第六章-03

「それにしても… 本当に懐かしいわね。この電磁ロッドって、アタシが設計したんだよ」

舞衣姉さんは俺と村川が装備しているロッドを眺めている。

「他にもね…」

ロッドを机の上に置くと、舞衣姉さんが懐から幾つかのアイテムを取り出した。

「これはスタングレネード弾。説明すると、強力な光でアイセンサーを潰す小型の手榴弾だね」

と取り出したのは、いかにも手製のチューインガム大の物体。上部のピンを外して叩きつけることで、効果を発揮する。実際に軍用に使われているものと違い、あまり大きな音は発生しないとのことだ。化学式が書き込まれた図面を渡される。

「で、これがLARD手榴弾。一種の音響兵器。人間用とアンドロイド用とがあるわ。使い分けには気をつけてね。それから…」

ドロップ缶大のアイテムが出てくる。これもピンを抜いて一定時間だけ鋭い指向性のある大音量の周波数の音が発生する。

「これがADS。このワイヤーを張り巡らせることで、電磁波が出るわ。これもアンドロイドには有効よ」

と先の開いた銃のようなアイテムがでてきた。

「最後に、EMPね。電磁パルスで、アンドロイドにショート・サーキットを起こすの」

と小型のマッチ大のアイテムがでてきた。「扱いには気をつけてね」と前置きしながら、舞衣姉さんは更に続ける。

「昔はどれもこれももっと大きかったけれど、結構小型化ができるようになったわ。こういったものは本来民間で勝手に作ったりすると懲罰の対象になりかねないんだけど、どれも非殺傷兵器だからね~」

舞衣姉さんはニカっと笑いながら、「わかってるわね?」と釘を刺した。

全てのアイテムと図面を手渡された俺達は、ただただ呆然とするばかりだった。一体何者なんだ? このヒトは。


「しかし、さ。これだけの装備を持っていて、それらを使いこなせるってことはって事は、やっぱ自衛隊にいたという話は…」

「えええええ!?」

その場にいた誰もが驚愕した。そんな話、初見だぞ?

「村川クンは本当に優秀だねぇ。それを今出してくる? もしかして確証が得られるまで待ってたとか?」

「むしろ、後者ですよ。俺は三田先輩と連絡を取り合うつもりで、その行方を追ってましたから。その話の流れの中で掴んだ情報です。まだ確証はありませんでした」

「そっかぁ。ならさ、裕二と春香の行方については…」

「残念ながらまだ裏を取っていません。あちらさんが動けば確証が得られるともいうものですがね」

「それは残念。でも裏が取れたら、って事は…」

「大体の居場所は絞れてきています」

「頼れる後輩に恵まれてよかったわ! 期待、してるからね」

「もう少し時間をください」


「と、まぁ以上で、万が一のためのアイテム贈与は完了したわ。後は使い方のレクチャーを折をみながら行うので、可能な限り参加すること。いいね?」

「サー! イエッサー!」

本当にこの男どもは…。 俺は頭を抱えていると、村川は言った。

「ノリと勢いは大事だぜ」


◇     ◇     ◇     ◇


「さて、マスター」

セローの後部座席から降りてヘルメットを脱いだメイは、ふいに声をかけてきた。

「私、これから夕餉のお買い物に出かけようと思います。できましたらご一緒いただけると心強いのですが…」

「OK。ついていこうか」

「それなら、あたしもついていくわ。当然よね?」

プリマヴェーラのエンジンを止めながら、沙耶が口を挟む。

「それもOKだ、沙耶。むしろその方がいいかもな」


田町という商店街がある。わずか数百メートルしかないその商店街は、一時期は閑古鳥が鳴くような人の通りも少ない商店街であったが、ここ最近のテコ入れもあってか若い世帯の流入もあって、比較的昔の賑わいが戻ってきた。スーパーの並びがありながら、個人商店もちゃんと商売が成立しているという、稀有なモデルケースだった。また「いただきさん」と呼ばれるおばちゃんの魚行商人も存続しており、昔の風情が残る通りとなっている。


