第3話「ロリっ娘のためなら死ねる」
アツロウは怒っていた。
自分の実力もわきまえず、激オコだった。
「ロリっ
ざわつく
だが、アツロウは下心を隠した紳士の笑みを、クエスラに向ける。
「おう、なんだボウズ! 俺達に文句があんのかあ? ええ?」
「ええ、ありますとも! ざっと並べても500回くらいは文句を言いたいですね!」
「ご、ごひゃっ……な、なんだって?」
「つまり、うーんと沢山! 文句を言いたいってことです!」
この大陸、アルアスタでは
そういった意味では、自分にその力があることでアツロウはなんとか食いっぱぐれずに暮らしてきた。拾ってくれたリネッタの血盟、ノルニルでは彼は数少ない
指折り数を数える大男の前に出て、彼は説明を求めて目元も険しく
「なにか、クエスラちゃんがお気に
「お、おうよ! 見ろぉ! 俺の新調した剣を! このガキ、酒を俺の剣にぶちまけやがったんだ!」
そうだそうだと、大男の仲間達も声をあげる。
なんだそんなことかと、アツロウは鼻から
くだらない、実にくだらない。
そして
アツロウは、トレードマークのバンダナを解くと、ひょいと
「へえ、ミスリルの剣ですね。おじさん、かなり腕利きの剣士なんじゃないですか?」
「ハッ、ご機嫌取りか? ボウズ! その剣の
「値打ち、ですか……ええ、よーくわかりますよ」
綺麗になったロングソードを元の場所に返して、
彼は自分でも、臆病で
だが、愛するロリっ娘のためなら……死ねる。
自分にできる全てで、あらゆるロリっ娘を守りたいと思っているのだ。
本気のバカ、それもロリコンバカである。
「先週、ミスリル製の武器は大幅に値を下げてますね。これは
「お、おいおい、ボウズ……なにを」
「先月、このミスリル鉱石を
「……は?」
アツロウは剣も振るえないし、魔法も使えない。
ノルニルのメンバーにも戦闘以外のスキルを得意とする者達がいるが、そうした
ぼんやりとしか思い出せないが、昔は学校に通っていたような気もする。
そんな彼がいつも、危険なクエストにリネッタ達が挑む間……ただぼんやりと、帳簿を
「先月、とあるドワーフの
「な、なにを……ボウズ、それは」
「あなたが持ってるミスリルのロングソード、お値打ち価格じゃありませんでしたか? 安売りしてたでしょう?」
「ど、どうしてそれを!」
「従来のミスリル製品は今、在庫処分が始まっています。つまり――」
言ってやった。
それはもう、ドヤ顔で決めてやった。
かわいいクエスラのロリっ娘スマイルが見たくて、謎の決めポーズまで取った。
「ご自慢のその剣は、今では大して高価なものではありません。それをこんないたいけなロリっ娘に怒って……剣よりまず、自分を
うっ、と大男がひるんだ。
だが、
「知ったふうな口を、きくなあ!」
「……さ、クエスラちゃん。ちょっと下がってて。あとは俺に……いや、俺の
いきなり視界が暗転して、闇の中に
それで自分が、目の前の男にブン殴られたと気付いた。
当たり前だが、アツロウは
だが、ロリっ娘のこととなると
酒場の壁に叩きつけられて、ずるずるとその場にへたり込む。
グラグラと揺らぐ意識は、どうにか目の前の男を見上げることができた。
「
「グッ、イチチ……逆だろ、逆。泣く子も黙る?」
「ああ?」
「おとなしくて可愛い子を……愛すべきロリっ娘を、泣かせるだけだろ! おっさん!」
あっという間にアツロウは、丸太みたいな腕で
そしてそのまま、天井高くへと吊るし上げられる。
だが、男の暴挙もそこまでだった。
「ワシの連れ……ダーリンがどうかしたかの? 若いの。失礼は
ざわめきが広がり、
酒場の全ての視線を集めて、
腰に両手を当て、倍ほども身長のある大男を見上げている。
そして、その先で
我等が血盟の
「お、おい、あれ!」
「ああ……ハイエルフのリネッタ、だ」
「ノルニルのリネッタ……あれがそうか」
「なんて迫力だ、ガキみてぇな
「なのにどうだ、あの
大男はアツロウから手を離すと、リネッタに向き直った。
冒険者は誰もが、己の腕だけで成り上がったならず者という一面がある。
視界の
だが、それを視線で制して、リネッタがアニメ声で言葉を選ぶ。
あどけない少女のような
「剣は戦士の
「へへ……言うじゃねえか、お嬢ちゃん。数少ない
「お
「ああ、そうかい……へっ、
男は周囲にも知らしめるよいうに、ガハハと笑う。
このアルアスタには、定期的に異世界から勇者が転生してくる。誰もが皆、特殊な力を神より与えられ、魔王の軍勢と戦っているのだ。そうした勇者達の血盟には、一流の冒険者が参加するという。
アツロウも勇者、なにかしらの理由があってこのアルアスタに転生してきた。
だが、特殊な力などなにもない、ただの非力な一般人なのだった。
裏社会では駄目勇者として有名らしく、そのことを今日も再確認してアツロウは
彼には、彼だけが振るえる勇者としての力が、ない。
だが、やれやれとリネッタは左右に首を振って……そして、言葉を
「言葉に気をつけんか、
「なっ――?!」
「ワシのダーリンは、不届き者から
「言わせておけばっ!」
絶叫と共に男が、アツロウを投げ捨て拳を振りかぶった。
風切る音が聴こえてきそうな
だが、そのパンチはリネッタの眼の前でピタリと止まった。
気付けば男は、その全身を光の球体に閉じ込められていた。
「こ、これは……」
「なに、
リネッタはあどけない顔に
ぞくりとするほど美しいのに、触れれば切れるかのような冴え冴えとした表情だ。温厚な彼女が怒った時にだけ見せる、死を呼ぶ
「お主がまだ
「こ、こねるなら」
「絶対無敵の結界の内側、お主だけを
そう言ってリネッタは、完全に男の心をへし折ってから結界を
放心状態で
そうしてリネッタは、アツロウの会計処理に目を通して満足に
その背を見送るアツロウに、看板娘のクエスラが何度も頭を下げてくるのだった。
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