第二章-05

「いやぁ、それにしても」

宴会も中盤、銘酒『凱陣』を惜しげもなくコップに注ぎながら、司馬は言った。

「メイさんは本当にアンドロイドらしくない。非常に人間らしくて初々しい!」


「これで萌え要素が足されればいうことないね!」

と、一成。酒ひとくちで酔っ払いながら、意見を述べる。

「こう…何ていうのかな。語尾には元気よく『デス!』とか『ですの!』とかさ~」

「と言いますと、例えば…

『私、メイといいますの! よろしくお願いしますの!』

と、このような感じで宜しいのでしょうか?」

「いいや、違うね。こう… 目はパッチリとして、…そうそう。それでいい。で、『私、メイと言いマス! ごきげんよう、なのデス!』

…みたいな感じ?」

「『わたし、めいといいマス… ごきげん… よう…? なのデス…?』

…これでいいんですか?」

メイはメイで、こんな冗談をまっとうに受け入れてるし、一体どうしたものやら。

「そんなの気にしないほうがいいぞ、メイ。単なる冗談だ」


「そんなことはないぞ!」

野村が割り込んできた。

「あと、両腕は内側に。指先の力を抜いて、…そう。上半身と下半身のひねりは…こうだな!」

と、実践を交えながらメイにレクチャーしている。筋肉ダルマが『なよっ』としたって気色悪いだけだ。


「メイちゃんはもともと幼顔でかわいいんだからさ、ソコを活かしたほうが絶対いいって!」

村川がメイのややクセのある髪をかきあげながら言った。

「そうなのでしょうか?」

そんな村川の仕草に全く動じもせず、キョトンとした表情で答えるメイ。


「いいんじゃない? これくらいヒトと見分けがつかないアンドロイドなら、処世術も必要だわ」

「沙耶、お前もか。」

しかし、俺の抗議も虚しく、沙耶は続けた。

「私はね、ある意味俊樹にとってもいい刺激になると思うの。当然、最初は躊躇もしたわ。でもね、あなたの何処か壊れている大事な部分を埋めるのに、メイちゃんは大きなファクターになり得ると思うのよ」

沙耶、お前いつの間にリキュール飲んでるんだよ? 

言ってることはマトモに聞こえるけど、顔も耳も真っ赤だぞ?


「沙耶さんの許可も下りたことだし…」

司馬はいよいよ勢いづいて続けた。

「よぅし! 新たな富野研のアイドル誕生に、乾杯!」

「異議な~し!!」


こうしてメイのはじめての研究室訪問は、グダグダなままに大宴会へと突入するのだった。


◇    ◇    ◇    ◇


酒が入っている以上俺達は運転して帰るわけにもいかず、バイクには厳重に鍵をかけてタクシーで帰路についた。

「マスタぁ~、わたし、どうでしたかぁ~?」

酒臭い息を吐きながら、メイが聞いてくる。

ホント、酒で酔っ払うアンドロイドなんて聞いたこともないぞ。

「わたし、マスタぁ~のメイドとして、ちゃんと認められましたでしょうかぁ~?」

「ら~いじょうぶ、らいじょうぶ」

沙耶が助手席から割り込んできた。コイツも相当入ってんな。

「みんなひっかりと認知にんひひてくれたわよぉ~」

沙耶の手のひらがヒラヒラと舞っている。お前、もういいから寝ろ!


「あの~、ですね、ますたぁ~」

メイは俺によりかかりながら目を瞑った。

「なんだ」

「わたし、ちゃんとますたぁ~のために、しっかりとしたメイドになりますぅ~」

「そうかそうか」

「わたしはねぇ、ますたぁのいちばんになりたいんデス! これはまじめないしひょうめいなのデス!」

「ハイハイ、頑張れよ」

「わたし、わたしはですね~」

「なんだ、メイ」

「あの時の約束、忘れてませんからねぇ~」

「約束?」

「約束、ですよぉ~。くふふふふ…」

クスクスと笑いながら、名は小さな声で歌いだした。


デイジー、デイジー、ハイと言ってよ…

あなたへの想いに… おかしくなりそう…

洒落たお式は… ムリかもしれない

でもその時のあなたはきっとステキだよ…♪


俺の酔いが一気に冷めた。

メイが収まっていたメンテナンスボックスを開封した時はそうでもなかったのだが、メイの歌ったこの唄は…

「あのときの唄だ…」

俺は思わず、メイを揺り起こそうとしていた。

「メイ、おい、メイ?」

しかし、アパートにたどり着いてもなお、メイはマトモに起きようとはしなかった。

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