幕間 彼女の告白
第00話
卒業式。少女は緊張していた。送辞を務めるから、ではない。そもそも、今は式は終わっている。理由は東京の大学に進学する二つ上の幼馴染に告白をしようと思っていたからだ。
登校のとき、式が終わったら話があるから校舎裏に来て、と話をした。だから、彼女は一人、想い人が来るのを待っていた。けれども、彼はなかなかに来ない。こうして待っている時間。それが余計に彼女を緊張させた。
わたしとの約束、忘れちゃったのかな、と不安に思っていると、彼がやってきた。
「ごめん、友達と話してたら遅くなっちゃって。それで、話って何?」
「その、とりあえず、卒業、おめでとう」
優しく微笑みながらやってきた彼に彼女は自然に答えた。
本人を前にすると、動悸が激しくなり、手足も緊張で震え出していた。だからこそ、全く関係のない話をして、自分を落ち着かせようとしていた。
「長いこと待たせちゃったのかな?ごめんね」
けれど、そう言いながら彼が震えを寒さからと勘違いしたのか、制服のブレザーを肩にかけてくれた瞬間、想いが溢れてきた。
「わたしは優君のことが好き。付き合ってください」
だから、想いを告げ、頭を下げた。
そして、彼はしばらく逡巡した後、口を開いた。
「ごめん。気持ちは嬉しいけど、俺、今さら真梨のことをそんな風には見えない。ずっと、妹みたいに思ってたから。だから、その、本当にごめん」
物心ついたときからずっと一緒にいた優しいお兄ちゃん。けれど、気付いたら恋に落ちていた。何年も何年も自分の胸に潜めていた恋心。想いは届かないかもしれない。それでも離れ離れになる前に伝えたかった。それだけだったのに……。
彼女はゆっくりと顔を上げると、無理矢理に笑顔を作って彼へとブレザーを返しながら、
「何てね、冗談。優君が彼女できなくて寂しい思いをしないようにわたしが協力してあげようと思っただけだから、気にしないでね」
そう言った。そして、「東京でも元気でね」と続けてその場を逃げるように立ち去っていった。彼にだけは泣いている姿を見られたくない。そんな思いから。
けれど、彼は気付いていた。振り返り様に見えた頬を伝う一滴の涙に。だから、「待って」と引き止めたが、彼女はそれに気付かずに走り去っていってしまった。
彼女が泣きながら教室に戻ると、親友が待っていてくれた。その姿を見た瞬間、彼女はその場に崩れ落ち、声を上げて泣き始めた。
「明日香ぁ……、わたし、振られちゃった……。そんな風には見れない、妹みたい、って……。ああああぁぁぁぁぁ!」
親友は彼女に近付くと、優しく抱き締め、背中をさすった。
彼女の泣き声は校舎中に響き渡っていた。いつまでも、いつまでも。
親友は彼女が落ち着くまで、ずっと抱き締めていた。
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