいロリっ
クエストとはとどのつまり、冒険者達に依頼される大小様々な仕事である。
モンスター退治から倉庫の整理、
コストやリスクを
そんな訳で、朝からリネッタは不機嫌だった。
「ダーリン、ほんっ、とぉ、にっ! バカじゃのう!」
「まだ怒ってるんですか、リネッタさん。もー、許してくださいよ」
「絶対に許さん! 絶対じゃ!
「今度おごりますから、二人で甘い物でも食べにいきましょ。ね? ねっ?」
「ぜっ、ぜぜ……絶対に、許さんと言っておろう」
だが、リネッタは口で言うほど怒ってはいない。
アツロウにはわかる。
まだ付き合い始めて日は浅いが、このハイエルフの
アツロウの
勇者ジャレッジの名を出したら、リネッタは少し態度を変えたように見えた。
「ほ、ほら、リネッタさん。もうみんな、出発の準備ができてますよ」
「別のクエストで、アリューもリーゼも不在、ミランは休暇中……他のメンバーも予定を消化するので手一杯じゃ。まあ、ワシがおれば
「リネッタさん?」
「ん、なんじゃダーリン。ま、いまさら言ってもしかたないかの」
再び訪れたジャレッジの屋敷は、巨大な門の前に人だかりができていた。
十人以上のメイドが総出で、荷物を背負った馬を次々と並べている。恐らく、一人娘のエリスが
そして、その中にアツロウは旅装を整えた小さな女の子を見つけた。。
旅立ちの日を迎えたエリスの姿は、以前にも増して愛らしい。
緊張を滲ませた横顔を見ていると、彼女は視線に気付いて振り返った。
「……お迎えがきたようです。では、皆さんはお父様をよろしくお願いしますわ。どうか、お父様が
エリスにとってはもう、父親との
これから長い道のりを旅して、北方の
それがエリスにとって幸せかどうかは、わからない。
老い先短いジャレッジにすれば、精一杯だったのかもしれない。
アツロウにできることは、
そんなことを考えていると、エリスはこちらを見て目を丸くする。
「あら? まあ……まあまあ、まあ!」
突然、エリスは
そして、顔に広がる熱を確かめるように、両手を当てて
両手を広げて走るエリスに、自然と同じポーズでアツロウは出迎える。
「エリスさん、このアツロウが! 迎えに! 参りました!」
これは……ワンチャンあると思った。
満面の笑みで駆け寄ってくるエリスを、この手で抱き締め勇気付けてやれば……きっと彼女は、顔すら知らぬ相手へ嫁ぐ
もしかしたら、考え直してくれるかもしれない。
父の教えに
次の瞬間にはへし折られる、ただの妄想でしかないフラグだが。
「さあ、俺の胸に飛び込んでください……あなたを、あなただけを守る騎士がここに――あ、あれ? えっ、なんで!?」
スカッ、とアツロウは空気を抱き締め、自分へと両手を巻き付けた。
彼が抱き留める
「リネッタ様! ああ、本当にリネッタ様……あのノルニルの大魔導師、リネッタ様!」
「っとっとっと、な、なんじゃ!? ……ワシ、そんなに有名人かのう」
エリスは、外見だけは自分とそう歳も変わらないリネッタに抱き着いた。
驚きに目を丸くしたリネッタは、チラリとアツロウを見て……ムフフと勝ち誇った笑みを
多分、アツロウは死ぬほど
そんなアツロウに構わず、はしゃいだエリスがリネッタへと目を輝かせる。
「リネッタ様のことは、お父様から色々と聞かされてますの。わたくし、小さな頃からお父様の研究のお手伝いを。ずっと、
「そ、そうかや? 参ったのう……それより、ジャレッジもとうとう、か。寂しいもんじゃ」
引っ付くエリスの頭を
そういえば、クエストの準備中に彼女は言っていた。勇者ジャレッジとは
だが、それ以上のことを彼女は言わなかった。
もしかして、などとアツロウは思ったものだ。
「まさか、元カレってことは……ないよなあ」
「ん? なんじゃ、アツロウ。なにか言ったかのう?」
「あっ、いいえ! そこらへんは俺の関知するとこではないので! 全然ヤキモチとかないです! はは、は……そうだよ、リネッタさんはロリっ娘じゃないんだから」
「妙な奴じゃ。のう? エリス。しかし、あの時の赤子がもう、こんなに大きくなったんじゃなあ」
アツロウはロリコンである。
真性のロリコン、重度のロリコン、とにかく小さくて幼い女の子にしか興味がない。だから、局所的に完璧過ぎるロリ美少女、リーダーのリネッタが常々
今もまた、どこか寂しげに視線を
どこか
「ま、いいじゃろ。とりあえず離れるのじゃ、エリス」
「あっ……と、とんだ失礼を、リネッタ様」
「様はいらんぞ? リネッタでよい。それと、もう会っておるから知っておるかと思うが、そこの冴えない少年がアツロウじゃ」
「はい。先日、御挨拶いたしました。アツロウ様、改めてお願いいたします」
以前同様、エリスは丁寧にアツロウにも挨拶してくれた。
やはり、かわいい。
守りたい、この笑顔。
だが、エリスはにっこり笑うと、再びリネッタに向き直った。両の拳を握って、前のめりに次々と言葉を浴びせる。
どうやら、そうとうリネッタにお熱らしい。
「リネッタ様、沢山の本や
「ん、ちょっと他のメンバーが都合つかなかったんじゃが……まあ、旅は長い。ワシが守るからには安心せい。モンスターなど、決してエリスに寄せ付けまいぞ」
実際、リネッタは強い。彼女と互角に戦える冒険者など、アルアスタに五人といないだろう。
実際、アツロウも何度も危機を救われた。
彼女がいなければ、今頃荒野で
「でも、なんでリネッタは俺なんかを……ん?」
ふと気付けば、背後で自分を呼ぶ声がする。
振り向くと、一人のメイドが立っていた。
その両手は、巨大な剣を抱きしめていた。
「あの、アツロウ様……ですね?
「えっ? 俺に?」
「今回のクエストの、アツロウ様への個人的な報酬ということでした」
不思議な話だが、アツロウはそのメイドから剣を受け取る。
大きいだけでなく、見た目通りに重い。
アツロウは武器に精通していないので、いつも自衛用にナイフを持つ程度だ。
それも、ロープを切ったり草を刈ったりと、
「これは……嬉しくないなあ、はは。あ、いや、ありがたく
「確かにお渡ししました。どうか、エリス様をくれぐれも……」
メイドが下がると、アツロウは突然のプレゼントに困惑しつつ、それを背負う。
やっぱり重い。
使い手に修練と技能がなければ、剣などただのお荷物でしかない。
だが、エリスに
「……それを手放したとはのう。いよいよ、か……ジャレッジ、
「あ、あの、リネッタさん?」
「その剣は、ジャレッジがこのアルアスタの研究をする中で得られた太古の遺物……この世界の始まりと共に生まれたものじゃよ。
それだけ言って、リネッタは用意された馬にエリスを乗せた。
こうして、北の大地へ向けての旅が始まる。アツロウは奇妙な胸騒ぎを感じて、もっとリネッタのことを聞きたくなったが……
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