第4話「仕事よりもロリっ娘だ!」
午後の日差しが温かく、
身分ある者の屋敷は、廊下を歩くだけで緊張をもたらした。
アツロウはリネッタに言われた通り、
だが、そんなヒモみたいな生活などは嫌だ。そんな暮らしでは、ロリっ
「旦那様、ノルニルの方がいらっしゃいました」
眼の前を歩いていたメイドは、屋敷の
日当たりの良い廊下を、もうかれこれ5分以上は歩いただろうか?
入室を
「えと、こんにちは。第一級非限定血盟、ノルニルから来ました。俺は――」
「知っているよ、勇者アツロウ君……だろ?
ベッドの上に、髪も髭も真っ白な老人が寝ていた。
自分が転生勇者であることを、老人は知っていた。その理由は考えるまでもないので、アツロウはなんだか面白くない。そして、老人は
「異世界より召喚され、このアルアスタに転生してきた勇者……しかし、他の勇者と違って特殊な力も屈強な肉体も持ち合わせていない」
「は、はあ……その通りです、けど」
「フッ、気に
アメリカ、という国の名前が懐かしい。
「私がアルアスタに転生したのは、確か1998年。大好きな日本への旅行中、飛行機事故が起こってね。はは、トラックに
「1998年…俺がいた時代より、少し過去ですね」
「そうだ。しかし、私が転生してきたのは、50年以上も前になる。休暇を取って秋葉原などに行く予定だったんだが」
「あー、なるほど。俺もよく行ってましたよ、アキバ」
ふむ、と
どんな状態であれ、アルアスタに来た以上は元の世界に戻る道はない。その方法はまだ、発見されていない。そして、アツロウ達転生勇者に、あらゆる者達が打倒魔王を期待した。
多くの国家が惜しみなく支援してくれる。
どの街も村も、勇者様
だが、未だに魔王は討伐されていない。
無数の勇者が、救国の英雄として散っていった。
「さて、アツロウ君。今回、ノルニルに頼みたい仕事だが……私には娘が一人いてね」
「はあ」
「目に入れても痛くない、
ジャレッジは時折
遅くに授かった、たった一人の娘……名は、エリス。彼女はこの
道中、
とてもじゃないが、女の一人旅などありえなかった。
「しかし、私はもう長くない……自分の身体だ、自分が一番よく知っているよ」
「そ、そんな! だって、ジャレッジさんも勇者なんじゃ」
「そう、勇者だ。剣をこの手に、
そこには恐怖も
「いやはや、楽しい半生だったよ。昔から日本のアニメやゲームが大好きでね……まさか、自分で伝説の勇者になって、
「和製ファンタジー?」
「そうさ。私達アメリカでのファンタジーといえば、もっとハードなものだよ。もっとも、このアルアスタでの日々も十分に過酷だったがね」
このアルアスタが、和製ファンタジーそのものだとジャレッジは言う。
サムライやゲイシャ、フジヤマが出てくる訳ではない。日本特有のアレンジをもって創られた、古き良きファンタジー世界だという。
言われてみれば確かに、アツロウにも心当たりが山ほどある。
自分なりに、このアルアスタが中世の
「エルフは耳が長く、とても美しい。そして、ホビットは小柄で利口だ。ドワーフやダークエルフだっているし、魔法の
「いやあ……まあ、絵に
「そう、絵に描いたような……つまり、このアルアスタを
ジャレッジは、意外なことを口にする。
そして、言われて初めてアツロウは違和感に気がついた。このアルアスタで、そのことを奇妙だと思わない者達は多数派だ。むしろ、そのこと自体がおかしいとさえ思える。
まるで
その秘密に、以前からジャレッジはメスを入れてきたというのだ。
「アルアスタの歴史は、400年前の
「それ、俺も知ってますよ。神が
「ああ。各地の少数民族まで全て、エルフやホビットといった種族を問わず、同じだ。それが逆に不自然でね。この世界には、教会が
「それって、変なことですかね?」
「私みたいなアメリカ人には、ちょっとね。それと……この世界には、本当に400年より以前、それより古いものは存在しない」
そりゃそうだ、とアツロウは思った。
最初は、ジャレッジの言いたいことがわからなかった。
だが、
「神がこのアルアスタを創生したのだから、それ以前の歴史はない。それ以前にはあらゆるものは存在しない。つまり、神はいる」
「でしょうね。……待てよ? 400年っていったら……」
ふと、リネッタのことを思い出す。
彼女は天地創造、アルアスタの
「どうしたかね、アツロウ君。その、顔が
「あ、いえ! なんでもないです! はい。と、とりあえず、リーダーであるリネッタさんに話してみます。多分、オッケーだと思いますけど」
「ああ、すまないね。娘のエリスはまだ若い……彼女の未来に道筋をつけてやることは、私の最後の仕事になるだろう」
その時、外からドアがノックされた。
ジャレッジが「入りなさい」と言うと、ドアが開く。
その音を振り返って、アツロウは目を見開いた。
「失礼します、お父様。お客様にお茶をお持ちしましたわ」
「おお、丁度よかった。アツロウ君、娘のエリスだ」
そこには、天使がいた。
そうでないなら、女神だ。
テーブルへとポットやカップを置いて、エリスと呼ばれた少女は礼儀正しくお辞儀する。両手でスカートをつまんだその姿は、絵本の中から出てきた不思議の国のアリスか、それとも魔法の国のドロシーか。
アツロウはエリスが発散する
「はじめまして、エリス・アンダーソンと申します。冒険者様、よろしくお願いいたします」
「……」
「あの、冒険者様?」
「あっ、ああ! よっ、よよよ、よろしくお願いします! 俺、アツロウって言います」
エリスは、ジャレッジの孫かと思えるくらい小さな女の子だった。年の頃は十歳前後、とても愛らしいエプロンドレスに身を包んでいる。短く切りそろえた銀髪をヘアバンドで抑えて、ピカピカのオデコがとても
間違いなく、アツロウにとってストライクな少女だった。
ナイスなロリっ娘、まごうことなきロリニウムの純粋な結晶だ。
勿論、そんな元素はアツロウの妄想の中にしかない。
だが、かわいいエリスが
「ジャレッジさん、先程のお話の件……お引き受けしましょう」
「おお、やってくれるかね。噂に名高いノルニルが護衛に付き添ってくれれば、これで一安心だ」
「お任せください。そして、エリスさん」
片膝を突いて
そして、不思議そうに見下ろす彼女へ白い歯を
「エリスさん、俺があなたを守ります。我々ノルニルは、超一流のスペシャリスト集団……なにも心配はいりません」
「は、はい……えと、あの」
「エリスさん、嫁ぐあなたを守る騎士……それが俺、アツロウです。どうかお見知りおきを……ん?」
その時、アツロウは見た。
嫁ぐという言葉に、エリスは表情を
その切ない
「ありがとうございます、アツロウ様。お頼りしますわ」
「……守りますよ、エリスさんの笑顔を」
こうして、安請け合いで次の仕事が決まった。
当たり前だが、いつもの
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