幕間 少女の告白
第0話
二人の少女がいた。
一人は他人と違う嗜好を持っていたため、クラスメイト達からからかわれていた。
もう片方は名前が特徴的だったため、クラスメイト達からからかわれていた。
否、当人達にしてみればそれはいじめと同じだった。それ故、前者は自分の意思を覆い隠し、周囲に溶け込むようになった。後者は周囲を遠ざけ、一人で生活をしようとした。
そんな二人が中学で出会った。
周囲に溶け込む少女と、孤独な少女。本来なら繋がりなどできるはずなかった。しかし、周囲の反応とは反対に少女は孤独な少女に惹かれていった。そして、自ら近付くようになった。
しかし、二人の間には大きな隔たりがあった。
近付きたい少女と遠ざけたい少女。
いつまで経っても平行線のはずだった。近付こうとすればするほど遠ざかり、拒絶する。
しかし、そんな関係が大きく変わる出来事があった。
「わたしは雪村さんのことが好きです」
たったその一言。少女の勇気を振り絞った告白。それが二人の運命を大きく変えた。
小学時代を少女は思い出した。このことが原因で周囲にいじめられたことを。
だから、少女は近付きたい、という気持ちを抑え込んで、距離を取る様になった。
その結果、雪村と呼ばれた少女は願っていた通り、一人での生活が戻ってきた。これで、全てが丸く収まるはずだった。
けれども、雪村にとって予想外の出来事があった。
理想通り、願っていたことのはずなのに、なぜか心に空白が生まれていた。いつも自分に付きまとっていた少女の居場所が雪村の中にできていた。
それに気付いてしまった雪村はとある放課後、少女を校舎裏に呼び出した。
「ウザイ……。本当にウザイ!あんたって一体何なの!?しつこく付きまとってきたくせにいきなり離れて行って……。わたしは、一人でもいい、一人がよかった!それなのに……、それなのに!あんたのせいで一人でどう過ごしたらいいのか分からなくなった!何?わたしのことが好き?そんなのどうでもいい!あんたは今まで通りいなさいよ!!」
雪村は大声で少女に心の内を吐露した。けれども、少女は雪村の言葉に答えることができないでいた。
雪村の言葉は嬉しい。けれど、きっと、好きの意味を取り違えている。少女は恋愛感情として雪村に好き、と言った。しかし、雪村には友人として好き、と取られている。そう少女は思っていた。
だから、例え嫌われようとも、ここまで言ってくれた雪村にちゃんと伝えようと思った。それなのに、過去のいじめを思い出し、言葉をつむぐことができずにいた。
「黙っていないで何か言いなさいよ!」
ずっと黙っている少女に雪村は追い討ちをかけるようにそう言った。
少女は何度か口を開き、それでも何も言えずにいたが、雪村がそれ以上何も言わず、自分を待っていてくれていると気付き、声を絞り出した。
「で、でも、わたしは、その……雪村さんに恋、してる……。だから……」
「気持ち悪っ……」
勇気を出して言ったが、その途中で小さく発せられた雪村の言葉。それに少女は傷ついてその場を逃げ出してしまった。
けれども、その途中で腕を掴まれ、壁に押し付けられた。そして、頭の横に手をドン、と叩きつけられた。
「気持ち悪い。あんたが女のくせに女が好きなレズとか気持ち悪い。けど、そんなの関係ない。人の感情とか無視して、図々しく人の心に土足で入ってきて、勝手に居場所を作ったのはあんたなんだから、責任取りなさいよ、竹田涼!!」
その言葉に少女、竹田は涙を流してしまった。
今まで受け入れられたことがなかったことが初めて受け入れられるかもしれない。そう思っただけで涙が自然と溢れ出してきた。
それを見た雪村は渋い表情をして視線を逸らしてしまった。
「わたし、本当に雪村さんの傍にいてもいいの?」
「勝手にすればいいじゃない。わたしの中にはすでにあんたの居場所があるんだから。むしろ、勝手にいなくなられるほうが迷惑。ほかにどんな変な趣味とかあってもわたしの中にはあんたがいる。これは変えられない。だから、どんなあんただって受け入れてあげるわよ」
不安そうに聞く竹田に雪村は素直に自分の気持ちを伝えた。
「ありのままのボクでいいの……?」
その言葉に何重にも重ねていた仮面を外した竹田は素の、ありのままの言葉で問いかけた。それに対し雪村は小さく「勝手にしなさいよ」と答えると、竹田は涙を流しながら雪村に抱きついた。
大きな声を上げながら雪村の胸で竹田は泣き続けた。雪村はどう対処していいのか分からず、呆然としていたが、
「制服が汚れるから離れて」
と、何とか口にしつつも、そのままの体勢で竹田が落ち着くのを待っていた。
こうして二人は親友となった。
竹田は雪村の言葉で救われ、他人の顔色ばかりを窺うようなことはなくなった。そして、元来の明るさが戻ってきた。
雪村の心の中にあった固く、凍りついた氷は涼と共にいることで少しずつ溶け出し、周囲への刺々しさは自然と消えていった。
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