「やぁ、メイちゃん! 今日はキャベツが安いよ!」

「メイちゃん、豚肉はどうだい? いつもいっぱい買ってくれるから、コロッケおまけしとくよ?」

「あらメイちゃん、今日はいいメバルがあるよ。煮付けにどうだい?」

「メイちゃん!」

「メイちゃん!」

「メイちゃん!」

……


「随分と人気者だな。正直びっくりだよ」

「えへへ~。そうでもないですよ、マスター。今日はきっと特別なんです」

「でも、まんざらでもないみたいじゃない?」

「沙耶さんだって、スーパーでは人気者じゃないですか」

「そうなのか?」

「あたしはいつも、スーパーで買い物するから…」

「アルバイトの男の子のマドンナなんですよね~」

「そ、そんなことないわよ! 気にかけたこともない!」

「沙耶だって、まんざらでもなさそうだな。口元がニヤけてるぞ」

「そんなことないわよっ!」

俺、沙耶にマジで怒られる。何故だ?

まぁとにかく、だ。メイが町の人に馴染んでいるというのは嬉しいことだ。


嬉しい? そうだな、嬉しい。まるで自分のことのように、嬉しい。


「で、今日の晩飯は何にするんだ?」

「そうですねぇ…」

「そうねぇ…」

同時に考え始める二人。ほんとうに仲がいいんだな。

「先日TVで見た、肉巻きマカロニサラダなんていかがです?」

「いいわね! 美味しそうだったし、いいわね」

「それにキャベツさんの千切りとプチトマトを添えて…」

「あっさりめのワカメのお味噌汁を付けよっか?」

「決まりですね!」

「決まりね!」

という訳で本日のメニューも無事に決まり、買い物をすませ帰途につくのだった。


◇     ◇     ◇     ◇


「おかえり~! メイさん! 沙耶ちゃん! …と俊樹はいいや」

この男どもは、まぁた飯食いにきたのか。

「皆さんが来ると思って、ちゃんと準備してま~す!」

「本当に、厚かましい人たちね。ま、いっか。いつものことだし」

お前ら、順応してるな。本当に感心するよ。


「で、今日舞衣姉さんに渡された図面をどうするか、だ」

「司馬さん、それなんだけどさぁ…」

一成が進言する。

「これ、まだまだ改良できると思うんだよね。もし良かったら、任せてもらえるかなぁ?」

「よくぞ言った、一成! 俺は今、猛烈に感動しているッ!」

野村が一成を抱きしめる。おいおい、そのままだと一成が呼吸困難に陥るぞ?

「で、どういう方向に改良できるんだ?」

司馬が一成に問いかけた。

「そうだね。 …主に小型化かな? 扱いやすくもなると思うよ。実証実験には、前にアソビで超電磁砲(レールガン)を造った時の倉庫が使えるだろうし、時間さえ稼げれば、多分…」

ああ、あの爆発したやつか…。俺はおもわず頭を抱えた。

「俊樹クン、何か心配してる? 爆発したのはあくまで廉価版だから、ちゃんと造ったものであれば安全だよ」

人の心配を知ってか知らずか、一成がフォローを入れてきた。


「よぅし、次の手が決まった! 俺と野村は引き続き俊樹達おまえらの警護につく」

「おうさ!」

「村山は変わらず三田・井上了先輩の捜査を続けてくれ」

「あいよ!」

「一成は …忙しいだろうが、兵器おもちゃの制作とAAMY-Unitの詳細について調べてもらう。ありとあらゆるチャンネルを使え!」

「わかったよ」

「そして俊樹!」

「…はい」

「お前はメイさんと沙耶ちゃんの警護に加えて、一成のサポートだ。舞衣さんの特訓を受けながらになるが …できるな?」

「了解」


「みなさん、ご飯できましたよぉ!」

メイが部屋に入ってきた。

「異議な~し!」

そして今夜も更けていくのだった。

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